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第15話 明かされるゲーム内容

「どういうこと?」

 俺の右手に光る紋章を見て、ヘルザが冷たい声で詰め寄る。

 細く白い人差し指を俺の胸に突き刺さんばかりの勢いだ。


 ダークエルフがブルブルと震えて顔面蒼白になっているが、ヘルザの鬼気迫る勢いに押されて、それに構ってはいられない。


「こ…こういう事だよ。俺は別に自分がNPCだとは一言も言っていない。確かに勘違いはさせたかもしれないけど、それも皆をすぐに船へと誘導するためだ。亜人のプレイヤーが殺されてしまう前に船に乗せるのが一番の課題だったんだ。だろ?」

 それは後付けの言い訳だけど、こう言っていた方が好感も持てるだろうし、これくらいの嘘は良いよね。


「たしかに…青薔薇の騎士様は…」

 エリシオスはそこまで言ってから俺の顔を見て困った顔をした。


 恐らく俺の呼び方で迷っているのだろう。俺としてはどっちでも良いんだけどね。同じプレイヤー同士だとわかったんだし、名前で良いのかな。


「ジャックで良い」

 俺がそう言うとエリシオスは嬉しそうに頷いた。


「たしかに、ジャックはあの場では嘘はついていない。亜人のプレイヤーを助ける方法としてはジャックの行動は一番の選択だったんじゃないかな。それとも、君なら他に良い方法が思いついたのかい?」

 エリシオスは目にかかっていた前髪を指で撫で上げながら耳にかけると、涼しげな瞳でヘルザを見つめた。


「なっ!? あったかもしれないわ! でも、そうね! 結果だけ見れば悪くは無かったのかもしれないわ!」

 ヘルザは腕を組んでふんぞり返ると、フスっと大きな鼻息を漏らして肩を下げた。


「むしろ、これ以上ないくらいの結果だろう。大勢の人間が武器を抜いたのにも関わらず、誰も血すら流しておらんのだ。我輩達の中に、あの場を同じ様に切り抜けられたものが果たしていたのだろうか。この結果はジャックだからこその物であろう。お主も敗けを認めざるを得まい」


「ぐぬぬぬぬ…」

 ボンズの言葉にヘルザが声にならない声を上げると、今度はフルーラが首を降った。


「勝ち負けの問題ではない。ジャックは実際に1000人以上の人間の命を救った。それが事実。それは認めるべき」

 

「別に認めていないわけじゃないわよ。ただ、まんまと騙されていた自分に腹が立つだけ」

 ヘルザは腕を組んだまま顎を上げてそっぽを向いて、ふん。と鼻をならした。


「やっぱりジャック様は…。プレイヤーだったのですね」

 ナーサは感情の読み辛い表情で俺を見つめて小さく呟いた。


 ナーサには悟りのスキルとかいう心の声が聞こえるスキルがあると言っていたし、薄々気が付いていたのかもしれない。


「しかし、キャラクタークリエイトをかなりやり込んだのだな。確実にこのゲームのメインキャラかと思ったぞ。良くもそんなに美形のキャラクターが作れたものだな。1日2日で作れるキャラには見えん。運営が広告塔として打ち出すために総力を上げて作ったキャラだと思ったぞ。」

 アポロンの言葉に、俺は溜め息をつきながら半笑いで首を降る。


「ランダムクリエイトだ」

 俺の言葉の後、皆が揃ってアダムを不憫な表情で見つめた。


「ランダムクリエイトはハズレしか無いと聞いたけど、良かったわね」


「本当に良かった…」ヘルザの言葉に心からの同意を示すと、アダムが大きく咳払いをした。


「私は気に入っていますので…一応申し上げておきますけれど、天使という種族はかなりのレア種族なのですよ。『天啓』というスキルで神の声をも聞くことが出来ますしね」


「天啓だと?」

 アダムの言葉にアポロンが質問を返すと、アダムは大きく頷いた。


「はい。ジャック君を助け、ジャック君に仕えろという指示も、天啓スキルによるものです。彼がこの大陸の中心人物となり、この大陸から世界に落ちる影を払う人物になるから傍で支えろと」

 アダムの言葉に再び皆がざわめく。


「この大陸の中心人物か…」

 エリシオスが顎に手を当てて何かを考え込むような仕草で呟くと、ヘルザが俺に視線を向ける。


「あんたメインキャラにでもキャラリンクしたんじゃないの?」


「それなんだが…そのキャラリンクシステムに当たった外れたは、どうやってわかるんだ?」

 俺が皆に向かって問いかけると、皆が再び驚いて俺を見つめる。


「まさかとは思うが、事前の利用規約や説明など、何も読んではおらんのか?」

 ボンズが静かな声で俺に問いかける。


 俺がそれに頷きで返すと、ヘルザがわざとらしく頭を抱えて見せた。

 

「驚きね。命がかかったゲームよ。本当に何も読んではいないの? 本当に呆れる程バカなのね」


「え? ちょっと待った。命がかかった?」

 俺が驚いて聞き返すと、フルーラが俺の肩に手を置いて頷いた。


「落ち着いて聞いてね。このゲームの中での死は、現実世界での死をも意味する。これは只のVRゲームじゃない。VRゲームを介して行われた異世界転移なんだよ」


 どういう事だよ。異世界転移? ここでの死は現実での死に繋がる? 全く意味がわからない。そんなことあるわけがない。


「だってこれは…これはVRゲームだろ?」

 俺が混乱したままの表情を隠さずにそう呟くと、ヘルザが首をふった。


「あんた、VRゲームをやったことはあるの? 確かにあれは凄い技術だし、ゲームの中に入り込んだような錯覚を覚えることもある。でもあれはヘッドギアを付けている間だけの物で、ヘッドギアを取れば周りは現実世界だとすぐにわかるものよ」


「ああ、それはわかる。このゲームもそうなんだろう?」


「はぁ…。全く解っていないわ。じゃああんた。今この場でヘッドギアが取れるの?」


 ヘルザの言葉を受けて、俺は自らの頭に手を伸ばす。


 しかしそこには、当然のように何もなかった。

 頭には髪の毛の感触以外には何もない。


「そもそも、VRゲームで五感が全て働く訳が無いじゃない。現代文明はそこまで進んではいないわよ。視覚と聴覚は、まあ、VRゲームも頑張ってはいるわね。でもやっぱり、あれはゲームなのだとわかる程度の物よ。この世界をゲームで再現出来る訳がない。触覚。嗅覚。味覚なんて夢のまた夢。現代では再現不可能の技術よ」


 確かに俺は、初めてのゲームをプレイすることに受かれていてあまり考えないようにしていたが、これがVRゲームであるのはおかしい。


 目覚めた洞窟でも感じた、ダークエルフを手込めにしようと暴れる山賊達の汗くさい臭いと鼻の中の鉄分のツンとした匂い、服の中や髪の毛の間に入り込んでいた砂のザラザラとした感触、そして口の中に広がる血の味。


 どれも、頭に装着したヘッドギアだけで再現するのは不可能な技術だ。


 初めから違和感はあったはずなのに、俺は浮かれすぎて考えないようにしていただけなのか。


「ログアウトは、出来ないのか?」

 このゲームを、このジャック(キャラクター)で続けていかなければならないのか?


 俺が青ざめた表情のまま皆に向かって尋ねると、アダムが口を開いた。


「ログアウト…現実世界に帰る事は出来ます。ただし、その時間は決まっています。3日毎に3分間。ああ、これは3分間だけ帰れると言う意味ではなく、この世界にいる間の3日間が現実の世界での3分間となり、現実世界で過ごす3日間がこちらの世界での3分間になるのです。時間の進み方をおかしく感じるでしょうが、どちらの世界の時間も私達プレイヤーに合わせて動くと言うことです」


 どういう意味だ。全く意味がわからない。俺が眉をひそめて首を振ると、アダムは小さく溜息を吐いた。


「深く考えても無駄ですよ。全ては神の意思によるものです。私達の考えの及ぶ事ではありません。まあ、天使である私には、何となく理解は出来ますがね」


「ちなみに、私たちのいない世界での3分間、私達はそれぞれの世界にはいないことになる。つまり、今もとの世界に私達は存在していない。これを空白の3分間と呼ぶらしい」

 鼻高々といったアダムを無視するように、フルーラはそう補足してくれるが、そもそもの意味を理解していない俺には何も理解できない。


 でもまあ、ログアウト出来るなら再ログインしなければ良いだけの話なのか。

 ゲームに命なんてかけられないし。


 俺がそう結論付けると、ナーサが首をふった。


 あ、こいつ俺の頭の中の声を聞いたな…


「聞いたのではなく、聞こえるのです!」

 ナーサはそう言って地団駄を踏むが、俺はそれを今一信用できない。

 可愛い仕草をしたら許されると思うなよ。他人の頭を除き混むスケベさんめ。

 見た感じ年端も行かぬ少女だが、現実世界ではわからない。童貞キラーのエロエロ美熟女の可能性だってある。


「なななな…! 何て事を考えているんですかっ! 違いますっ! 中学生ですっ! それよりも! この異世界転移は、一度始めてしまえば自分の意志で終わることは出来ません。先程の3日と3分のループを繰り返すことになるのです。この異世界の闇を払い、この神の用意したゲームをクリアするまでは!」


「は?」

 ナーサの言葉に俺は間の抜けた声を上げる。


「神の用意したゲームだって? そんな馬鹿げた事を信じるのか? お前たちも?」

 俺がナーサや他の皆に向かって問いかけると、皆はそれぞれ微妙な表情を見せた。


「信じられないの? 現に今こうして、ありえない状況に身をおかれているのに?」

 俺の問いかけの後の沈黙を一番に破ったのはヘルザだった。


 それは…それは確かにそうだけど…。


「でも、おかしくないか? さっきまでは、皆ゲームのように楽しんでいたじゃないか。エリシオスはどうなんだ? これがVRゲームだと、ハッキリと口にしていたよな?」

 俺がエリシオスを見つめると、エリシオスは顎に手を当てて考えるのをやめて俺に向き直った。


「うん。多分これは、利用規約にもあった一日目の思考制限によるものかもしれないね。この世界に来て24時間が経って、この会議室の中にいる間にそれが解除されたんだよ。皆もそうじゃないのかい?」

 エリシオスが皆に向かって問いかけると、ボンズが頷いた。


「これが思考制限の意味なのか…。プレイヤーの大きな混乱を避けるため、思考を少しずつ解放していくと言っておったな。初めの3日間は慣らし期間で、思考の制限を少しずつ解除していくと」


「24時間が経過した今、それが解除された為にこれがゲームではないと解るようになったのだな。我も今の今まで、ここが異世界であることを忘れていたようだ」

 アポロンが頷きながら溜め息をつくと、エリシオスが呟く。


「今頃船内では、その事を思い出して混乱し始めたプレイヤーもいるだろうね。もちろん。全ての思考制限が解除されていない今、そこまでの混乱は起きないのだろうけれど」

 皆がその言葉に黙って頷くが、俺は素直に納得は出来ない。

 

 俺はこのゲームを直ぐにでも引退するつもりだったのだ。なのに、それが出来ないだって? 利用規約を良く読んでおくべきだった。

 思考制限が掛かっていなくても、利用規約を読んでいない俺に思い出すことは何もない。


 いや、これがVRゲームだとすっかり思い込んでいたのは、思考制限によるものなのか、今ならハッキリと解る。これがVRゲームであるはずがない。


 そうであるならば、俺が手にかけた山賊達はゲームのキャラクターではなく、この世界の住人だったという訳だ。


 それを、俺は殺した…。


 でも、あいつらは悪党なのだし、俺も殺されかけたのだから仕方の無い事と言えばそれまでなのだろうか。開き直るのは難しいが、かと言って深く考えるような事でもない。


 そして俺の隣で未だ青ざめたままガクガクと震えているこのダークエルフも、ゲームのキャラクターではなく、この世界に生きる一人の人間と言う事になる。


 俺はダークエルフを見つめて思い出す。


「ログアウトは、出来るんだよな?」

 俺が皆に向かって再び問いかけると、皆が俺に向き直った。それを確認してから言葉を続ける。


「キャラクターの変更は、絶対に出来ないのか? 俺は、俺はこのキャラクターのままではプレイを続けられないと思う」


「なんでよ?」

 俺の問いかけにヘルザが質問を返した。


「そのキャラリンクシステムとかいうのに当たっていて、最悪の設定が付いている可能性があるんだ。プレイを続けるにしても、このキャラクターは不味い」

 俺が力一杯に首を振ると、ナーサが横から大きな声で叫んだ。


「そ! それは私も気になりますっ! キャラリンクシステムによって性格や考え方が変わってしまうとお聞きしましたがっ! それは現実世界でも反映されるのでしょうかっ!?」

 突然の大声での質問に、俺を含めた皆が驚いてナーサを見つめた。


「あっ! あの! その…。私はキャラリンクシステムに当たった訳ではないのですが、天使とキャラリンクしたアダムさんや、死神とキャラリンクしたヘルザさんが心配なのです! もしかすると、現実世界では浮いてしまうような考え方や、価値観を持ってしまっているかもしれませんっ! 私…その事が心配で…。もし私の知らない方法でも、キャラクターの変更が出来るのであれば…。お二人の為にも…。と思って」

 次第に先細りになっていく声と、涙しながら訴えるナーサを見て、ヘルザは優しい笑顔を浮かべて答える。


「フフッ。貴女、中学生にしてはシッカリしているし、とっても優しいのね。貴女にも一度説明したけれど、キャラクターの変更は絶対に無理なのよ。でも私は大丈夫。気遣ってくれてありがとうね。」

 ヘルザはそう言いながら、ナーサの肩を優しく抱いた。

 ヘルザのツンデレ属性を一瞬にして打ち消して、聖女のような優しさを持つ姉の表情を作らせるとは…。ナーサの妹属性値は高いな。


 しかし、それでは困る。現実世界に戻る事が出来たとしても、再びこの世界に強制的に転移させられてしまうのであれば、キャラクタークリエイトのやり直しは必須だ。


「特殊な種族であるという天使のアダムなら、何かの方法を知っていたりはしないのか?」


「残念ながら、それは不可能です。そのキャラクターで始めたのなら、最後までそのキャラクターで続けるしかありません」

 頼みの綱であったアダムの言葉に、俺はガックリと肩を落として項垂れる。


「なに、心配はいらない。このアダムを頼りなさい。貴方の事はこのアダムが確りと守りましょう。神からその啓示も受けているのですから! ね!」

 アダムはそう言って胸を叩いた。

 正確には胸にあった目を叩いて自らの目を潰してのたうち回っている。


 こんなやつ便りにならない。なるわけがない。お前、本当に強いのかよ。


「そもそも、多分って何? キャラリンクしているのかはちゃんと確認したの?」

 床を転げ回るアダムに冷ややかな視線を向けて、ヘルザが俺に問いかける。


「確認? どうやって確認するんだ? 確認する方法があるのか?」

 俺が喰い気味に尋ねると、ヘルザは一歩後ずさって小さく頷いた。


「そのキャラの元々の記憶は頭に入ってこなかったの? それか…そうね。ステータスを見れば良いじゃない」


 なんだと!?ステータス!?

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