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50 田舎のおばあちゃんの家に遊びに行っていた時は、切りのチーちゃんと呼ばれていたんですよ!飛距離は出なかったけれども!

 結局、夜遅くまでお祭り騒ぎは続いた。


 次の日、村の人も冒険者さん達も、みんなダルそうな顔で朝起きて来た。


 私は、お酒は程々にしたからね!朝はスッキリですよ!みんなの朝ごはんも作らなくちゃいけないからね。

 支度をしていると、旅支度をした獣人姉妹がやってきた。


 「マータさん、ビータさん。おはようございます。」

 「おはよう、チカちゃん。私たちは次の依頼に行くわね。」

 「もう次のご依頼ですか?」

 「ええ。ほら、一緒に冒険者ギルドに行ったでしょ?あの時に良い依頼を見つけたのよ。」

 「ああー、なるほど。」


 羽付きモモの詳細を調べたくて町に行った時に、用事があるって言ってたものね。それの事かな。


 「そういうわけだから、じゃーねー。」

 「またいつか会いましょ。」

 「はい。お気をつけてー。」


 颯爽と去っていく二人を手を振って見送っていると、後ろから間延びした声が聞こえて来た。


 「ふぁぁーー。おはよーチカちゃんー。」

 「おはようございます。マディラさん。ずいぶんと眠そうですね。」

 「昨日朝からずっとお祭り騒ぎだったでしょー?僕もはしゃぎすぎたよー。で、今誰かいたの?」

 「昨日は随分と楽しんでましたもんね……。今、マータさんとビータさんが次の依頼のために旅立たれましたよ。」


 旅立たれるって言うと、ちょっと違う意味になりそうだけれど、そのままの意味です。


 「あー、マータビータの獣人姉妹ね……え!行っちゃったの!?えええーー!?」


 寝ぼけ眼状態から覚醒したマディラさんは、旅立った二人の方向を見た。もう見えないところまで行っちゃったけれども。


 「あーーー!逃げられたーーー!アイちゃんに叱ってもらおうと思ってたのにーーー!昨日はお祭りだからって気を利かせてあげたのにーーー!」


 地団駄を踏んで悔しがるマディラさん。昨日の大人なお兄さんは何処へ行った……。


 マディラさんの地団駄は続いた。


 「そもそも!僕一人だったらあんな大きいだけの魔物瞬殺だったのに!あの二人がここぞと言う場面で邪魔ばっかりしたからあんなに遅くなっちゃったんだし!まるで僕があんなしょぼい魔物に手こずったみたいな印象になっちゃったじゃないかーー!」


 うん……ドンマイ。マディラさん。とりあえず、ご飯食べよ?




 朝ごはんを終えて、片付けをしていると、子供達がわらわらとこっちに走って来た。


 「ねーちゃん!もう魔物大丈夫なんだろ?一緒に川釣りいこうよー!」

 「川の周り案内してあげるーー!」


 ニコニコと輝く笑顔で誘われたら、断れないよね!川釣りかー。私に出来るかな?


 早く行こうと急かす子供達をなだめて、遊びに行ってくる事をクレスさんに報告した。


 「川釣りか。」

 「はい。みんなの遊び場を紹介してくれるらしいんです。」


 一生懸命自分たちの遊び場の事を説明する子供達を思い出して、小さく笑ってしまう。


 「そうか。気を付けてな。」

 「はい。」

 「ああ、川に行くならグリフォンも連れて行ってくれ。コイツは川遊びが好きなんだ。」

 「クエェ!」

 「グリちゃん!わかりました!」


 グリちゃんを連れて、子供達と一緒に川釣りへ。

 いつも遊ぶ場所だと、自慢げに川を紹介してくれる子供達。


 村から川まではそこまで距離もない。川の流れは穏やかで、子供達だけで遊びに来ても大丈夫だと判断されているのだろう。ただ、川幅は広く、向こう岸までは子供だけでは行けないと思う。

 木はまばらに生えていて、木陰もあるが暗いわけではない。心地よい場所だなぁ。


 「こっちで川釣りするんだー!」

 「ふむふむ。」


 川に張り出した大きな石の上に座って、釣り糸を垂らす。グリちゃんは少し離れた場所で、勝手に水浴びを始めていた。至福な表情だ。水浴び、本当に好きなんだねぇ。後で拭いてあげよう。


 子供達はそれぞれに餌の虫を探したり、花を摘んだり、水遊びをしたり……自由だなぁ。大人になったらなかなか思う存分出来ないからね。今をしっかり楽しんで欲しいと思う。


 「ねぇ、チカ。何か面白いものない?」


 花飾りを作ったり、水遊びに飽きてしまった子供達に聞かれた。そうだなぁ……。


 「あ、水切りって知ってる?」

 「みずきり?お洗濯の水をブンブンするやつ?」

 「違うよー。えっとね……これで良いかな?」


 洗濯物の水分を払うのにどんなブンブンをするのだろうか。そっちも十分に気になったけれど、今は遊びの水切りをしよう。

 平たくて丸い石を拾った私は、釣りの邪魔にならないように少し下流の方へ移動して子供達に見せる。


 「今から川に向かって石を投げるんだけれど、何回跳ねたかを競うんだよ。いっぱい跳ねた方が勝ちね。こうやってー!えいっ!」


 水平になるように腕を振って、石を投げる。回転しながら飛んで行った石は、川面と当たるたびに跳ねて行く。今までの最高記録は八回。今回は十一回も跳ねた。

 レベルが上がっているおかげかな?レベルの恩恵を感じるのが水切りって……どうなの?


 「すげぇーーー!」

 「魔法!?」


 振り返って子供達の表情を見ると、キラキラと目を輝かせて、興奮しているようだった。魔法みたいに見えたのかな?


 「魔法じゃないよ。コツがあるの。みんなもコツを掴んだら、きっと私よりもたくさん飛ばせるようになるよ。」

 「ほんと!?教えて教えてーー!」

 「私も私も!」


 結局、釣りをしていた子供達もみんな水切りをやりたくなってしまったみたいで、川釣りは終了となった。お昼ご飯にはおむすびを食べて、日が暮れる前までみんな水切りに夢中になっていた。


 ちなみに……私は、そんなに体力が続くわけもなく、グリちゃんをタオルで拭いてあげたり、グリちゃんを存分に撫で回したりして過ごした。意外と水切りって疲れるんだよね。


 「あ!いけね!一匹は釣って来いって言われてたんだった!」


 そろそろ帰ろうか、という頃になって子供の一人が思い出したように声を上げた。

 その声に釣られるように、数人の子供が同じくやっちまったって顔をする。


 「釣って帰らないと叱られちゃうの?」

 「うーん。今日のおかずにするってかーちゃん言ってたから……。」


 これは由々しき事態だ。私が水切りを教えたせいで、子供達はお仕事を忘れてしまっていたみたい。

 子供でも、遊びで来ていたとしても、ご飯のおかずを任されるという事は大事なお仕事だ。


 「どうしよう……。」

 「正直に謝るしかないかなぁ。」

 「うわぁー……。」


 ガックリと肩を落とす子供達に、私も悲しくなってしまう。さっきまでとても楽しそうだったから、尚更だ。


 「クエェ!」


 そんなちょっと重い空気の中、突然グリちゃんが鳴いて川に突っ込んで行った。


 「グリちゃん?せっかく綺麗に拭いたのに……。」


 もう一度拭き直しだなぁ、と若干残念に思いながら見ると、グリちゃんは川の真ん中に堂々と立ち、真剣な目で川を見つめている。


 そして突然、勢い良く前足を横になぎ払った。


 バシャッ!!


 「うわぁ!……ん?」


 子供の一人に水がかかってしまった。慌てて拭こうと駆け寄ると、足元に跳ねる物体が。


 「すげぇ!魚だ!グリフォンが魚取ってくれたー!」


 水がかかった子供は、濡れていることも忘れたように魚を抱えて喜んでいる。

 グリちゃんはその後も連続して魚を獲ってくれた。困っていた子供達の人数分とプラス一匹。


 「クエェェェ。」


 グリちゃんは魚を獲り終えると、満足そうな声を上げて川から上がって来た。


 「グリちゃん、ありがとうね。」

 「クエッ!」


 私はグリちゃんをもう一度しっかり拭いて、わしゃわしゃと撫でて労った。グリちゃんにこんな特技があったとは。


 子供達もグリちゃんにお礼を言って、それぞれの家に帰っていった。プラス一匹はグリちゃんの分だろう。塩分控えめで焼いてあげよう。



 村の女性に捌き方教えてもらわないと……!コンビニ弁当ばかり食べながら社畜していた私に、魚の捌き方なんてわかるわけないもんね!

 それにしても、この魚……。


 「鮭、だよね……?」


今、話の中の季節は夏直前なので、この鮭は時鮭(ときしらず)です。なんとなく名前がカッコイイですよね。


相変わらず心配性な冒険者さんは、護衛がわりに自分の騎獣を付けてくれました。


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