5 スキル説明?指南書の間違いじゃないの?
マリーさんが持たせてくれた荷物の中に食べ物があったので、それを出してモソモソ食べる。ちょっと固くなってしまったサンドイッチ。パンは乾燥しちゃってパサパサだ。具も日持ちを考えて、水分の少ないものを選んでくれたんだろうな。余計にモソモソしている。食べながら部屋を見回した。
宿屋は比較的安い所を案内してもらったので、結構狭い。でも一日寝るだけだし、問題はないかな。木のぬくもりが感じられる木造。築……何十年だろう?天井には大きなシミが見える。ベッドがあるだけの部屋だ。
とりあえずお腹に物を入れたら、とっても眠くなってきた。まだ夕方にもなっていないから、少しだけお昼寝しよう。鍵がかかっているか、一度確認して横になった。
……ええ。真夜中ですよ。ちょっとのつもりだったけれど、これは完全に熟睡したわ。窓を見ると外は真っ暗で、星の瞬きが見える。月はてっぺんで輝いている。
人の通りは一切なく、夜も遅い時間なのだろうと思われる。時計がないのが辛いなー。
宿屋で夕飯を食べるつもりだったのに……。宿泊代に食事分も含まれていたから、余計に悔しい。朝ごはんはがっつり食べてやる!
熟睡したおかげか、ちっとも眠くない。そろそろ、あれと向き合うべき時が来たか……。
スキル【コンビニ経営】と。
なんて書いてあるのかな……。【料理 1】のスキルは、料理が出来る。簡単なもののみ。としか書いてなかったし、コンビニ経営が出来る。としか書いてなかったりして?
……はい。そんな簡単なものではなかったよ!
スキルの部分を押したんだよ。そしたら急に本みたいな画面になったんだよ。一画面で二ページを見れるような、見開きの形に。そして、下にページ数が書いてあるのよ。2/400って。
四百ページ……っていうか、ページってなんなの!
朝が来ました。無理。一ページごとにびっしり文字が並んでたよ……。私の知能30ってやっぱり低いのかも……読みきれなかった……。
もう最後の方は軽く流し読みする感じでパラパラとめくる感じになっちゃった。説明は後半になるにつれて、アドバイスになってた……。
・お客様の目線の棚にメイン商品を置く。
などというワンポイントだったり。
・従業員を指導する場合、先に相手の良い所、認めている所を褒めてから。
・従業員の健康を考えたシフトを作成するべし。
・時間を厳守するならば、退勤時間も守るべし。
・経営者はお客様だけではなく、従業員の視点も忘れるべからず。
従業員を守る為のアドバイスだったり。
……これスキル説明というか、経営指南書の間違いじゃ?これをしっかり守ったら、めっちゃホワイトな良いお店になりそうだね!私もこんな会社に勤めたかった!!!……はぁ。
流し読みだったけれど、少しは理解できたかも。お店を開くのを助けてくれるスキルって感じかな。まずは、お店を設置するところから始まるみたい。
このスキル、何をするにしてもお金が必要らしいから、イケメン騎士さんがくれたお金は出来るだけ節約しようと思う。スキルで消費されたお金ってどこに行くのかな……。気にしたら負けかな?
宿屋の朝ごはんは、昨夜の分も取り戻そうといっぱい食べた。三回おかわりした。宿屋の人が微妙な顔をしていた気がするけれど、気にしない!主食はパンだった。こちらでお米はまだ見ていない。お米どこかにあるのかなぁ。まだこの世界に来て全然日にち経ってないけれど、もうお米が恋しくなってきたよ……。
宿屋を出て、冒険者ギルドに向かう。昨日はギルドに登録だけしてきた。説明は明日しますから、早く休んでください!とギルドのお姉さんに言われて、言われた通りに宿屋に行ったのだ。
なので、今日はギルドの説明を受けるのと、この先に行く乗合馬車について聞こうと思っている。さっさとこの国を出て、暮らしやすそうな場所を探そう。
冒険者ギルドの朝は早いみたいで、入ると人がごった返していた。みんな壁に貼ってある紙を見ている。何か気に入ったのがあると、それを剥がして受付のお姉さんのところに持って行っている。とても忙しそうなので、落ち着くまで待とうと思って入り口すぐのところでぼーっと見ていると、横に人が来た。
「今日は顔色が良いな。しっかり休んだんだな。」
「あ、おはようございます。昨日は心配してくれて、ありがとうございました。」
昨日心配してくれたイケメン冒険者さんだ。朝から良い声を聞けて幸せだー。お礼を言って頭を軽く下げる。
マリーさんのくれた荷物の中に化粧品一式が入っていた。私に合う化粧の仕方も、あの短時間で教えてくれたのだ。マリーさんは凄いぜ……心の中で師匠と呼ぼう。教えられた通りに化粧をしたので、今までよりも目鼻立ちがはっきりとしたと思う。あと、がっつり寝たから、クマが無くなったのも健康そうな顔の一因かも。
「冒険者登録をしたのか?」
「はい。昨日は登録だけして、説明は今日してくれるという話になったんです。ギルドのお姉さんたちも、心配してくれて。」
「あの顔色は誰だって心配するだろう……。説明はしっかり聞いた方がいい。活動しないのだとしても、登録を消されないよう年に十回は依頼をこなさないといけない、とかな。」
「そんな規約があるのですね。しっかり聞くようにします。……なんで私が活動しないってわかるんですか?」
「その格好で魔物と戦うなんて、死にに行くようなものだろう?それに筋肉もあるように見えないからな。」
不思議に思って聞けば、小さく笑いながら指摘された。確かに、私の格好は町娘そのものだ。この格好で昨日の熊と戦うなど、餌になりに行くようなものだろう。それに、このイケメン冒険者さんと比べたら、確かに筋肉なぞない。私は頷いて同意した。
「ごもっともです。」
「活動しなくても登録する人間は結構いる。ただ、街の外に行くときは冒険者を雇って守ってもらえ。じゃぁな。」
そう言うと、紙がたくさん貼ってある場所に向かって行ってしまった。少しだけ目尻を下げながら笑う顔は破壊力抜群だった。ちょっと心臓がバクバクしている。目の保養だわー。
国外に行くために冒険者登録する人が多いのかな?マリーさんと同じように冒険者を雇うように言われた。親切な人だなー。
「チカさんー。お待たせしました!こちらへどうぞ!」
余裕が出来たのか、ギルドのお姉さんに呼ばれる。イケメン冒険者さんの忠告通り、説明をしっかり聞きましょう。
「以上ですね。何かご質問はありますか?」
「いいえ、大丈夫です。ありがとうございます。あ、規約とは関係ないのですが、聞きたいことがあります。」
「はい、何でしょう?」
「乗合馬車の場所を聞きたいです。」
「どちら方面に行かれます?」
「えっと……南へ。」
この国、ギベオン王国は地図上の北の方に位置している。国を出るならまずは南に行かないと行けない。南端の街から、東、西、南にある国へ行く道に出られるそうなのだ。だから、まずは南へ。
「南ですね。それですと……。」
無事に乗合馬車に乗れた。今度の馬車も、魔物の馬さんが引いている。でも、王都の時よりも乗る人が少ないから、ゆったりと乗れて楽だ。昨日の馬車はだいぶ衝撃的だったけど、今日は大丈夫だといいな。
二日連続で魔物に遭遇なんて……ないよね?