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76 ボックスステップってやつですかね?前足と後ろ足でそれぞれ違う方向に踏んでいる感じでした。

 美しい……龍……?中国で描かれている様な、蛇の様な姿の龍だ。

 全身が透き通るような綺麗な青。角は濃い青で、まるで宝石のサファイアみたい。朝日の光を受けて、尻尾の方はエメラルドのような色にも見える。

 羽もないのに宙に浮いていた。尻尾の方をくねらせながら、優雅にその場に佇んでいる。


 そんなキラキラと輝く神獣様と、小さな窓から見る私の目が合った……気がする。


 ……うん。今現在もめっちゃ目が合っている気がするんですが……。


 「クレス……なんでだかわかりませんが、目が合っている気がします……。」

 「……恐らく、気のせいじゃないと思うぞ。」


 まじっすか……。


 それにしても……この神獣様の目。瞳もサファイアのような、綺麗な深い青で……何かを思い出しそうな感じなんだけど……。



 『……ここにおったのかえ。』

 「あっ!」


 この声、この雅な感じの喋り方!そして瞳の色!ビビッと来ましたよ!


 「カルセドニー渓谷のお姉さん!」

 『ほっほっほ。』


 姿は全然違うけれど、なんか納得した。前から人じゃなさそうだったもんね!

 っていうか、普通に馬車越しに喋っているんだけれど……。

 若干諦めたような、無心になろうとしているような顔のクレスさんに質問してみた。


 「あのお方は龍なんですか?」

 「……いや、あの方は神獣、リヴァイアサンだ。水を司る神獣様だな。」

 「へぇー。あ、あと!普通に喋っているんですが大丈夫でしょうか?」

 「俺にはリヴァイアサンの声は聞こえていない。街の人にも聞こえていないだろう。」

 「おぉぅ。テレパシー……。」


 つい最近も霊体化して喋っていたし、特殊な話し方でも驚かないよ!


 龍なのかと思って聞いてみると、リヴァイアサンというらしい。

 リヴァイアサンって言うと、長くて大きな蛇ってイメージだ。何かのゲームで見た気がするぞー。こんな宝石みたいに綺麗な存在なんだなぁ……。


 『チカ。来ると言っておったのに随分と遅かった故、迎えに来てしもうたぞ。』

 「すみません。いろいろとあって遅くなってしまいました。これからカルセドニー渓谷へ行く所だったんです。」

 『ほほ、そうかそうか。……聖女の代わりとなって、この国に貢献していたのかえ?』

 「そんな、貢献と言うほどのものではないですが……協力させて貰いました。これからきっと良くなっていくと思いますよ。」

 『ふむ……。では聖女が命を賭してまで、国に良くあれと願ったのだと……民衆にも示してやろうぞ。』

 「えっ……。」


 神獣リヴァイアサンなお姉さんは、どうやらこの国で何があったかわかっているみたいだ。

 さっきクレスさんが、精霊を統べるものって言っていたな……精霊さん達に聞いたのかな?


 お姉さんはその場から上に登っていく。うねりながら空へ上がっていく様子は、舞っているようだ。キラキラと輝きながら空に上がり……。



 キュルルルルルルルーーーーーーーー!!



 な、鳴いた!


 御者席の小さな窓から見ていたから、ハッキリとは見えない。上で鳴いて何かをしたのだろう。細かい雪のようなものが、キラキラと輝きながら街中に降っていく。静かに、ゆっくりと。


 「神獣様の祝福だぁーーー!」

 「うわぁあーーーー!」

 「綺麗ねぇ……。」

 「聖女様が神獣様を呼んでくださったのか?」

 「聖女様の想いが神獣様に届いたんだべ!」


 ……若干訛っている人がいた気がする。地方から来た人なのかなぁ?


 神獣様の祝福っていうものらしい。みんなの反応からすると、とっても珍しい物なんだろうな。


 『これで、より聖女の信憑性も増そうものぞ。ほほ。』

 「わぁー、ありがとうございます……。」


 あまりの行動力に、思わず棒読みになってしまった。


 私、もしかして……神獣様働かせちゃった?


 ……本人がノリノリだし、良いよね?ラッキーくらいに思っておけば。

 後で祝福代請求されたりしないよね……?



 と、とにかく……これで聖女(仮)の行いが神獣様に認められたことになるんだよね?


 ユランさん達の応援になったなら良いな。



 『さて、チカよ。そのような鈍間な乗り物で渓谷に来るのかえ?』

 「あ、途中までです。街の人から見えなくなったらグリちゃん……グリフォンに乗って走る予定でした。」

 『ほぅ……。では少しでも早く来れるよう手助けしてやろう。』

 「え……。」

 『なんじゃ、嬉しくないのかえ?』

 「いえ!あまりの待遇にびっくりしちゃっただけです!うわー!うーれしーいなぁー!」

 『ほっほっほ。そうであろう、そうであろう。』


 そうだったよ……。このお方、断れない系女子だったわ……。


 全力で喜びを棒読みしたら、満足そうな声が聞こえた。どうやら大丈夫だったようだ。


 「クレス……。先に謝っておきますね……。」

 「……。」


 私の全力棒読みにいくらか察していたらしいクレスさんは、無言だった。目は光を失っていたように見える……。さっきからクレスさんの顔が良くない方向にコロコロ変わっている気がする。大丈夫かなぁ……。たぶん、私も同じような顔していると思うんだけどね。

 規格外な存在に、規格外な行動されて……平常心保つのは……なかなか難しいよねぇ。何が起こるかなぁ?


 『では、行くぞ。』

 「逝きましょう!お願いします!」


 あ、誤字じゃないよ。気持ちが表れちゃっただけだよ……。



 御者さんが叫び声を上げ、馬さんはヒヒーンと悲鳴を上げ、何かがプツリと切れるような音がした。


 そして……。


 つい最近まで体験していた、重力とおさらばする感覚がした。



 うわあぁー……。飛ぶのね……。私、異世界で飛んじゃうのねー……。


 『では、グリフォンがいる所まで行くぞ。』

 「お願いしますー。」



 ぐわん!と後ろに引かれるような感覚がして、私はそっとカーテンを開けてみた。


 窓から見えるのは、青い空。

 下の方を見ると、街が小さくなっている。……結構上空飛んでいるなー。


 「……すごいな。」

 「そうですねぇ。グリちゃんのもとまでひとっ飛びですね。」

 『ほっほっほ。我にかかれば、ほんにひとっ飛びよ。』


 馬車は、引いていた馬さん達も御者さんも居なくなってしまい、箱だけで飛んでいる状態だった。

 前方には緩やかに泳ぐような動きでリヴァイアサンのお姉さんが飛んでいて、糸は無いけれど引っ張られているような感じなのかな、と思った。


 揺れたり跳ねたりすることもなく、最初の浮遊感以外はまるで振動がない。ただ後ろに少し引っ張られるような感覚がするだけ。車よりも快適かもしれない。

 ……いや、神獣様を車と比べたら失礼か。


 ほんの数分だったと思う。窓から下を見ても、もう街の壁すら見えない位置まで来ていた。


 『グリフォンは、あれかえ?』


 そう問われて、進行方向を見ると、懐かしいモフモフの姿があった……と思う。何せ小さくて、ゴマ二粒分くらいのサイズなものだから、判断出来なかった。


 「クレス、見えます?」

 「……ああ。あれはグリフォンだ。動きが完全に動揺しているが、あそこから動かないのは俺の言うことを聞いているからだろう。」


 あぁ……グリちゃん偉い。

 そうだよね。神獣リヴァイアサンがいたら普通の動物は逃げるよね。

 グリちゃん、逃げたくてもクレスさんの命令をちゃんと聞いて、逃げないで頑張っているんだ……。健気やーー!


 『では、ここで下ろすとしよう。』

 「ありがとうございます!お姉さん!」

 『あのグリフォンに魔法をかけておこうかの。早く来れるようにのぉ。』

 「至れり尽くせりで、本当にありがとうございます!出来るだけ早く行きますね!」

 『うむ。待っておるぞ。』


 お姉さんはそう言うと、車体をゆっくりと下ろしてくれた。

 着地もほんの少しの振動だけで、本当に丁寧に扱ってくれたんだな、と思う。


 車体が着地すると、お姉さんは尻尾を軽く振った。グリちゃんに雪のようなものが降り注ぐ。

 降り注いだのを確認すると、お姉さんはカルセドニー渓谷に向かって飛んでいってしまった。


 「ありがとうございましたー!」


 聞こえたかわからないけれど、私は大きな声で感謝を伝えた。かなりの時間短縮になったものね!

 馬車で空飛べたし。たぶん異世界でも初なんじゃないかな?馬車が空飛ぶの。



 お姉さんが見えなくなって、車体から出ようとすると、クレスさんに止められた。


 「一応、周りを確認してくる。それまで待っていてくれ。」

 「あ、そうですね。お願いします。」

 「それに……。あいつが暴れたら大変だからな。」


 ちょっと困ったような顔で笑うクレスさん。なんだかその顔は久々に見た気がする。ドキッとしちゃうじゃないですかー。



 クレスさんが先に降りて、辺りを確認してからグリちゃんのもとに向かう。


 グリちゃんは羽をバッサバッサして、足は何かステップを踏んでいるかのような動きをしていて、口もパクパクしていたけれど、クレスさんが首筋を何回か撫でると途端に落ち着いていった。


 うーん。信頼関係がしっかり出来ているって感じ?微笑ましいのと、ちょっと羨ましいなー!


 クレスさんは、グリちゃんが落ち着いたのを確認して、私に合図をくれる。

 私が車体から出ると、グリちゃんが寄ってきてくれた。なんだか目がキラキラしている気がする!

 私がそっとグリちゃんの首筋を撫でると、顔を寄せて頬擦りをしてくれる。


 あぁー!可愛いんじゃーーーー!


 「グリちゃああああーーーーーーん!!」

 「クエェェェェェェェェェーーー!!!」


 久々にグリちゃんを撫で回して、私はめっちゃ癒された。


 「あまり撫ですぎて動けなくなったら……怒られるぞ。」

 「はっ!!!!」


 誰に……と言わないところが流石です!より危機感を感じますよ!


 慌てて撫でるのを止める私を見て、クレスさんは笑っていた。

 

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