かみさまの すむ き
全編平仮名表記、台詞部分の人名のみ片仮名表記となっております。
読み難いかとは思いますが、ご了承下さい。
わたしは さいしょ ひとつの どんぐりだった。
まどろみながら ふゆをこし
めをさますと ふたつのはっぱに なっていた。
はっぱの あいだから またはっぱがでて
それがふたつにわれて。
はる なつ あき ふゆ くりかえして
わたしはひとつの きに なった。
はるに めぶき
なつに おいしげり
あきに どんぐりをつけて
ふゆに まどろむ。
そうして それをひゃっかい くりかえしたころ。
わたしの あしもとに みちができた。
おおくのひとが わたしのまえを とおりすぎた。
あめのひは わたしであまやどりして
あついひは こかげでひとやすみした。
こどもたちは どんぐりをひろって
さむいひは あまりひとがとおらなかった。
そのひは とてもさむかった。
ゆきが ふりつづけて
わたしのあしは うまってしまっていた。
ひとりのおとこが ふらり ふらり とあるいてきて
わたしの うまった あしもとで
からだを まぁるくして うごかなくなった。
はめていた うでわをはずし
りょうてで にぎって つぶやいた。
「アイシャ、トリシャ、ごめんなぁ。あいたいなぁ。
ずっとずっと、あいしているよ。アイシャ、トリシャ……」
おとこが おきることは もうなかった。
はるが ちかくなって ひとがとおりはじめ
おとこは こころあるひとたちによって
わたしのあしもとに うめられた。
にもつがないから なまえもわからず
ぼひょうもなく うめられた。
だけど ひとつだけ。
わたしのあしもとには あのうでわが おちていた。
ねにかくれて みえなかったのだろう。
このままでは いつか つちにのまれてしまうだろう。
いいよ。
わたしが あなたの ぼひょうになろう。
とりさん とりさん。
そのうでわを わたしのえだに かけておくれ。
あいしゃ と とりしゃ。
もしきたら えだはをゆらして おしえてあげよう。
なぜかって?
むしも ひとも はかなき いのち。
あわれで かなしく いとしいのさ。
とおるひとの はなしを しずかに ききつづける。
なんかい きせつが めぐっても。
たのしいはなしも
かなしいはなしも
おこったはなしも
うれしいはなしも
しずかに しずかに ききつづける。
だけど あいしゃ と とりしゃ は
あらわれない。
そうして きせつは ごじゅっかいも まわった。
なつの あついひ。
こかげにひとり むすめが すわりこんだ。
すいとうを くちにあて うえをむく。
ちょうど うでわが きらりと はんしゃした。
「え?」
まぶしそうに めをほそめて
むすめは うでわを よくみつめた。
それから あわてて じぶんのうでから うでわをぬいた。
「え?おなじ?アイシャおばぁちゃんのかたみと、おなじやつ?」
あいしゃ。
あいしゃ!
わたしは えだはをゆらして うでわをおとした。
むすめは おどろいていたが
すぐに うでわを ひろった。
うでわのうらを のぞきこむ。
「“あいするアイシャ、トリシャ”……やっぱり、ジルドおじぃちゃんのだ…!」
むすめは ひとすじの なみだをながすと
わたしを やさしく なではじめた。
「あなたが、ずっともっていてくれたの?」
むすめは かたりだす。
おじぃちゃんは ぎょうしょうにんだったこと。
とうぞくに おそわれて
にばしゃをすてて にげたらしいこと。
ききこみでは にげたさきまでは わからなかったこと。
あいしゃは とりしゃを ひとりでそだてて
やがて じぶんが うまれたこと。
あいしゃが しんで
こころのこりが あったこと。
「おじぃちゃんのおもかげを、さがしていたの。おばぁちゃんはさいごまで、おじぃちゃんをさがしていたのよ」
むすめは なんどもありがとう といって
うでわを たいせつにしまい たちさった。
それから また しばらくたったころ。
みちをとおる ひとたちは うわさする。
ときをへて かぞくにかえった うでわのはなし。
たびびとたちは わたしに てをあわせ
たびのあんぜんを いのるようになった。
いつしか わたしのあしもとは そなえられた はなでいっぱいになり
いつしか わたしは よばれるように なっていた。
かみさまの すむ き
と。
読んでいただき、ありがとうございました。
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レビューを頂きました。
初めての事でとても感動しています。
多大なる感謝を。