45 夜遅くまで起きていると、胃が痛くなるんですよね……。
今回も少し長めです。
誤字報告、ありがとうございます!
朝起きて一番に思ったのは、今日は風が強いな、という事だった。ごぅ、と音が聞こえるほどに、力強い風が時折吹いている。
季節的に、台風でも接近しているのかな?と考えたところで、この世界に台風はあるのだろうか?という素朴な疑問にぶち当たったので、考えるのはやめることにした。
お弁当を作ったり、みんなの朝ごはんを作ったり……。朝のやる事をやって、アールさんの家へ。
昨日思いついた事を報告しておかないとね。
「アールーさーん。」
「どうしたアールーか?」
アールさん、ノリが良いな。
「先日貰った、食べないコッメを使って罠の一部を作りました。それで、その罠の一部の作成は、村の女性達に協力していただきたいと思うんです。」
Gホイホイ様の罠部分を真似した、コッメノリを説明。更に、そのコッメノリを作るのに女性達の力を借りたいというお願い。さらに、女性達は羽付きモモが仕留められるまでお仕事がないので、その時間を有効活用したいという計画を話した。
「なるほど……その罠が上手く発動出来れば、みんなの負担が軽減出来るアルね!」
「はい!そうなんです!それで、この罠を作る為にもう少し木材を確保させてください。」
「わかったアルね!村長には言っておくから、チカは早速作るアルヨ!」
「はい!お願いします!」
こういう会話をする時によく思うんだけれど……村長の扱いがだいぶテキトーだよね……。
この前も勝手に倉庫ひっくり返して、片付けさせてたし……。アールさんと村長って仲が良いのかな?
アールさんに報告連絡相談を済ませ、私は冒険者さん達の訓練する場所まで戻ることにした。村の女性達には、アールさんからお願いしてくれるそうだ。決まったら、スライム君に、籾摺り、精米をしてもらわないとね!
「頼みますよー!スライム君!君にこの村のコッメの命運がかかっている!」
「!」
「と、言っても過言ではない気がしなくもないよ!うん。」
だいぶ本当の事なんだけれど、ちょっと大袈裟に言ってみたり……。そんなこんなでスライム君に頬を引っ張られながら戻ると、クレスさんがコランさんと話していた。
コランさんがこの村に来た日の挨拶以降、二人が話している姿を見た事はなかったから、とても珍しい気がする。
「……なるほど。そういう事なのだね。」
「ああ。」
何の話をしているのかはわからないけれど、ちょうど終わったようだった。コランさんがいつもの貼り付けたような笑顔のまま離れていったので、クレスさんに近づく。
「クレス、ちょっと良いですか?皆さんに手伝ってもらいたい事があるんです。」
「……ああ。」
なんだかちょっと、思案顔のクレスさん。うん。眉間にシワが寄っているお顔も良き……。じゃなくて。
すぐにいつも通りのクレスさんに戻ったけれど、そんなに悩ましいお話だったのかな。すぐに話しかけて、考え事を遮っちゃったかもしれないな……。
私はアールさんにも説明したように、クレスさんと冒険者のみんなにも説明して、大量の板を作ってもらう事になった。
「ここに、取っ手というか、足で立ち上がる仕掛けを作って……羽付きモモが来た時に発動させたいんです!こう……バッと来たら、ガッ!ってやって、そうしたらこれがバンッってなるんですよ!」
「なるほどわからんぞ!もっとしっかり説明してくれ!」
なんて、冒険者の皆さんと意思疎通をしつつ、罠の板が少しだけ完成した。明日にはもっと効率よく作れるだろうってクレスさんが言っていた。これでGホイホイ様のまるぱくリスペクトが完成するなー!
夕方、コッメを炊いている匂いがあちこちからしてくる。みんなもうコッメを炊くのに慣れたんだなぁ……。美味しい物への執着じゃないけれど、適応力の速さには驚かされる。
……なんで廃れちゃったのかなー。コッメの籾摺り、精米方法。美味しい食べ方なんだし、絶対忘れないと思うんだけどなぁ。
野菜を頂いた帰り道、そんな事を考えながら村を回っていると、子供達が遊んでいるのが目に入った。
今日は村の端から端へと丸を繋げた、超ロングけんけんぱらしい。しかもどれだけ早く到着出来るかを競っているようで、みんなとんでもない勢いでけんけんぱしていく。
どんどん新しい遊び方を開発しているようで、教えた私も嬉しくなる。
さすがにこの後は夕飯の支度があるので、参加はお断りさせて頂いた。ごめんね、また明日ね!
夕飯を作っていると、マディラさんが帰ってきた。
いつもならもっと遅くになるのに、今日はずいぶん早いんだな……。でも、出来立てのご飯を提供出来るから、良かった。
そう思って近付くと、マディラさんの顔がやけに険しいのが気になった。クレスさんと小声で話をしている。
「……そうか。すぐに準備した方が良さそうだな。」
「そうだねー……。あ、チカちゃん、ただいまー。」
私がいる事に気付いたマディラさんが手を軽く振ってくる。さっきまでの険しい顔はもう無かった。
「お帰りなさいマディラさん。お疲れ様です。」
「んー。良いね……グホッ!」
何が良いのだろうか……?よくわからないうちに、クレスさんにどつかれていた。相変わらずマディラさんへのツッコミだけは容赦が無い。
ツッコミ終わった後、すぐに真剣な顔になるクレスさん。
「チカ。羽付きモモ達が動き始めたらしい。夜明け頃には来るかもしれない。すぐに迎撃準備をしようと思う。手伝ってくれるか?」
「……はいっ!」
数日中とは言っていたけれど、夜中から動き始めるなんて……。
私で役に立つ事があるならば、もちろん全力でお手伝いしますよ!そんな気持ちを込めて返事をした。
村は一気に慌ただしくなった。
村の女性達は、もう食べなくなったコッメを炊き、みんなで練ってコッメノリを作る。
男性達はいつ来てもいいように警戒しながらも、早くから気を張りすぎて疲れないように、交代で休んでいた。
冒険者のみんなは、クレスさんに指示を仰ぎ、動きの最終確認を行なっている。
私は村の女性達と一緒にコッメを炊いて、ひたすら練っていた。
少し心配なのは、罠の数が少ないのと、この暗さ。
罠用の板は、手の空いている冒険者さんが今も作ってくれている。でも無理に作って、いざ羽付きモモと対峙した時に疲弊していたら良くないだろう。
それと、この暗さ。夜明け頃に来てくれるなら、もう少し明るくなっているだろうけれど……もし夜明け前に来ちゃったら……。街よりも間隔の広い灯り。暗い中でコッメの葉をかき分けて、小さな魔物を仕留めなければならないとしたら、被害が広がるかもしれない。
私は心配になって、クレスさんに相談してみる事にした。
「クレス。少し良いですか?」
「どうした?」
「この暗さが少し心配なんです。もし夜明け前に羽付きモモ達が来ちゃったら……。念のために灯りを増やした方が良いかなって思ったんです。」
「いや、大丈夫だ。もし夜明け前に来たら、俺が魔法で照らす。むしろ今は暗い方が良いんだ。他の魔物が来たら面倒だからな。」
「あ、そっか……。」
すっかり忘れていた。そうだ、ここには羽付きモモしかいないわけではないんだった。
自分の考えが、目の前の物にしか向いていなかった事に恥ずかしくなる……。
「魔物は夜行性のものが多い。今は暗くてもギリギリまで待って欲しい。」
「わかりました。すみません、浅はかでした……。」
「いや、チカが村のことを考えてくれているのはよく分かっている。気にしないでくれ。」
「……はい。」
フォローまでしてもらって……うぅ、余計にお恥ずかしいぃ。
私は変にならない程度に早く、クレスさんのいる前線予定の場所を失礼して、女性達のいる場所まで戻る事にした。
クレスさんが家の壁で見えないところまで来ると、コランさんがいつもと変わらぬ貼り付けた笑顔で手を振っていた。
「チカ君。君が浅はかなのでは無いよ。彼が、周りをよく見過ぎているだけ、なのだよ。」
「聞いていらしたんですか……。」
「うむ、君で四人目だからね。」
「え……。」
コランさんによると、明かりを増やした方が良いのではないか、という意見を言いに来た人は私だけでは無かったそうだ。
その中にアールさんもいたらしい。アールさんと私の思考回路は似ているのかな?
「彼はよく見ている。周りも、状況も。……まるで慣れているかのよう、なのだよ。普通の人には今の状況で最善の選択をする事は難しいだろう。」
いつもより低めの声で、コランさんが独り言のように言っていた。
「クレスさんは、冒険者のランクも高いですし、みんなを指揮することは結構あったのかもしれないですね。」
「ふむ。なるほど。」
エンジュ共和国でダンジョンが発生した時も、クレスさんがみんなを指揮していた。きっとそういう機会が多いんじゃないかな?
「しかし、羽付きモモは夜行性では無かったと思うのだが……。なぜこんな時間に動き始めたのか、不思議なのだよ……。」
ブツブツと言いながら、コランさんは離れていってしまった。
羽付きモモは……夜行性じゃない……?じゃぁ、なんで急に動き始めたんだろう?
でも、それを考えるのは後かな。今は罠をしっかり作って、みんなの負担を減らすことに集中しよう!
これから少しシリアス展開予定……なのかなぁ。
シリアスになりきらない予感しかない!……気がしなくもなくもない!です。




