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閑話 イケメンチャラ冒険者の驚愕

マディラ視点の閑話です。千華が死んだふりしている時の話です。


千華は目を瞑っているので、周りの状況わからないので、マディラ視点で……。


追記:誤字報告ありがとうございます!

 謁見の間に移動しながら、僕はユラン様に今後の事について話をした。


 そうそう。ユラン様の弟、コラン様は今日やっと見れたけれど、とんでもないことになっていてビックリした。


 髪の毛は爆発して髪色も変わり、表情は貼り付けたような笑顔。背筋を軽く曲げ、体格がはっきりとわからないような服装になっていた。

 声のトーンも三年前までとはだいぶ変わっていて、ユラン様と会話を交わすまでなかなか信じられなかったほどだ。

 つまり、なかなかの別人だった。

 最近はすごい変装をよく見る気がする。マリーさんは性別すら変えていたし。この二人だけが異常なのかな……?


 アイちゃんが同性同名の別人だと思ったのも仕方ないかなと思う。

 コラン様は、グランディディ王国での依頼では出来る限りアイちゃんに会わないようにしていたようだ。僕に至っては一回も会っていない。たぶん僕の勘がアイちゃんよりも鋭いから、警戒したんだと思う。


 獣人の姉妹とはお互いに監視する状況で、隙を見せることも出来ない。僕たちに正体を明かすこともできなかったそうだ。


 後で支えていた人の弟だったとわかった時のアイちゃんの暴れようは酷かった……。

 鎮めるのに苦労したよー……。



 謁見の間に行く途中で一度離れたコラン様は、髪色と髪型を元の状態にして戻って来た。元々の髪色は黒だ。髪型も爆発なんてしていなくて、ユラン様と一緒のサラサラの真っ直ぐな髪だった。昔から、ユラン様と並ぶと黒と白の対比が見事だった。

 背筋も伸ばした綺麗な立ち姿で、表情も三年前と変わらない穏やかなものになっている。ユラン様と共に並ぶと、髪色だけが真逆の瓜二つな兄弟。……あぁ。この光景、懐かしいなー。戻ってきたって感じがする。



 謁見の間に到着して、しばらくクーデターの人員の報告を聞いていると、急に外が騒がしくなった。


 「け、結界が解けました!」

 「……そうか。」


 その報告を聞いて、悲しそうな顔をするユラン様。


 うん。演技のスイッチ入ったね、これ。

 軽く握った拳を額に当て、悲痛の表情で続ける。


 「聖女様……あなたの民を思う優しい心、決して忘れません……。誰か、聖女様を見てきてはくれぬかのぉ。」

 「はっ!」


 返事をして走っていくクーデターの人員。

 それを見送りながら、ユラン様は周りにいる捕まった文官やタガロス、影でクーデターに協力してくれた文官や貴族に説明をしていく。


 「私は眠らされる瞬間、自らのスキルで精霊に近い状態になり体が眠っている三年間、城の中に漂っていたのだ。数日前にタガロスの息子達によって捕らえられた聖女様がいらっしゃった。彼女は私と同じ、眠りの魔法によって眠らされ、次の皇帝の妃に無理やりさせられそうになっておった。私はスキルを使い、聖女様にも精霊と近い状態になって頂き、話をしたのだ。」


 ユラン様がスキルで霊体化……ここでは精霊のような状態と言っていたけれど、それによって城内を漂っていた事に驚くタガロスとその息子達。そして、聖女を無理やり連れて来ていた事、聖女の意思に関係なく婚姻を結ぼうとしていた事に驚き、嫌悪感を顔に出す文官達や貴族の者もいた。


 「私はこの国の現状を話した。民衆はみな疲弊し、皇帝は贅沢をする事にしか目を向けぬ現状を。聖女様は民を思い涙を流された。ご自身も無理やり連れられて来たというのに、思うのは苦しんでいる民の事。彼女は本当に心優しい聖女様だった。」


 ユラン様の話す内容にみんな耳を傾ける。

 僕にはすごーーく誇張しているように感じるんだけどねー。


 「そして、血を流さないクーデターをする計画を聖女様に伝えたところ、協力すると仰ってくださった。クーデターの仲間達が傷つかぬように、城内にいる者達が余計な怪我をせぬようにと御力を使ってくださったのだ……。」


 そこまで説明した所で、先程走って行った人員が青い顔で戻ってきた。


 「ユラン様!聖女様が……聖女様が……!」

 「そうか……やはり……。」


 戻ってきた人員の後ろから、女性を抱えたアイちゃんが来た。


 「聖女様の魔力は膨大だったが、この城の至る所に長時間の結界……魔力だけでは足らず、生命力すらも使っておったようでの……。クーデターが終わるその瞬間まで結界を張り続けるのは無理だと言ったのだが……聖女様は傷つく人が出ぬようにと尽力なされた。」


 ユラン様の目から涙が一筋流れた。


 ……僕はわかっているよ。少し離れた位置で悲しそうに立っているジュノが、ユラン様の目元に魔法で水を出しているって。

 ……ジュノ、こっち睨まないで。言わないから。


 「聖女様……。」


 ユラン様が呟くと、目でアイちゃんに合図をした。

 アイちゃんがゆっくりとユラン様の元に行く。


 あれ?確か計画では、チカちゃんは全身布で隠すって言っていたのに……。


 チカちゃんは、体には白い布がかけられているけれど、顔にはかかっていなかった。

 僕は悲しむふりをしながら抱えられているチカちゃんを見て、ギョッとした。


 死んでる?

 いや、そんなはずはない。もし死んでいたらアイちゃんがあんなに大人しくしているはずがない。絶対タガロスとその息子達に切りかかっているはずだ。


 でも、見れば見るほど……死んでるようにしか見えない。


 アイちゃんに視線で訴えても、アイちゃんは悲しそうな顔をしているだけ。どうやったらあんな死人顔出来るんだ……。


 そう思っていると、入り口に人が立っているのに気付いた。


 あーー。なるほどーーーーー!


 思わず大声で言いそうになっちゃったよ。マリーさん来てるじゃん。じゃぁ犯人はマリーさんで決まりだわ。


 心の中で納得していると、マリーさんからちょっとだけ視線をもらった。

 仕事で来ているだろうに、僕に視線をくれちゃうとか……ちょっと嬉しいなー。後でいっぱい構ってあげようっと!



 アイちゃんがゆっくり歩くので、謁見の間にいる人たちはみんなチカちゃんに視線を向ける。そしてなんと痛ましい、という声が所々で聞こえ、悲しむ人が多かった。


 良い感じにみんな信じているね。チカちゃんの顔があまりにも良く出来ているから、疑いようもない感じだけれど。


 「聖女様、あなたが尽力してくれたおかげで、こうして血の流れないクーデターを成功させる事が出来ました。私たちはあなたの優しさを忘れる事なく、これから国を正しい方向に持っていきたいと思います。」


 ユラン様はみんなに聞こえるように聖女様に挨拶をして、顔を下に向けた。


 みんながその動きに倣うように下を向く。僕も同じようにしておいた。


 五呼吸するくらいの時間を置いて、ユラン様は顔を上げる。


 「聖女様はエンジュ共和国でたくさんの人々と仲良くされていたようだ。そのお身体をエンジュ共和国へ連れて行ってあげて欲しい。」

 「かしこまりました。」


 ユラン様が最後にチカちゃんの体にかかっている布を顔まで引き上げ、全身を覆った。


 アイちゃんがゆっくりと出口に向かい、謁見の間を出る。


 うんうん。良い感じに聖女様は亡くなられたんじゃない?これでもう聖女を求め探す動きは無くなるだろう。


 チカちゃんが安全に暮らせるようになったなら良い。



 さて、僕はもう少しこの国でお仕事しますかねー。

この話でわかった事。

ボンバーヘッドは仮の姿だった!

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