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41 手記って、こういう物なんですかね……。

 夕飯はキャベツと鶏肉と卵の甘辛醤油煮。コッメに良く合うお味です!茹で卵を一度作ってから煮込むから、いつもよりちょっと手間が多いけれど、その分美味しく出来たと思う。


 隣村は鶏をたくさん飼育しているらしくって、コッメや野菜と交換してくれるのだそうだ。




 夜も深くなってきて、村の中には魔道具の明かりが灯る。この魔道具、エンジュ共和国にもあった。ちょっとデザインが違うけれどね。

 魔道具の明かりは、温かみのあるオレンジ色で、触れてもちょっと温いくらい。火傷とかの心配が無いのは良いよね。この村には数があまり無いみたいで、明かりの間隔が広い。


 そんなオレンジ色に照らされた中をクレスさんと歩く。いつもと変わらない距離感のはずなんだけれど……灯りが少ないせいなのか、近くにいるクレスさんだけがはっきりと見えるせいで、いつもとは違う感覚……。

 会話も、普通に話しているつもりなんだけれど……この暗い中、あの低くて痺れるような声が近くで聞こえて……ダメだ!なんだこれ!これがあれか!吊り橋効果か!?いやなんか違う気がする!


 「どうかしたか?」

 「な、なんでもありません!」

 「そうか。そこ、足元に気をつけて。」

 「はい。ありがとうございます。」


 不審者になりつつあったのか、不思議そうにクレスさんに問いかけられてしまった。危ない危ない……。


 そこから何を話したら良いのかわからなくなって、頭の中がカーニバル状態だったけれど、なんとかアールさんの家に着いた。……って言っても、そこまで大きく無い村だから、本当は短時間だったんだと思うのだけれど……体感はめっちゃ長く感じたんだよぉ……。



 ドアをノックして呼びかける。


 「こんばんは。アールさん、お話よろしいですか?」

 「待ってたアルヨ。入るアル。」


 アールさんは待ってましたと言わんばかりに家の中に入れてくれた。入ってすぐのテーブルには、お茶のセットが置いてあった。



 アールさんとクレスさんに話す内容は、コッメの籾摺りと精米の方法。

 私にわかるのは、木で出来た臼の見た目。その臼をグルグルすると籾殻が取れる。それだけ。中がどうなっているのかは、全然わからないんだよね……。


 「その、木で出来た臼っていう物は、二つ合わさっているアルネ?」

 「はい。下は固定されていて、上の棒状の部分だけがグリグリ動くんです。」

 「うーん……。とりあえず、コッメについて書いてある物を片っ端から持ってきたアルヨ。村長の家の倉庫をひっくり返してきたアル。村長は今、倉庫の片付けしてるネ。ここから、何かわかれば良いアルよ。」


 村長、片付け頑張れ……。心の中で応援しておいた。


 アールさんが持ってきてくれた十冊近い本。それを丁寧に持って読んでいく。みんな古い物のようで、端々がボロボロになって、文字も所々掠れていた。


 読めば読むほど、コッメを育てる人々の大変さが伝わってくる。けれど、どれも育成方法ばかりで食べ方について書いている物は無い。


 次を見ようと広げた本から、挟まっていたと思われる冊子が落ちた。

 丁寧に扱わないといけないのに、落としてしまった!と、大慌てで拾おうと手を伸ばしたけれど、落ちたものを見て、思わず動きが止まってしまった。


 その一冊は、とても見覚えのある物だった。


 他の本がみんなボロボロになっているのに、見覚えのあるその一冊だけ、綺麗な新品のような見た目だった。


 「キャンペスノート……。」


 学生時代に大変お世話になったノートだ。可愛い桃色のキャンペスノート。サイズはメモ書きができる程度のポケットサイズだった。


 「そんな本見た事ないアルヨ。」

 「挟まっていたみたいです……。」

 「随分、綺麗な本だな。」

 「この本……ノートは、私の世界によくあった物と似ています……。」


 まだ確定じゃないから、似ているって言ったけれど……私のいた世界の物だよね……。


 そっと表紙を開くと、最初のページには大きな文字が書かれ、下の方に猫の絵が描いてあった。



 文字はひらがなで。の、の部分がやけに大きく。



 よしのののーーと!!いち!

 と。



 ……よしのちゃーん。


 「なんて書いてあるんだ?」

 「この持ち主の名前が書いてあります。とりあえず、読んでみて良いですか?」

 「良いアル!どうせ他の人には読めないアル!何か情報が書いてあるかもしれないアルヨー!」


 許可を頂けたので、私はゆっくりと小さなノートを読んでいった。





 『このノートは、私の知識をメモした物よ。


 もしこのノートを見つけた日本人がいたら、感謝する事ね!オーホホホ!


 この村にはちょっと立ち寄っただけだから、この小さなノート分しか残さないけれど、他の場所にもいくつか隠すつもりだから、気になる人は探してごらんなさい!ノートには保存の魔法をかけてあるわ。きっと見つかると思うわよ。


 この村には私の知識の一部を教えたわ。白米の美味しさに村人達はひっくり返っていたけれど、籾殻付けたまま食べるとか正気の沙汰じゃないわよ。まったく!

 でも、いつか忘れ去られる事があるかもしれない。米の育成方法、籾摺りの方法、精米方法、炊き方をここにメモしておくわ。心して読みなさい!オーーーーッホッホッホッホ!!』




 この後に、コッメについての情報が書いてあった。籾摺り、精米方法が書いてあるーーー!木摺臼?って、中がギザギザしてるんだねーー!

 よしのちゃん!ありがとうーーーーー!

 でも笑い声をわざわざ書くなんて……しかもオホホって……ちょっと面白い子だったのかな?

 続きには、よしのちゃんがこの世界に来た時のことが書いてあった。




 『私はこの世界に喚ばれて、仕方なく聖女とかってやつになってやったけれど、なんだか雲行きが怪しかったから逃げ出してやったわ。この大陸の北の国、私の来た時代ではあまり良くなかったけれど、今これを読んでいる人がいる時代はどうかしらね?』




 うん。今も怪しいままですよ。北の国。




 『私は自分の意思で自由になったわ。聖女としての力は残っているけれど、使うつもりもないわ。もしこれを読んでいるあなたが聖女ならば、レベル60で覚える技だけは使うのをやめなさい。私が喚ばれる前の聖女が使ったそうだけれど、跡を見ただけでもわかる。あれは世界を壊す力よ。


 私はこのまま、気ままに旅をする事にするわ。


 そして……


 本能寺の変で消えた信長様をお探しするわよーーーーーー!


 遺体が見つからなかったという信長様……きっとこの世界に飛ばされてしまったのだわ!だって異世界転移ものって、死ぬ直前に転移するのが定石だもの!きっと信長様もこちらにいらっしゃるのよ!

 異世界転移には時間軸も変わるっていうし、ご存命の確率もあるわよね!

 そして、見つけたら私は……。


 信長様に一生お仕えするのよーーーーーー!!そして歴史の一ページを事細かに教えて頂くのよーーーー!!オーーーーーーーッホッホッホッホッホーーー!!』




 うん。この後は信長様への熱い愛が書き連ねてある。


 きっと、よしのちゃんは歴女というものなのでしょう。信長様ラブ!なのかな。


 なんだか重い事も書いてあった気がするんだけれど、後半の熱さに全て吹き飛んでしまった。熱風のような文章の羅列でしたよ……。


 「どうだったアルか?」

 「コッメについての情報が書いてありました。読み上げるので、メモしてください。」

 「わかったアル!書くものモット持ってくるアルヨ!」


 バタバタと紙を取りに行ったアールさん。それを見送っていると、ノートを持っていた手にクレスさんの手が触れた。そっとノートを下ろされる。


 「何か不安になるような事が書いてあったのか?」

 「いいえ。ただ、ちょっとこの子の事が気になっただけで。大丈夫ですよ。」


 きっともうこの世界には生きていないであろう女性の事が。



 私は自分の意思で自由になったわ。



 この一文に、力強さを感じた。もし会う事ができたのなら……きっと仲良くなれそうだなと、すごく引っ張られそうだけれど楽しそうだなと、ありえない妄想をしてしまった。


 このノートは新品同様の綺麗さを保っているけれど、村の人はコッメの精米方法を忘れてしまっている。それほどの年月が経っている。


 会う事が出来ないのは、残念だなー。

キャンペスノートって無理がありすぎたかな……。


よしのののーとは、もしかしたらまた見る機会があるかもしれません。おーほっほっほ。

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