47 とっさの判断と、行動は一致しない時がありますよね!
遠くにたくさんの目が見えた。
直感で、あれはさっき見たものと同じだと……羽付きモモ達であると判断した。
急がないと……!いつ飛んでくるかわからない!
まず、何をすれば良いんだろう?女性達の避難?子供達も呼ばないと……!?
ああ、餅つけ!私!……じゃない!落ち着け!えっと、えっと!
頭の中には、さっき見た光景の中で印象に残っているものが次々と流れていった。
その中で、切り取った絵のように止まったままの映像が、他の光景よりも長く頭にとどまっていた。
前線に仁王立ちし、みんなに指示を出す、落ち着いた男性。
そうだ、慌てていても良いことはないんだ。
数回呼吸をして我にかえると、手にはコッメノリが入った大きなボウルがあった。うん。私の体は勝手に判断してくれていたようだ。優秀だな!私の体!
いきなりボウルを取られた村の女性がポカンとした顔で見上げてきていた。
「いきなり、どしたぁ?」
「皆さん、今すぐコッメノリを地面にぶち撒けて下さい!羽付きモモが向こうにいるのが見えました!」
冒険者のみんながいるのとは反対方向を指差す私を見て、良くない状況なのだとわかってくれたみたいだ。みんなコッメノリを地面に撒き始めた。
私も、手に持っていたコッメノリを出来るだけ羽付きモモ達から見やすい位置になるようにぶち撒ける。撒きながら、この後どうするかを女性達に伝えていく。
「皆さんは、男性達がいる前線に向かって下さい。向こうはだいぶ落ち着いていますので大丈夫だと思います。私は子供達を連れて来ます!」
「わだしもいくさ!大事な子供だぁ。」
きっとお母さんなのだろう。自分の子供を守るため、一緒に来ようとしてくれる。でも、危険だよね。
「いいえ。私はこれでも冒険者ですけれど、皆さんは違いますよね?危険です。子供達は無事に連れて来ます。任せてください。」
依頼を受けた身だもの。このくらいはしないと!
それに、無策なわけではないんですよ!ちゃんと、緊急時用の備えはあるんです!
ショルダーバッグが空間拡張カバンだった事を知ってから、あれもこれもと、私に持たせてくれたのだ。そう、心配性で優しい大柄な冒険者さんがね!
ショルダーバッグから魔道具を取り出して、空に向ける。
まずは、緊急事態を知らせる為の魔道具。音はあまり出ないけれど、光と煙が出る物。前に乗合馬車の御者さんが使った物とは少し仕様が違うみたい。これで向こうの前線にいる人達に知らせることが出来ると思う。
女性達が前線に着けばすぐにわかると思うから、これは念のためだ。
ぽしゅっと控えめな音がして、煙が上がる。上の方で光がキラキラと光っているのを確認して、子供達が避難している家に向かって走った。
あとは、子供達を連れて男性陣と冒険者さん達がいる前線まで逃げれば、とりあえず大丈夫だよね……?
そんなに大きくない村だと思っていたのに、急いでいる時って長く感じるものなのね……。
いつ羽付きモモ達が飛んでくるかと、ドキドキしながら子供達のいる家に着いた。
「お邪魔します!」
勢いよく入って来たらビックリするかな……でも、のんびりしていられない!そう思って扉をノックと同時くらいの勢いで開けた。
開けてすぐに目に入ったのは、川の字状に並んで安らかに寝ている子供達。昨日もいっぱい遊んだものね。そりゃグッスリだよね。って、そうじゃなくて!
「起きてーー!……あれ?」
大人も数人いるはずと思って壁の方を見ると、女性が三人。こちらも寝ていた。まぁ眠くなっちゃうのは仕方ないよね、とは思う。ただ、寝ている手元には、布に中途半端に刺さった刺繍針。
刺繍はいい女の証だと言っていた人たちが、こんな中途半端な状態で放り出して寝るものなのだろうか、と不思議に思った。
まるで……急に、抵抗できないほどの強い眠りに襲われたかのような……そんな投げ出し方のように見える。
「……起きてください!起きて!……えっ!生きてるよね!?」
女性達は、強く揺さぶっても一向に起きる気配が無い。まさかと思って口元に手を当てると、ちゃんと息がある。
「い、生きてた!びっくりした!……って、そうじゃない!起きてください!!」
いくら揺さぶっても、頬を少し叩いても、ちっとも起きない。そうしている間に、子供たちの方が起き出してきた。
「んー?もう朝ぁ?」
「あれぇ?冒険者のねーちゃんだー。」
「おはよう!みんな!起きたらすぐに走るよ!逃げるよ!羽付きモモが予想していなかった場所からこっちに来るんだよー!だからお母さんたちも起きてよーー!」
子供たちの方が目覚めがいい。むしろすぐに覚醒している。なんでこの女性たちはこんなに起きないんだー!
女性達を揺さぶっていると、外から大音量が聞こえて来た。
ギュギイイイイイイイイイイィィィ!!!
こ、これは……!でもキングはさっきマディラさん達が倒しに行ったよね?
村人でも大人数でかかれば倒せると言っていたキングを、あの三人が倒せないなんて事は無いはず……。
木の蓋のような物で閉じられている窓を、少し押し開けて外を見る。子供達も恐る恐るといった様子で一緒に覗いてきた。
さっき見た羽付きモモキングと瓜二つの姿。こっちには目もくれずに、羽付きモモ達と一緒にコッメノリを食べている。さっき見た時より随分近くにいるためか、とんでもなく大きく感じる。
「で、でけぇ……。」
「すごい勢いでたべてるよぉ?」
子供達もドン引きだ。一心不乱に、地面に撒いたコッメノリを食べる様子は怖いとしか思えない。
このまま、コッメノリに意識が向いている間に助けが来てくれるだろうか……?
そうであって欲しいと願いながら、念のため魔道具を四本、バッグから取り出す。これらは攻撃用の魔道具だ。もちろん、優しい冒険者さんが持たせてくれた。
威力は、前にマリーさんが持たせてくれた物よりもずっと低いそうだけれど、羽付きモモには十分に効くでしょう。キングには……効くかなぁ……効くといいなぁ。
子供達が懸命に女性たちを起こそうとしているが、全然起きない。女性達を置いて逃げるわけにも行かないし、子供達だけで走らせるわけにも行かないし……。
当初の予定ではさっさと逃げていたはずなのにーーー!
大人が起きないなんて想定外だよ!
でも、文句を言っても仕方ない!ここは……念には念を入れて籠城だーー!
なんでだろうなぁ!デジャヴを感じる!前にも籠城しなかった?した気がするね!
今回は本当に短い時間の予定だし、危険はそこまで無いはずだけれど!
ぼそぼそと、小さな声でスキルを発動させる。
「スキル【コンビニ経営】。この家を店舗に設定する。」
目の前に画面が出てきた。
『店舗設定』
・簡易設定
・詳細設定
詳細設定の方を押し、すぐに警備設定を『強』にした。今回は短時間だろうし、他の設定はそのままで良いや。
警備設定『強』に変更しました。警備費を引きます。
空間拡張カバンであるショルダーバッグに入っているお財布が、チャリンと音を立てた気がした。バッグから出していないから、聞こえるはず無いのにね……。
とりあえず!これで命は助かるでしょう!後は、スキルで守っているってバレないように、魔道具で応戦するぞー!
一番は羽付きモモ達がこっちに気付かない事だね!
そう思った瞬間に、強風が窓の蓋を揺らした。ガタガタと窓が鳴る。
なんでよーーーーー!
羽付きモモキングと思われる大きなモモンガと、目がバッチリ合ってしまった。
ちなみに……何も言わないけれど、千華の腰にはスライム君と不吉そうな人形さんがくっついています。




