66 海藻が髪に効くって迷信なんでしたっけ……。
クレスさんが……クーデターに参加する……。
大丈夫……だよね?
「なんでだろう……なんかすごく心配ーー!」
ベッドには自分が寝ているので、ベッドの横の床をゴロゴロ転がる。
なんでだー!クーデターっていう単語が行けないのかー?なんか不穏なんだよね!今まで、こんなに心配な気持ちになる事なんて無かったのに!
「どうしたら……ん?」
ゴロゴロし続けていると、視線の先に、不吉そうな人形さんの中身だった精霊さんが……名前?が長い!
精霊さんが、しゃがんで私の方を見ていた。
「どうしたの?」
「£$※<=+。」
何を言っているのかわからないのだけれど、精霊さんは立って私の本体の髪の毛を引っ張り始めた。
「髪の毛?」
「€※〆>$#@¥!」
私の髪の毛を一房にぎり、グイッグイッ!と引っ張っている。本体の顔が横に傾いだ。……痛そう。自分の体なんだけれども……。
そのまま、髪の毛を口に持っていく仕草をしている。
髪の毛を食べるのって……。お人形さんの時にやったよね。その行動は……。
「もしかして、クレスを守ってくれるの?」
コクコク。
髪の毛を食べて契約をして、死にそうな攻撃を受けた時、一度だけ守ってくれる身代わり人形。
アールさんがみんなに配っていたから、クレスさんも持っているはずだ。
「あ、ありがとおおおおお!なんて優しんだーーー!」
思わず精霊さんを抱きしめる。
精霊さんは私の頭をポンポンと撫でてくれた。なんかこの撫で方、クレスさんに似ている。もしやお主、真似ているな?
そんなところも可愛い。
「精霊さん。お願いします。いざという時、クレスを助けて下さい。」
コクコク。
精霊さんは頷くと、私の髪の毛を引きちぎって飛び立って行った。
え……なぜに私の髪の毛抜いたし……。契約はクレスさんなんだから、クレスさんの髪の毛抜くんじゃ無いの?
……結構な量抜いていったよね?そこだけハゲてない?大丈夫?私の頭……。食べるの?もしかして食べる用に抜いていったの?
……とりあえず、痛みを感じなかったし、気にしないでおこうと決めた。そんで、起きたら海藻類探すんだ……。
クレスさんに、当日は身代わり人形さんを装備してください。というメッセージを送っておいた。きっと装備してくれるだろう。そしてその人形さんにはあの精霊さんが入ってくれる。
……ちょっと安心出来たかも。
改めて、心から精霊さんに感謝した。
さて、あと私に出来ることってなんだろう。
今は起きる術がないし、起きなくても出来ることって何かあるかな?
あ、そろそろコックさん達寝る時間じゃない?簡易版バーリアー張らないと!
バーリアー……?
「バーーーーーリアーーーーーーー!」
「うーむ……チカさん、落ち着いてなかったのぉ……。」
タイミング悪いよ!
いつも頭の中だけでスキルの結界もどきのことバーリアーって言っていたのに、思わず叫んだところにユランさんが来るなんて!
バーリアーって自分で呼んでいたのがバレちゃったじゃない!
「ユランさん!私は落ち着いています!バ……結界です!私に出来る事ありました!」
「ん?んん?」
とりあえずコックさん達を守りに行こう。
ユランさんに止められないように、コックさん達を守りに行く旨を伝えて一緒にコックさん達の元へ。
そう思って調理場に行ったら、コックさん達はお城から出るところだった。
「あ、今日から通いになるって言ってたんだった……。」
無駄足した感が後ろのユランさんから漂ってくる。すっかり忘れていたんだよーー!すみませんっした!
でも、バーリアーの事気付けたし……コックさん達のおかげと言っても過言じゃないよ!
そのまま、お城を漂いながら私は思いついた事を説明した。
「なるほどのぉ……。そんな大それた事、してもらっていいのかのぉ?」
「私がやった事を黙っていて下さるなら構いません。あまり目立つのは嫌なので……。」
「うーむ。ならいっその事、聖女はその力を使い果たして亡くなった事にしようかのぅ!」
「あ、良いですね!それなら今後探されることもなさそうですし!」
私、死んだ事になりそうです。
二度ある事は三度あるよね!三回も死んだ事になる人間ってなかなかいないぞー!
ユランさんと計画についての話をして、その情報をクーデターを起こす人たちに送ったりと、忙しい夜中を過ごした。
朝、何かないかとお城の見回りしていたら、ルノールがコランさんを連れて皇帝タガロスに謁見していた。もちろん覗くよ!
「首尾はどうなのだ?」
「はい。獣人の姉妹を送り込み、怪しまれる事なく入り込めた様です。クーデターを起こすその瞬間に内部で暴れさせる予定です。」
「ふむ。」
なんと!獣人姉妹とやらが、クーデターを起こそうとしている組織に入り込んでいるらしい。
というか、クーデターの事バレちゃっているんだね……。成功率が下がっちゃうんじゃ無いかな……。
「ユランさん、ばれてますよ?」
「うむ。大丈夫。城内部の情報も、筒抜けだからのぉ。」
「そうですかー。」
そっかー。筒抜けなのかー。それなのに二人して悪ーい顔しちゃって……ちょっと笑える。
「今からすぐに獣人姉妹について連絡しておこうかのぉ。」
「はい。行ってらっしゃーい。」
ユランさんはそう言って離れていった。
「……クーデターの首謀者は誰かわかっているのか?」
「はい。かつてユランの部下だった者だそうです。」
コランさんがピクリと、ちょっとだけ動いたように見えた。表情は変わらないけれど、内心びっくりしたのかな?
「なるほどな……。弟は従順にしているというのに……部下は自分勝手な物だな、コランよ。そいつは捕まえて見せしめにしてやろう。お前が首を取るが良い。」
「……はっ。」
うわー!性格悪っ!お兄さんの部下の首を取れとか……。
コランさんはその後何か命令されて部屋から出ていってしまった。
……ちょっと顔色が悪かったように見えた。そりゃ嫌だよね。
「……父上、コランの兄、ユランの魔法は何を鍵にしておられるのです?万が一解けたりしたら面倒ですし、出来れば教えて頂きたいのですが……。」
お!その質問、私も答えを知りたい!
「ふ……お前や、普通の人間には出来ないような事をしないと解けぬ。」
「教えてはいただけないのですね。」
「ああ。そうだな……強いて一つ教えるならば、私が信じて疑わないものを賭けている。」
「なるほど……。もし答えに辿り着いたら、その時は言ってくださいね。」
「良いだろう。何にしても心配せずともそうそう解けぬ。」
「わかりました。」
クイズか!
そんなんじゃ、わからないじゃん!もっとはっきり言っても良いじゃ無いかーー!ちぇっ!
それにしても、普通の人には出来ないような事……か。どんな事なんだろう?
クーデターが成功して、皇帝を捕まえたら答えを言うだろうか?なーんかあのおっさん、太々しい感じがして、言わなそうな気がするんだよね……。でも聞けないとユランさんは起きないし……。何としてでも聞かないとね。
唇を守らせてくれたユランさんには、恩返しをしたいからね!
一瞬、顔色の悪くなったコランさんの顔が浮かんだ。コランさんはやりたくてやっているわけではないんだろう。きっとユランさんが人質なんだと思う……。
気絶させられたり、スライム君や人形さんの事もあるし、あまり気が進まないんだけれど……。
ユランさんのついでくらいなら、助けても良いかな。




