55 ふぇっふぁん、ふががふぃふぅ!ふがーー!
三章はじめます!
「ふがっ!?」
気が付くと、目の前は茶色だった。
目の前っていうか、右も左も、茶色だった。
目の前が茶色の壁の時は、安心できたのだけれど……今回はその安心な茶色じゃない。
体はめっちゃ、ガッタガタと揺れている。手は後ろに縛られているようで動かない。口には猿轡をされているのか、ふがふがしか言えなかった。
これは、あれか。
袋に詰められている感じ?
……だんだんと思い出してきた。
私、殴られて気絶したんだった。んで最後に不快な言葉を聞いた気がするんですよ。
『聖女様』
うん。これ勘違いでしょ?絶対勘違いで誘拐されているでしょ!?
だんだんと、その言葉の少し前も思い出してきた。
……不吉そうな人形さんが砕け散って、スライム君は水たまりみたくなっちゃって……。
スライム君、生きているかな……。人形さんは……私の事守ってくれたんだよね。ありがとう……ごめんね。せっかく守ってくれたのに、逃げる事が出来なかった。
あっという間すぎて、まだ人形さんも生きているんじゃないかって思ってしまう。そのうちヒョッコリ出てくるんじゃないかって……。そんなわけないんだよね……。
お墓作るまで、今はとりあえず最後の笑顔を忘れないようにしっかり覚えておこう。
思い出してそのまま、しばらく人形さんとの出来事を考えていたけれど、ガタンと一度大きく揺れた事で我に返る。
私、これからどうなるんだろうなぁ……。袋に詰められてドナドナされているんだよね?聖女だと勘違いされてドナドナされているって事は、聖女が必要って事かな?
と、いう事は、聖女なら殺される事はない……のかな?人形さんは壊れたし、最初の一撃目は殺すつもりだった気もするんだけれど……今は生かされているんだよねぇ。謎だ……。
とりあえず、私は聖女じゃない!とか余計な事は言わないでおこう。
うんともすんとも言わない!この作戦でいこう!うん!
作戦を決めたところで揺れが治まった。ガタンと音がして、声が上から降ってきた。
「起きたか。」
コランさん……。
いや、誘拐犯だし、さん付けしなくても良いか。コランの野郎が……これだと口悪すぎかな?うーん……。
研究者もどき?頭ボンバー?白髪ボンバー?ボンバー。
考えるのもめんどくさい……コランさんで良いか。
などと、どうでも良い事を考えていると、コランさんが言葉を続けた。
「これだけ眠り続けたという事は……魔法耐性的にレベルは50もいってなさそうだ。着くまでこのまま、大人しくしていてくれ。」
「ふーふが!ふがががふががんふふぁが!」
「何を言っているかわからないし、聞くつもりもない。更に言うなら、どれだけ騒ごうと魔物以外来ないぞ。ここはカルセドニー渓谷だからな。」
うんともすんとも言わない作戦を早速破ってしまった!ついつい文句を言ってしまったよ……。伝わらなかったみたいだけれど。
コランさんはそれだけ言うと、遠くへ行ってしまったみたいだった。気配とかよくわからないけれど、音が遠ざかったから、たぶん離れたんだと思う。
それにしても、カルセドニー渓谷にいるって言ってたなぁ。グランディディ王国から出てしまっているのか……。
うーん。スキルを使ってクレスさんに連絡を取りたいんだけれど、腕が後ろだからキーボード叩けないよなぁ。とりあえずスキルを発動出来るかだけでも試してみよう。
「ふぎふ『ふぉんぎぎふぇいふぇい』。」
反応しない。ダメかー。ちゃんと発音出来ないと発動しないかー。
連絡を取るのは猿轡外されてからになるなぁ。
他に出来ることはないかと、体ごと転がってぶつかる場所まで行ってみたり、袋から顔を出せないかと、モゾモゾしてみたけれど、あまり意味がなかった。あんまり私がモゾモゾしていたからか……。
「トイレか?」
「ふがーー!」
心配そうにコランさんに話しかけられた。さっき遠くに行った気がするんだけれど、いつの間に戻ってきたのだろうか。思わず、驚きで叫び声をあげてしまった。
そして、言われてからすごく行きたくなった。トイレ……。
「トイレなら早めに言ってくれ。おい。」
「はい。」
初めてコランさん以外の人の声を聞いた。女性の声だ。なんだか、聞いた事あるような気がする……。気のせいかな?
私を入れている袋が開いたと思ったら、すぐに腕が入ってきて目隠しをされてしまった。腕が後ろで猿轡されて目隠しされるって……。逃げられないようにだろうけれど、側から見たら変態っぽいな、私。
「こっちへ。」
「ふが。」
女性が誘導してくれて、ちょっと恥ずかしかったけれど、トイレを済ませた。
……何気に危なかった……。
また手を引かれて戻ると、すぐに袋を被せられる。荷物のように持ち上げられて、硬い床に寝かせられた。目隠しは面倒だったのか、そのままにされてしまった。もう茶色すら見えない。
「行くぞ。渓谷は早めに抜けたい。」
「はい。」
コランさんと女性の声がした後は、またガッタガタと揺れて揺られて揺れまくり……。
き、気持ち悪いーーー!
「ふんがーー!ふが!ふがふふぅーー!」
「今度はなんだ?」
頭上の袋の口が動いた音がした。コランさんが確認のために開けたのかな?
「顔色が悪いな。……酔ったのか?……面倒だな。」
面倒だとー?一体誰のせいだと思っているんだー!
腹の立つ一言に、ふがふがと抗議していると、甘い匂いがしてきた。
「寝ていろ。」
頭がくらくらとしてくる。ただただ甘い匂いに、気が遠くなって……。
麻酔ってこんな感じで眠くなるのかな……。無理やり眠くなる感覚に、抗えないまま、私の気は遠くなっていった。
目が覚めると、目の前は真っ暗だった。
……ああ、そうだ。目隠しされたままだったっけ?
移動中に気持ち悪くなって、眠れって言われて眠ったんだっけ。
みじろぎすると、近くにいた人が袋を開けてくれたのだろう。目隠しはされたままだけれど、布越しに明るくなる。
「目が覚めたか。」
なんだ……コランさんか……。
「……なんだか今失礼な事考えなかったか?……まぁいい。着いたぞ。」
「ふぇ?」
目隠しを取られて目を開けたけれど、あまりの眩しさに目を瞑る。
少しずつ慣れてきて目を開けると、馬車の中だった。揺れてはいないから、止まっているのだろう。
腕は今も後ろに縛られたまま。なんとか自力で起き上がって窓から見えたのは、鉄の塊のようなお城だった。
「ようこそ、デュモルツ帝国へ。我が主人がお待ちだ、聖女様。」
来ちゃったかー。四つの国の中で一番嫌だなぁって思ってた国。小さい国をまとめている帝国。欲深い皇帝がいるって聞いたなぁ。
欲深い皇帝が欲している聖女様、かぁ。面倒くさそうな匂いがぷんぷんしやがるぜ……。
私……また聖女関係で問題に巻き込まれた……よね?
サブタイトルは
「絶賛!誘拐中!ふがー!」
と、言っております。
今章も面白おかしく行きたいと思います。よろしくお願いします!スカッとするような話にするつもりです。




