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第1話 あなたは選ばれました。

 俺は大きな溜め息と共に仰向けにベッドへと倒れ込んだ。


 枕とシーツから香る爽やかな香りに包まれながら、安いビジネスホテルの、古くなり汚れた天井のシミに向かって小さくうめき声を漏らすと、ゆっくりと目を閉じる。


 俺は、この4月から高校に入学する事が決まっている。


 父が仕事の都合で海外に赴任することになり、家族は父に連れ添って海外行きを決めた。

 それとは対照的に、日本に残ることを決めた俺は、親元を離れ入学できそうであった東京都にある中高大学一貫の私立学校に編入する事が決まっている。


 新学期は明後日から始まる。

 その為に暮らす下宿先からの迎えが来る前日に、駅の隣にあった安いビジネスホテルに前乗りをしていると言うわけだ。


 下宿先は学校から1駅離れた場所にあり、駅までは歩いて5分という好立地らしい。母の幼馴染みの管理する家らしいが、家賃は不要で好きに使ってくれて良いという。


 都心部にある家を家賃も取らずに簡単に貸してくれるとは、いったいどんな人物なのだろう。明日迎えが来て実際に会うまではそれもわからない。


 母が相手の人に俺の写真を渡してあるらしいので、明日の朝一番に駅に突っ立っておけば、あちらから声を掛けてくれる事になっている。


 そこで再び溜め息をつくと、 新しく買って貰ったばかりのスマホが軽快な音を鳴らしてブルブルと震えだす。


 俺が選んだのは最新式のゲームプレイに特化したスマホだ。最近流行り始めたVRのゲームにも対応していて、専用の装置を別に買えば、それがこのスマホでプレイできると言うのだ。


 スマホの画面を見ると、スマホが震えたのは新しいアプリのゲーム開始時間が間近に迫った為なのだと気付く。


 通知をタップしてみると、画面が一瞬真っ黒になり、直ぐにアプリのタイトルロゴが現れる。


 【アナザーワールドオンライン】


 俺はそのタイトルを見て少しだけ顔を綻ばせる。

 アナザーワールドオンラインとは、今日リリースされたばかりの、少しだけダークな世界観を持ったVR MMO RPGゲームだ。

 先行でプレイした人々のレビューによれば、めちゃくちゃリアルで、まるで本当に異世界に降り立ったような錯覚を覚えるとあった。そのレビューはどれも高評価で、俺はこのゲームをやりたいが為にこの最新のスマホを買ったのだと思い出す。


 俺が画面に表示されたタイトルロゴをタップすると、画面には「貴方は選ばれました。」の文字が浮かび上がる。


 《おめでとうございます!あなたはアナザーワールドオンラインの世界へ招待されました!》


 新しいゲームの始まりを期待させる言葉に、俺は嬉しくなって顔を綻ばせる。楽しみにしていたゲーム程、起動した時の感動は大きい。


 《但し!その場合の注意事項もございます。アナザーワールドの世界へ招待されたあなたには、それに伴うルールもあるのです。注意事項を良く読み、ご理解、ご了承された方のみ、同意ボタンを押してキャラクタークリエイト画面へと進んでください。》


 良くある注意事項だろうと高を括った俺は、何時ものアプリゲームと同じように、注意事項を読みもせずにサラサラと画面を流して同意ボタンを押し、キャラクタークリエイト画面へと進む。


 アナザーワールドオンラインのキャラクタークリエイトは、本当に自由にキャラクターを作ることが出来るようだ。


 眉や目だけでなく、足の指の長さや爪の形まで、身体を形成するすべてのパーツを其々何百万通りの中から選んで、配置する場所や角度、その大きさまで選択できる。


 自分と全く同じ外見のキャラクターも作れるらしく、自分を作って異世界転移プレイや、成りたい自分や憧れの芸能人に寄せてのなりきりプレイ。更には目や鼻や口をお腹に付けたり、肌の色を奇抜にしたりと、人外プレイ何てのも出来る。

 自分の思い通りのキャラでゲームの世界を冒険できる。正にロールプレイングゲームだ。


 しかしそのあまりの作業の多さに目眩をおぼえた俺は、面倒臭くなってランダムクリエイトを選択する。


 いつの間にか出来上がっていた物凄く不細工なキャラクターの見た目がぎゅるぎゅると形を変えていくのを見守っていると、一分程でそれが終了して、ゴクリと息を呑んだ。


 どうやらランダムクリエイトが大成功したようだ。


 185センチの身長に長い足と引き締まった筋肉を併せ持つ、何処か憂いを帯びた美男子が、パンツ一丁で此方を見ている。


 少しパーマのかかった、耳にかかる程の長さの銀髪。左のこめかみからは、お洒落なのかそこだけ三編みにされた長い髪が肩まで伸びている。


 キリッとした眉の下で長い睫毛と共に時折瞬かせている瞳は、夏の光を浴びて輝く南国の海の様に青く澄んでいる。


 顔だけ見れば女性のようにも見える程の絶世の美男子だ。このゲームのランダムクリエイトは良い仕事をするようだ。


 この完成された美男子に暫く見惚れて、そのデータを消してしまうのが躊躇われた俺は、そのまま登録ボタンを押してキャラクターの名前もランダムクリエイトで決める事にする。


「《ジャック》で良いですか?」


 そのままyesを選択した後、ゲームをプレイする為に、慌ててヘッドギアを取りつけ手探りでベッドの上へと戻り、壁にもたれて座ってから、画面のスタートボタンを押す。


【全てのプレイヤーが揃い次第、ゲームを開始いたします。そのままでお待ちください。】


 全てのプレイヤーのキャラクタークリエイトが終わり次第、ゲームが開始するのだろうか。俺は思案しながらため息を吐き、天井を仰いだ。


 長い待ち時間に眠気が襲い掛かり、コクリコクリと船をこぐ。

 これから自らに降りかかる事など、何も解らずに。

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