74 小物家電を武器にする戦隊モノを考えたことがあります。ドライヤーブレード!……曲がっていて、使いにくそうですよね。
読んでくださってありがとうございます!
今回は、いつもより千文字程長くなりました。
ファーストキスじゃなかった事やら、スライムのキスで起きた事やら、膝の上で決めポーズをする一体と一匹やらで頭が混乱していると、横から優しい声がかかった。
「チカ、無事で良かった。」
「クレス……。」
声のする方を見れば、目尻を下げて微笑んでいるクレスさん。低い声と微笑みに、私の心がギュー!と締め付けられた気がした。
そうだ、キスは残念で仕方ないけれど……本当にとんでもなく残念で仕方がないけれど!今この時、クレスさんが私のために来てくれた事を感謝しなければ。
「クレス、助けに来てくれてありがとうございます!」
「ああ。」
私が笑ってお礼を言えば、さっきよりも深い笑顔を返してくれる。
あぁー!本当に私、幸せだわー!この笑顔、写メりたい。携帯ないけど。
……そうだ。あれがファーストキスだと、私がカウントしなければ良いんだ!スライム君には申し訳ないけれど、人間じゃないし……人とのキスはまだしていない!つまりまだ私のファーストキスは守られているんだ!うん!そういうことにしよう。
たとえスライム君との顔面接触で眠りから覚めたとしても……。私は認めん!!カウントする事を断固拒否するぅーー!
キスのカウントについて自分の中で納得し、クレスさんの笑顔に癒されたところで、気になることを聞いてみることにした。
「クレス。スライム君は無事だったんですね。」
「ああ。俺がチカを探しにいった時は、水たまりのような形になっていたんだ。数日そのままだったから、そろそろ埋めた方が良いかと思っていたところで急に動き出してな。一緒に行くという強い意思を感じたから、連れてきたんだ。」
数日間動けなかったんだ。よく生きていたなぁ……。っていうか、数日間ほったらかしにされてたんだね……。
私は決めポーズをするスライム君を左右に引っ張って感触を確かめた。
うん。いつものスライム君だ。
「スライム君も、ありがとうね。あの時死んじゃったかと思ったよ。生きてて良かった。また一緒にご飯食べようね。」
ポヨヨン。
食べることなら任せろー!と言っているように感じた。たぶん間違っていない気がする。
一緒にポーズを取っていた不吉そうな人形さんもコクコクと顔を縦に振っている。
……そういえば、クレスさんを守って貰うように精霊さんにお願いして、人形に再び入ってもらったんだよね。
何ともなかったね!クレスさん強すぎてなんの心配もいらなかったよ!
感謝の気持ちを込めて、人形さんとも一緒にご飯食べよう!そうだ。ショルダーバッグの人形さん達もね!バッグの中から助けてもらったし!
そんな感じで自分の周りの子達の事を考えていると、クレスさんが手を差し出してきた。
「チカ、帰ろう。エンジュ共和国へ。」
「……。」
「……どうした?」
ふと宝物庫での一幕を思い出す。クレスさんは……本当に帰るんだろうか?それとも、このままデュモルツ帝国の兵士に戻ってしまうのだろうか……。帰ろうって言ってくれたけれど、私を送ってすぐにこっちに戻っちゃうんじゃないかなって考えてしまった。
兵士だった事を聞いたのはユランさんからだし、聞いて良いのか少し悩む。
私が返事をしないでいると、クレスさんは私の背中とひざの裏にそれぞれ手を差し込んで私を持ち上げた。
「わわっ!」
「行くぞ。」
返事どころではない!こここここれは!
お姫様抱っこーーーーーーーーーーーーー!!
この私が!お姫様抱っこをしてもらえる日が来るなんて!!
……今日はあれか、私死ぬのか?いややっと起きられたのに死ぬのは勿体無いな。頑張って生きよう。うん。
とにかく、そのくらい嬉しい!そして、恥ずかしい!顔に、一気に熱が集まる感覚がある。
重くないの!?すんごい軽々持ち上げられた気がするよ?まさに……。
荷物のような気軽さで……。
私、そんなに軽かったっけ?
そんなわけない。この世界に来てからむしろ少し太ったし!さすがクレスさん……。筋力半端ない。
すごいなー男性に抱えられるってこんな感じなんだなー。ひざの裏と背中と、クレスさんのお腹にあたる部分が温かい。ぬくぬくする……。炬燵に入る猫ってこんな気分なのかな。まだ顔は熱いんだけれど、なんだかほっとする。
そんな私の顔を見たのか、フッと軽く笑ったクレスさんがこれからの事を話してくれる。
「そのまま聞いていてくれ。そろそろユラン様たちは謁見の間に移動しているだろう。そして、城の中の兵士や大臣共も拘束が終わっている頃だと思う。チカには、謁見の間に入る前にスキルを解除してもらいたい。そして聖女はその御力を限界以上に使い、亡くなったという事になる。」
さっき恥ずか死にそうになったところで生きようと思い直したのに、これから死ぬ事になった。
さっきから生き死にがコロコロ変わる。死にはしないけど!
「わかりました。じゃぁ私は目を瞑って息をひそめていれば良いんですね?」
「ああ。全身に布を被せるから、基本は寝ていれば大丈夫だ。」
「それでしたら、私にお任せください。」
突然室内に別の人の声が聞こえてビックリする。
クレスさんも気付かなかったようで、険しい顔になって声の方へと振り返った。
メイド服を着た女性。無表情で背筋をピンと伸ばし、綺麗な姿勢で立っていた。
「マリー師匠!?」
「……師匠?」
「……失礼しました。マリーさん!」
思わず、心の中の呼び方で呼んでしまった。
お恥ずかしい……。ちゃんと言い直しておく。
「お久しぶりでございます。お元気そうで良かったです。死んだふりならば、私にメイクをお任せください。誰にも疑われることのない、立派な死に顔をお作り致します。」
すごい自信満々な空気をビシバシ感じる。でも発言はすごいパワーワードだ。立派な死に顔って……。
「あなたがなぜここに……?」
「?クレスさんお知り合いだったんですね。」
「……ああ。」
クレスさんの聞き方から、知り合いだった事に気付いた。
「私とルードヴィッヒは主人の命令で参りました。」
「内容を聞いても?」
「はい。皇帝……元皇帝タガロスの第八夫人は元々我が国の貴族です。タガロスが無理やり連れ去る形で強引な婚姻を結びました。今回クーデターが起こるという事で、第八夫人とその娘を保護するために参りました。」
もちろん、本人の意思を聞いてから、という事だけれど……。
素朴な疑問、どこから情報得たんだろう?やっぱり、国ってなると諜報員的な人たちがワンサカいるんだろうか……。
「チヅル様には我が国が原因でご迷惑をおかけしておりますし、少しでもお力になれたらと思い、声をかけさせて頂きました。」
マリーさんはそう言って私と目を合わせた。
マリーさんのお化粧術にはお世話になっているし、その技術は信頼出来る。
「クレス、マリーさんにお願いしても良いですか?」
「ああ。じゃぁ部屋の外で待っている。」
終わったら呼んでくれと言って、クレスさんは私をゆっくりとソファーにおろして、部屋から出て行った。
あ……お姫様抱っこ終わっちゃった。でもまた後で死んだフリしたときにして貰えるのかな?
「では、手早く完璧に仕上げますね。」
「お願いします!」
マリーさんは手品師のように両手からメイク道具を生えさせて顔の前でクロスさせてポーズをとった。
若干、足元のスライム君達が尊敬の眼差しで見ている気がする……。
次はあのポーズを取り入れるのだろうか。
マリーさんに顔を塗ってもらいながら、普段のメイクのワンポイントアドバイスを色々と聞く。今聞いておかないと、次はいつ会えるかわからないからね。聞きたいことはいっぱい聞いておかないと!
「チヅル様、この化粧品達は新作なんです。是非お使いください。」
「え!良いんですか?わぁー!ありがとうございます……!?これは……。」
マリーさんが出してくれた化粧品を見ていると、なんだか既視感があるものが出てくる。
この世界の口紅って、筆で取って塗るコンパクトに入っている系なんだけれど、これは繰り出し型だ。色のないリップクリーム的な物もある……。他にも繰り出し型のアイライナーに、一つのパレットに数種類の色が並んでいるアイシャドウ……。
さらに横から、太めな筒状に垂直に細い棒が刺さっている物を渡された。
「これも是非お使いください。魔力で動かせるんですよ。」
「これって……!どどどどドライヤー!?」
マリーさんが一回起動させてくれて、温かい風が出たことで気付いた。この世界にドライヤーが生まれているなんて……!
「い、良いんですか!?」
「はい。主人からお渡しするように言われておりました。」
「うわぁー……。」
ありがたく頂いておこう。迷惑料っぽい感じだし。
「ありがとうございます。」
「いえ。……はい、メイク完了しましたよ。どこからどう見ても死人にしか見えない、完璧な顔です。」
自信溢れる顔で完了を告げられた。
私は手鏡で自分の顔を確認する。
「うわぁ……。」
これは死人ですわ……。血の気のない肌、青白い唇。それだけでなく、顔の所々に影が入っているみたいで、悲壮感が漂っている。
「出来ました。」
「そうか、入るぞ。」
マリーさんがクレスさんに報告して、クレスさんが部屋に入って来た。
私の顔を見て第一声。
「うわぁ……。」
クレスさん、引いてるわー。
メイクに引いてるはずなのに、その声は若干ハートに来るよ……。
さっきまでのような、ロマンチックな感じのお姫様抱っこはもう無いなって確信した瞬間だった。
タグが恋愛なのに、ロマンティック部分が短すぎる……。




