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魔導の残骸  作者: 清澄 武
26/40

第26話 鐘の音が聞こえる

評価していただきありがとうございます!



 徐々に校舎内のあちこちが騒がしくなる。

 周りが騒然とする中、なぜかはわからないけど私は漠然と不安だけが募っていく。

 なんだ……。なにか嫌な予感がする。


 教室の中もだんだんと騒がしくなってきた。

 窓の外を見たクラスメイトたちがなにか騒いでいる。


「ね、ねえ、なんなのあれ」

「すげえ……飛行船……か?」

「いや、なんか生き物みたいにも見えるけど……」


 クラスメイト達は口々にそんな要領を得ないことを言い合っている。

 みんなが外を見る中、私は教室の中を見ていた。

 口々に驚きや戸惑いを表明する彼ら。どうしてかわからないけど、私にはその様子がどこか遠い場所の出来事のように感じられた。

 私はなぜか窓の外に顔を向けることができなかった。


「それになんなの、さっきからずっと鳴ってるこの鐘の音は……」


 クラスの誰かが言った。

 そうだ。鐘の音だ。さっきからずっと鐘の音が聞こえる。

 学校のチャイムじゃない。どこかの教会の鐘の音がそこら中から聞こえてくる。……まるで世界中に鳴り響いているみたいに。

 いったいなにが起こってるの……?


 急に教室内が薄暗くなる。まるで突然、夜にでもなったみたいに。

 その時になって私はやっと窓の外を見ることができた。

 暗い校庭。とても昼間とは思えない。太陽が雲に隠れて日が陰ったとか、そんなレベルじゃない。暗い。明らかに光が遮られている暗さ。まるで夜。

 空を見上げた。なにかがいる。とてつもなく大きい。それは空全体を隠す楕円形の黒い塊。それは学校の上空で静止していた。

 私は始め、それがなんだかわからなかった。

 ただとてつもなく巨大な黒色のなにかが空を覆い尽くしていること以外は。

 なにも理解できない私は無意識につぐの方を見ていた。もしかしたら空のあれを見たくなかっただけなのかも。わからない。とにかく私はつぐを見た。

 つぐはその得体の知れないなにかを見上げながら固まっていた。少女の顔を驚愕が塗り潰していた。つぐのあんな顔、今まで見たことがない。


 その時になって私はやっと気づいた。あの塊から発せられる異次元の力を。それは、皮膚にビリビリと伝わってくる、寒気を伴う、……すごく嫌な感覚だった。

 これは……魔力……なの?

 いや……そんなはずは……。

 私はよく目を凝らして空の黒い塊を見た。

 その周囲には空の遥か上空へ向かって魔力の柱が上っている。

 私……いや、つぐさえも遥かに凌駕する異次元の魔力が黒い物体から放たれ続ける。まるでこの世界の魔力をその一点に集中させたかのような異常な魔力量。


 なんなの……。どうなってるの……?

 つぐは呆然としたまま、なにも言葉を発しない。微動だにもしない。


「なんなんだろう? なんかのイベントかな?」

「ねえねえ動画撮っとこうよ!」

「お前すげーなこんな時に」

「俺もう写真SNSに上げたわ」


 口々に好き勝手なことを言い合うクラスメイトたちのざわつきが、無性に癇に障る。私は明らかに苛ついていた。冷静じゃない自分に気づきながらも全く冷静になれないでいた。それがまた私を苛つかせた。


 気持ちを落ち着かせようと、クラスの子たちから目をそらし、窓の外へ目を向けたところで、ここに居てはいけない人物――いや、人ではないか――と目が合った。その白い小さな影は、私を見るなり、


「逃げるんだ律火!」


 私は状況に頭が追いつかず、ぼうっとネロアの顔を見ていた。


「なにしてるんだよ早く! ほら!


 ネロアは当たり前のように窓から教室に入ってくると、強引に私の手を引っ張る。


「ってネロア! なにやってんのこんなとこで!?」


 猫型の不思議生物をクラスメイトに見られないよう、私は慌ててネロアの体を腕の中に隠すように抱え込んだ。そして小声で、


「ちょっと、なにしてんのネロア。みんなに見つかったらどうするのよ」

「つぐ! しっかりするんだつぐっ!」


 腕の中のネロアはそんなことはお構い無しに今度はつぐに叫ぶ。


「ちょっと! あなた正気なの!?」

「いいからこの場を離れるんだっ!」

「あっ! 待ちなさい!」


 暴れまわって腕の中を飛び出したネロアが、今度はつぐの腕を引っ張る。

 つぐはさっきからずっと同じ顔で固まったままだ。打ち付けられたように空に釘付けになっている。


「大丈夫かい、つぐ! しっかりして!」

「あ……ネロア……」


 つぐの声は消え入りそうだった。


「君なら今がどういう状況かわかるだろう。さあ!」


 つぐの手を強引に引き上げ、窓から飛び出そうとするネロア。


「り……律火ぁっ!」


 かすれた声で叫ぶと、つぐの全身が最大級の魔力に包まれ、瞬時に窓から飛び出した。


「ちょっ、なにしてんのよつぐまで! ここは学校なのよ!?」

「飛んで! 律火!」

「は、はあ? そんなことできるわけ――」

「黙って!」


 小さな少女は、いまだかつて見たことのない剣幕で叫んだ。

 ど、どうしたっていうのよ……。

 有無を言わさぬその物言いに、一瞬たじろぎそうになりつつも、ただ事ではない彼女の様子に、私は反論することなく無言で窓から飛び立とうと、サッシに手をかける。


「はいはい、わかっ――おわっ!?」


 窓から飛び出そうとした私の腕を、つぐが強引に引っ張り上げる。つぐは、すぐさま窓から離れるように校庭側へ数メートル飛ぶと、


「聖ちゃーーーーーーーーーーーん!」


 校舎全体に届きそうなとんでもない大声でつぐが叫ぶ。

 わずかな間を置いて階下の窓から聖さんが黒髪を揺らして飛んでくる。そして私たちの前に来ると、硬い表情で黙り込んだ。彼女も明らかに動揺していた。


「ど、どうなってるのいったい……。空に浮かんでるあれはなんなの? それにこの鐘の音は……」


 鐘の音は絶えず鳴り響く。暗い校庭に。いやこの世界全体に。

 空を飛ぶ私たちを見て、クラスメイトたちが騒ぎ出す。


「説明は後だ! すぐにこの場を離脱する! ついてきて!」」


 ネロアはなにも言わずに飛び立とうとする。上空で静止するあんな気になるものを放置していったいどこへ行くっていうんだろう。ちょっとくらい教えてくれてもいいのに。


「待ってネロア! 空のあれはなんなの?」

「説明してる暇はない。行こう!」

「行くってどこへ?」

「蜜姫と合流する!」


 蜜姫の通う中学は私たちとは別。とはいえ同じ街の中にあるのでそう遠くない。


「蜜姫と? なんでまた」

「今は少しでも戦力が多い方がいい」

「戦力……? なんの話?」

「ね、ねえ! 空の黒いのが!」


 聖さんに言われて上空を見上げると、巨大な塊がゆらゆらと震える。


「なに……?」


 固唾を飲んで凝視していると、その全身から地響きのような低い低い轟音が鳴る。校舎の窓ガラスが割れそうなほどにビリビリと震える。

 背筋の凍えるような不快な轟音に、とっさに耳をふさぐも、頭のてっぺんまで振動が伝わり、軽くめまいを起こしそうになる。


「だ、大丈夫かいみんな?」

「うるっさいわね……。な、なんなのよ、この音は……」

「……ひどい音量。こんなところにずっといたら倒れそうだね」

「ずいぶん元気なのね。あの大きいの」


 校舎の中から堰を切ったような絶叫が溢れる。どうやら今のでいくらかの生徒がパニックを起こしたようだ。昇降口からは何人かの生徒が走り出し、校外へ逃げていく。


「ねえ、さっき見たんだけどさ。あの塊、とんでもない魔力だったよ。戦う?」

「駄目! 勝てない!」

「なにを考えてるんだ!」


 つぐとネロアにえらい剣幕で同時に詰め寄られ、焦った私は両手で二人を制しながら、


「じょ、冗談よ。落ち着いて二人とも」

「ね、ねえ、なにか様子が変だわ!」


 上空で静止していた楕円形の黒い塊の一端がボコボコと泡を立てるように動く。

 表面やや上部の黒い皮が開き、中から信じられないサイズの二つの目玉が現れる。大人数人が横に並んでもすっぽりと入れてしまうくらいのとんでもなく巨大な目玉。

 血走った赤い眼球がなにを見ているかわからない気色の悪い動きでぎょろぎょろと四方八方へ移動する。


 さらに、目の下、塊の前方がパクリと横に割れ、その裂け目は次第に楕円の中央付近にまで達する。地獄の底まで続いていそうな暗黒の口がぽっかりと開く。

 なんて大きな口……。

 まるで校舎ごと飲み込めるんじゃないかと思えるほどの、とてつもなく巨大な口に光が集まっていく。


「な、なに……? ね、ねえ! あいつなんかやってるみたいだけど」

「なっ!? ま、まずい! 逃げるんだ、みん――」


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