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39 目を見て話しなさい!って中学生の頃先生に怒られたのを思い出しました。


 「大丈夫?」

 「うぅ……。すみません。ご迷惑おかけします……。」


 ギルドの端っこにあるイスに座り、テーブルに突っ伏して休憩中。マータさん、ビータさんには心配をかけてしまった。


 「一体、なんで急に具合が悪くなったのかしら?」

 「羽付きモモの姿を想像してしまいました。もしかしてなんですが……羽付きモモって虫なんでしょうか?」

 「私たちも見たことはないわ……。でも虫だったとしたら……。」

 「はい……。虫だったとしたら、大量の虫が襲ってくることになりますし……羽付きモモキングは……。」

 「なるほどね。確かに気持ち悪くもなるわ。」


 私の想像は、正しく二人に伝わったようだ。二人は仕方がない、と言うかのように肩を竦めた後、私の肩をポンっと叩いた。


 「じゃぁ、あなたが回復するまでに、私たちも用事を済ませてくるわね。」

 「ここから動かないでね。」

 「わかりました。行ってらっしゃいー。」


 二人を見送り、テーブルに突っ伏したまま考える。調べたことを踏まえて、私に出来ることは何か。


 羽付きモモ達は、一度飛ぶと曲がれない。なら、飛んだところを狙って虫網で捕まえるとか?……虫網の強度と、虫網の数が問題かなぁ……。っていうか虫網ってこの世界にあるのかな?一から作る?材料とか作り方とか考えないといけないし、それこそ強度が問題になるかなぁ。

 しかも、捕まえた後の処理が大変そうだし……うーん。やっぱり虫網は難しいかなー。

 虫網にしなくても、大きな網でも良いのか。迫りくる羽付きモモを網を張って待つ……恐ろしや……。私はしたくないぞー。だって網目から飛んで来るのが見えるんだよ?


 私が考えに耽っていると、スライム君が私の頭の上で跳ね出した。跳ねるたびに私の頭が上下に揺れる。


 「あーたまーを揺らーさなーいでー。もう、せっかく治ってきてたのにー。」


 タイミングを見計らって、頭上のスライム君を両手で掴む。うん。今日もいい弾力。

 スライム君を目の前に持ってこようと、突っ伏していた顔を上げると、テーブルの近くに人が立っているのが見えた。


 「マータさん、ビータ……さんじゃなかった。」


 完全に二人だと思って、声をかけながら立っていた人の方を見ると、見知らぬ男性だった。


 「君、なんで魔物と戯れているのだ?」

 「へ……。」


 男性は、ニコニコと楽しそうな顔をしている。ちょっとその笑顔が怖い。だって、まるで貼り付けたような顔なんだもの。不自然ですよーその笑顔!


 「……スライム君は、私の友達です。一緒に暮らしているんです。」

 「へぇー。面白いね。」


 とても面白がっているように思えないんですけどーー!より深まった笑みが、私に鳥肌を立てさせる。なんでこんなに怖いんだ、この人。っていうか、弧を描いて細まった目が一回も開かない!見えているの?その目は常にその形なの!?


 男性はそのままイスに座った。なぜ私は知らない人とテーブルを一緒にしなければいけないんだ。


 「あの……。」

 「私はコラン。スライムと仲良しな君にとても興味がある。ぜひ話を聞かせて欲しい。」

 「えぇ……。」


 思わず心の声が出てしまった。初対面の人に興味があるって言われても、困惑しかない。


 コランと名乗った男性は、細面でシルバーグレイの髪。無造作ヘアーとでもいうのかな……うねってあちこちに飛んでいて、それぞれの毛先が自由だ。ボンバーだ。目はずっと弧を描いていてどんな色の瞳なのかはわからない。冒険者な格好なんだけれど、そこまで強そうには見えないな。スラリとしていて……言うなればひょろっこい?剣とかも特に見えないんだけれど……。どんな戦闘スタイルなのかな?


 顔をこちらに近づけて、グイグイ質問してくるコランさん。主にスライム君の話だ。

 私は仕方なしに出会った時の事とか食べるものとかを教えた。


 「じゃぁ、このスライムは君の言葉を理解しているのだね?」

 「たぶん……大体のことは理解してくれていると思います。」

 「素晴らしい……このスライムをぜひ研究したいのだよ……。いや、餌付けすればどのスライムもこのようになるのか?あぁ……帰りにはスライムを捕獲しなければいけないな……。」


 恍惚の表情なのかな?口がだらしなく開き、若干よだれが出ている。目が弧を描いたままなので、はっきりとはわからないけれど、だいぶいっちゃってるね……。もうやだこの人怖い。

 スライム君も怖がっているのか、私の腰に張り付いたまま時折プルプル震えている。


 「君と友達であるスライム君はどこで知り合ったのかな?」

 「えっと、エンジュ共和国です。」

 「そうなのか……各国のスライムを捕獲したいとは思うが、まずはエンジュ共和国から始めることにしよう……ああ、楽しみだ。」


 ごめんよエンジュ共和国に住むスライムさん達……。私のせいで乱獲される未来が確立してしまったよ……。


 「コランさんは冒険者なんですよね?」

 「ん?ああ。私は冒険者もしているが、研究の方が好きでね。各国を渡り歩いて魔物を調べているんだよ。」


 魔物の研究……。なら、知っているかな?


 「あの、羽付きモモって知っていますか?」

 「羽付きモモ……雑食、群れで活動する魔物。確か……拳大の大きさだったかな?」

 「はい!す、姿は!姿はどんななのでしょうか!」

 「んー。こんなだったかな?」


 そう言って紙とペンを取り出すと、スラスラと絵を描いてくれる。研究する上で絵をよく描くのかな?

 描き上がった絵をこちらに向けて見せてくれた。


 「モモンガ……?」


 前足から後ろ足にかけてある皮膜を張り、滑空する瞬間を捉えたような、躍動感のある絵だった。っていうか、絵うま!

 クリっとした瞳。リスのようなふんわりした尻尾。そして、私の知っているモモンガにはない、トンボの翅のような羽がついていた……。


 「羽付き……モモンガ……。」


 すごく予想を裏切ってくれた!良かった!虫じゃない!良かった!!

 私はいつの間にか、ガッツポーズをしていたようだ。スライム君が顔に張り付いてくれて、我に返った。


 「失礼しました。」

 「いやいや。役にたったのかな?」

 「はい!とても!感謝します!」


 やっばい人と関わってしまったと思っていたけれど、今となっては感謝しかない!だんだんこの貼り付けたような笑顔にも慣れてきた。


 「しかし、なぜ羽付きモモについて知りたかったのだね?」

 「今、羽付きモモが繁殖していて……コッメという植物を守るための依頼を受けているんです。それで、羽付きモモについて調べに来ていたんです。」

 「へぇ。羽付きモモが……。もうそんな季節だったのだね。ふむ……。」


 顎に手を当てて考える仕草をするコランさん。目は弧を描いたままだけれど、笑顔ではなくなった。

 あれ?この人結構なイケメンだった?髪をしっかり整えて、貼り付けたような笑顔をしなければ絶対カッコイイ部類なのに……。もったいないね。


 「……私も一緒に行って良いかな?羽付きモモを研究出来る良い機会だ!……村の事も心配だし!一応戦闘も出来るよ!」


 取ってつけたように村の事言われても……。絶対研究したいだけでしょ、この人。でも戦力が増えるのは良い事……だよね?


 マータさんとビータさんが戻って来たら連れて行って良いか聞かなくちゃ。私だけでは判断出来ないからね。

 でも、羽付きモモについて詳しい人が加わってくれたら、心強いよね!


 ……変な人っぽいけれど。

変な人が仲間になりたそうにこっちを見ている。


仲間にしますか?

   はい

   いいえ



 羽付きモモはモモンガでした。あんまりキモい内容は書きたくないですからね……。虫とかあまり出したくないです。

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