6 フラグって折るものじゃないんですか!?何さらっと回収してるんですか!
ちょっと冒険回になっています。恋愛……?次くらいに来る気がします。
乗合馬車に揺られて、窓から天気の良い外を見る。人が少ないから、のびのびと座れていい感じー。今馬車に乗っているのは、私と老夫婦とそのお孫ちゃん。可愛い女の子だ。はしゃぎながら外を見るお孫ちゃんにほっこりする。
ただ、首都から離れていくからなのか、道がデコボコしてきた。不安定な揺れに、若干の不安が胸に広がる。エチケット袋用意しておけば良かったかな……。
お母さんに教えてもらった手のツボ、ゴウコクを押して、目線は遠くを見る。私の個人的予防法だ。ツボに関しては、科学的根拠は知らないけどね!
しばらく、私は大丈夫、私は大丈夫……と繰り返し呟きながらツボを押していると、道の先に馬車が見えた。
物凄い勢いですれ違う。その馬車の馬は、私の知る普通の馬さんだった。二頭で必死に引っ張って、走っている。御者席に座るおじさんは顔面蒼白で、汗をかきながら馬に鞭を打っている。鞭を振るうおじさんがこちらを見た。目があった瞬間、ちょっとホッとした顔をした気がする……?っていうか、鞭打ちすぎじゃない?馬さんが可哀想だよ……。
なーんて、呑気なことを考えていたあの時の私を叱りたい!!
なぜ、あのおじさんはあんなに必死な顔をしていたのか。こちらを見て、ちょっとホッとした顔をしたのか。危機感をしっかり持って観察していたら、少しは勘が働いたかもしれないじゃない!
魔物の群れに囲まれる前に……。
「馬車から出ないでください!絶対に!」
昨日も聞いたよ……そのセリフ……今回の方がより強めに言っている気がするけれど。
あれかな、私が今日は大丈夫だといいな。なんて思ったからなのかな!?しっかりフラグ回収されてるのかな!?
目の前には大量のヤギの魔物が、馬車を囲んでいる。全ヤギがこちらを凝視していて、その目が怖い。
ヤギってちょっと黒目の形が独特じゃない?そのちょっと独特の目が大量にあって、こちらを見ているってもう……ホラーだよ!
「魔物のヤギって……やっぱり肉食なんですかねぇ?」
「あぁ……肉が大好物だが、木でも草でも何でも食べるんだ。肉が大好物だけれどね……。」
馬車内で震えている老夫婦に聞いてみた。やっぱり肉食なんだね……。そして、大事な事だから二回言ったのかな……?
「頼むぞ!チズール!」
ガチャンと音がして、御者さんが叫んだ。千鶴?まさかの偽名が聴こえて窓を見ると、馬車を引いていた馬さんが周りのヤギの魔物を威嚇している。馬さんチズールって名前なんだね。偽名なのにちょっと親近感湧いたよ。無事に乗り切れたら後でニンジンを買ってあげよう……。いや、肉か。
「救援信号を放ちます!耳を塞いでください!」
馬さんが威嚇してくれている間に、御者さんは救援信号を放つそうだ。救援信号ってどんなものなんだろうと耳を塞ぎながら見てみると、御者さんが細い筒を上にあげる。御者さんが何かを呟くと、筒から爆音と共に光の塊が空に打ち上げられた。
たーまやーって感じの光が空で花咲く。その後、光の上がった場所は赤い煙になって、空を漂っていた。
あの小さな筒から、あんな大きな花火が上がるとは……。さすが異世界。
「これで助けが来るはずです!あとはチズールが頑張ってくれれば……!」
「こわいよぉ……。」
「大丈夫よ……大丈夫。」
救援が来るまで、馬さんに頑張ってもらうという作戦なのか……。大丈夫なのかな?これだいぶやばい気がするよ……。
女の子が泣きながら、おばあちゃんにしがみついている。おばあちゃんはお孫ちゃんの背中を撫でながら、目を瞑って祈っているようだ。おじいちゃんは、おばあちゃんごとお孫ちゃんを抱きしめている。
今、私に出来る事ってなんだろう。このまま、馬車の中で馬さんを信じて、救援を待つしかないのかな……?
何か無いかとカバンの中を見てみる。
マリーさんが用意してくれたカバン。何となく、何か入れてくれている気がしたから。
入っていたものは、着替え、化粧品、お金、ハンカチ、私でも振れそうな小さなナイフ、小瓶に入った液体が三本、さっき御者さんが使っていた物ととても似ている筒が三本。そして、メモが一枚筒の一つに貼り付けてあった。
『これは、一大事の時にご使用下さい。攻撃用となっております。威力がおかしいので、絶対にふざけて使用される事のないように。発動者以外の方が近くにいる場合、巻き込む恐れがあります。発動の呪文は……。』
やばそうなの入ってたーー!これで少しは時間稼ぎ出来るかも!ありがとうございます、師匠!!
ただ、問題なのが、近くにいる人が巻き込まれる事……。これってだいぶ問題だよね。そこまで高威力極める必要あったのかな。
馬車に被害が出ないようにしないと……。私が馬車から離れるしかないかな?でも、下手したら最初の餌になりそうだし。うーん……。
ふと、昨日読んだ内容が蘇った。そうだ、あのスキルの設定なら……。
私は意を決して、馬車の中にいる人に声をかける。御者さんも、御者席からこちらに来ているので、ちょうど良い。
「あの、今からこれを使います!威力が半端ないそうなので、耳と目を守るために、塞いでいてください!」
御者さんは、私が見せた筒の端に付いている模様を見て、ギョッとなった。この模様に何か意味があるのかな?
「私もまだ使ったことが無いので、どうなるかわからないんです……。でも、少しでも時間稼ぎになるのなら、使ってみようと思うんです!」
「……わかった。くれぐれも、気をつけて使ってくれ。」
「はいっ!」
老夫婦もお孫ちゃんも御者さんも、目と耳を塞いだのを確認する。私は息を吸って、スキルを発動させる。初めてのスキル発動が、本来の目的と違う使い方になるなんてね……。
「スキル【コンビニ経営】。この馬車とその周り二メートルを店舗に設定する!」
そう言うと、目の前に画面が出てきた。
『店舗設定』
・簡易設定
・詳細設定
私は簡易設定を押す。まだ詳細設定については読んでいないので、選択肢は事実上一つだ。
次に出てきた画面も読んだ通りに……。
『簡易設定』
・価格設定
・警備設定
・従業員設定
警備設定を押す。すると、強、弱を決められる画面が出てきたので、強、を押す。
また、画面が変わる。
警備設定『強』に変更しました。警備費を引きます。
私がイケメン騎士さんから貰ったお金の袋を開けると、お金が勝手に消えていった。これで支払ったことになった様だ。よし!
「馬さん!こっちに!《いらっしゃいませ!》」
馬さんが声に反応して馬車に近付く。馬車から二メートル以内に入ったのを確認して、入れ替わる様に少し前に出る。一番ヤギの魔物が多い場所に、筒の先を向けた。
「いっけーーーーー!リゲル砲!発射!!」
叫んだ瞬間、激しい光と衝撃が襲う。私は一瞬で意識が飛んだ。
発射した武器の名付け親は、マリアンヌです。