表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

冬の童話集

かみさまの すむ き

作者: たろんぱす

全編平仮名表記、台詞部分の人名のみ片仮名表記となっております。


読み難いかとは思いますが、ご了承下さい。

わたしは さいしょ ひとつの どんぐりだった。


まどろみながら ふゆをこし

めをさますと ふたつのはっぱに なっていた。


はっぱの あいだから またはっぱがでて

それがふたつにわれて。


はる なつ あき ふゆ くりかえして

わたしはひとつの きに なった。




はるに めぶき

なつに おいしげり

あきに どんぐりをつけて

ふゆに まどろむ。


そうして それをひゃっかい くりかえしたころ。


わたしの あしもとに みちができた。


おおくのひとが わたしのまえを とおりすぎた。


あめのひは わたしであまやどりして

あついひは こかげでひとやすみした。


こどもたちは どんぐりをひろって

さむいひは あまりひとがとおらなかった。




そのひは とてもさむかった。


ゆきが ふりつづけて

わたしのあしは うまってしまっていた。


ひとりのおとこが ふらり ふらり とあるいてきて

わたしの うまった あしもとで

からだを まぁるくして うごかなくなった。


はめていた うでわをはずし

りょうてで にぎって つぶやいた。


「アイシャ、トリシャ、ごめんなぁ。あいたいなぁ。

ずっとずっと、あいしているよ。アイシャ、トリシャ……」




おとこが おきることは もうなかった。


はるが ちかくなって ひとがとおりはじめ

おとこは こころあるひとたちによって

わたしのあしもとに うめられた。


にもつがないから なまえもわからず

ぼひょうもなく うめられた。


だけど ひとつだけ。

わたしのあしもとには あのうでわが おちていた。


ねにかくれて みえなかったのだろう。

このままでは いつか つちにのまれてしまうだろう。


いいよ。

わたしが あなたの ぼひょうになろう。


とりさん とりさん。

そのうでわを わたしのえだに かけておくれ。


あいしゃ と とりしゃ。


もしきたら えだはをゆらして おしえてあげよう。


なぜかって?


むしも ひとも はかなき いのち。

あわれで かなしく いとしいのさ。




とおるひとの はなしを しずかに ききつづける。


なんかい きせつが めぐっても。


たのしいはなしも

かなしいはなしも

おこったはなしも

うれしいはなしも


しずかに しずかに ききつづける。


だけど あいしゃ と とりしゃ は

あらわれない。




そうして きせつは ごじゅっかいも まわった。




なつの あついひ。


こかげにひとり むすめが すわりこんだ。


すいとうを くちにあて うえをむく。


ちょうど うでわが きらりと はんしゃした。


「え?」


まぶしそうに めをほそめて

むすめは うでわを よくみつめた。


それから あわてて じぶんのうでから うでわをぬいた。


「え?おなじ?アイシャおばぁちゃんのかたみと、おなじやつ?」


あいしゃ。


あいしゃ!


わたしは えだはをゆらして うでわをおとした。


むすめは おどろいていたが

すぐに うでわを ひろった。


うでわのうらを のぞきこむ。


「“あいするアイシャ、トリシャ”……やっぱり、ジルドおじぃちゃんのだ…!」


むすめは ひとすじの なみだをながすと

わたしを やさしく なではじめた。


「あなたが、ずっともっていてくれたの?」




むすめは かたりだす。


おじぃちゃんは ぎょうしょうにんだったこと。


とうぞくに おそわれて

にばしゃをすてて にげたらしいこと。


ききこみでは にげたさきまでは わからなかったこと。


あいしゃは とりしゃを ひとりでそだてて

やがて じぶんが うまれたこと。


あいしゃが しんで

こころのこりが あったこと。


「おじぃちゃんのおもかげを、さがしていたの。おばぁちゃんはさいごまで、おじぃちゃんをさがしていたのよ」


むすめは なんどもありがとう といって

うでわを たいせつにしまい たちさった。




それから また しばらくたったころ。


みちをとおる ひとたちは うわさする。


ときをへて かぞくにかえった うでわのはなし。


たびびとたちは わたしに てをあわせ

たびのあんぜんを いのるようになった。


いつしか わたしのあしもとは そなえられた はなでいっぱいになり


いつしか わたしは よばれるように なっていた。




かみさまの すむ き



と。







読んでいただき、ありがとうございました。



***



レビューを頂きました。

初めての事でとても感動しています。

多大なる感謝を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ただただ、きれいなお話を届けてくださった作者様に感謝です。このお話の木のように、誰かの記憶を大切にとっておいて生きたい、そう思わされる素晴らしいお話でした。 [一言] 素敵なお話をありがと…
[一言] やわらかくて、優しい。 ちいさなドングリが育ち、やがてひとびとが崇めるまでになる、とても壮大な物語。 胸の中を、穏やかな温かい風が吹き抜けていったような心地になりました。
[一言] とてもすてきなお話だと思いました。 50年の時を経て伝わる思い、探していた人に届いて本当によかったです。 読ませて頂きありがとうございました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ