閑話 イケメンチャラ冒険者の苦笑
マディラ視点の閑話です。ちょっと短めです。
千華が誘拐された後、村での話……。
手紙が冒険者ギルドに来て、アイリーに乗って村に戻ると、アイちゃんが荒れていた。
文字通り、荒れていた。
「遅い!マディラ!」
「えぇー!?」
帰って早々怒られる僕って……。やめてっ!斬りかからないで!理由も無く攻撃してこないでーーー!
アイちゃんが少し落ち着いたところで話を聞くと、チカちゃんが誘拐されたという。
人通りの少ない家の裏手に落ちていた、魚の切り身。水たまりのようになったスライム。
そして、チカちゃんの姿が見えない事。
「しかも、計画的な犯行。騎獣を使えなくするとは用意周到だねー。」
「グエェェェ……クエェェェ……。」
「俺以外の人間からの物は食べるなってあれほど言ったのにな……。まったく。」
「クエェ……。」
苦しそうに鳴くグリフォン。体力ポーションと解毒薬を与えたが、壊れたお腹はまだ治らないらしい。
アイちゃんが気付いてもすぐに後を追えないように、グリフォンの餌には毒が仕込まれていた。グリフォンが警戒しないよう、子供たちに与えさせたようだった。
「僕が……お魚のお礼をしたいって言ったら、美味しいものがあるって言われて……グリちゃんもきっと喜ぶだろうって……。僕のせいで……うぅ……うえぇぇん!」
「君のせいじゃないよー。悪いのは白髪爆発頭の男だからねー。それに大丈夫。グリフォンはかなり頑丈だから、すぐに良くなるよー。」
「クエ、エ、エ、エェェェ!」
「ほら、大丈夫そうでしょー?」
子供まで利用した犯行のようだった。グリフォンは子供を気遣って元気そうな声を上げる。前足でお腹を押さえながらだから、あまり説得力は無さそうだけど。
その子供に事情を聞いて、犯人はすぐに判明した。といっても、僕は一度も会っていないんだけれども……。
「コランってやつは、帝国の人間かねー?」
「恐らく。すぐにでも追いたいのだが……くそっ!」
相手の思惑通りに事が進んでいて、アイちゃんは苛立っていた。まぁ気持ちは分からなくもないけれど。
「焦っても意味ないよーアイちゃん。それに、チカちゃんの命の心配は無いでしょー?あの国は珍しいものが大好きなんだから。下手に命を脅かすような真似はしないよ。アイちゃんもよく知っているでしょ?」
「そうだな……。」
「急いで追いかける事が出来ないならば、しっかり準備してから行こうー。」
そう、あの国は珍しいものが大好きだ。正しくは、あの皇帝の一族は、だ。だから焦る必要はない。先にあいつに手紙でも送っておくかなー。あとは、攻める準備として用意する物は……。
「……マディラは一緒に来るのか?」
アイちゃんが躊躇いがちに聞いてきた。
まったく、何を今更言っているのかねー。
「当然じゃんー?アイちゃんのだーいじな人が大変な目に遭っているっていうのに無視出来ないよー。あと、おむすびのお礼もしないと、ね。……それに、帝国は嫌いだし。ちょうど良い機会だから、思いっきり嫌がらせしてあげるよ。」
あの国には色々と思うところがあるからね。あの時は何も出来なかったから、今回は思いっきり暴れてやろう。少なからずアイちゃんも同じ思いがあるはずだ。
「そうか……。助かる。」
だーいじな人の部分は突っ込まないんだね……。じゃぁもう少し、いじってあげようか!
「それでさー、無事に助け出したらさー。……そろそろ告白しても良いんじゃないの?」
「ぐっ……。」
この奥手さんはいつになったら言うのだろうか。これだけ発破かけてもまだ躊躇うのかー。
「さすがにそろそろ、他の人に取られちゃうかもよー?」
「今は!それよりも!助ける事が先決だ!」
そう言うと、足音荒く離れていってしまった。
……少しは気が紛れたかなー?アイちゃんには冷静でいてもらわないと。
隣町で手紙を送り、グリフォンも体調が戻ってきたところで出発する事になった。今回はカルセドニー渓谷も二人で駆け抜ける予定だ。グリフォンとアイリーの速さなら、魔物に出くわしても問題無いだろう。
いざ出発、と言うところで……。
「あれ、君……。」
同行者が増えた。
帝国は、入国の審査がとても軽い。ただし、一度入るとなかなか出られない。国から物を、人を、流出させたくないという意図を強く感じる。
あちこちに点在する村はみな疲弊している。人が生きられるギリギリのラインで搾取を行うからだ。税は高く、出国はなかなか許されない。疲弊した体で逃げることも出来ず、ただひたすらに働く事だけ……。
「変わらないね……この国は。」
「そうだな。」
僕らは手紙を送った相手が待つ街へと一直線に進んだ。街に入ることもせず、全て野営で過ごす。
疲弊した村に泊まっても、夜中荷物を盗まれそうになったり、乞食が寄ってくるだけだからね……。
この村という村から搾取したものが集まるのが帝国首都。他の国とは比較にならないほどに大きい都だ。
「さて、まずはここであいつと合流して、情報収集と行きますかねー。」
「ああ。」
さてさて、チカちゃんは今どうなっているかなー。




