37 決めポーズの後ろには、爆炎が付きものですよね!
今回も若干のホラーがあります。前回ほどのものではないですが……。
追記
米びつ辺りの文章が変になっていたので、修正しました。
無事に渓谷を抜けたので、グリちゃんと私を縛っていたロープは外してもらえた。……不吉そうな人形さんは、しまう事が許され無かったけれど。はぁ……。
外したロープは、不吉そうな人形さんを腰に縛っておくために活用された。そ、そんな顔でこっちを凝視したってもう髪の毛はあげないんだから!
野営地を出て木が生茂る道を進み、抜けた先はスケールの違う世界だった。
目に入るのは大きな大きな川。遠くに山が見えるが、この辺りは平原だ。道の横を走る大きな川は、うねりながら南に向かって流れていた。
この国には、国境の壁は無いのだそう。代わりに、この横を流れる大きな川が線引きのような役目を果たしているんだって。
「うわぁ……。」
川が大きく曲がって、北と南に陸を分断している。道の横を走っていたのとは違う川もここで合流していて、川の幅はかなり広い。たぶん……百メートルはあるんじゃ無いかな。その川に馬車一台通るのがやっと、という幅の橋が何本か架かっている。
橋は、吊り橋効果が発動しそうな頼りない物ではなく、川に橋脚を下ろしていて、石造りのしっかりしたものだ。
そして、川の向こうに門があるのが見える。きっとあれが国境の門なのだろう。……でも、門があるだけで、ギベオン王国のような国境の壁は無かった。
「この川を横切るにはかなりの技がいるのだそうだ。だから基本はみんな橋を渡る。国境の壁が無くても大丈夫なのは、この川が決して細くならないからだろうな。」
大きな川とその奥ををじっと見ていたら、クレスさんが説明してくれた。決して細くならない川。この川は、季節によって水量が変わったりしないんだ。いろんな場所から合流するから、どこかの水量が少なくなっても他が補ってくれるのだろうか……。
「入国して、最初の街でみんなと合流予定だ。今日は間に合わないだろうから国境に入って夜営だな。」
「りょうかーい。」
クレスさんの指示にマディラさんが間延びした返事を返している。グランディディ王国に入ってから夜営をする事になった。
ここには国境の街、というものがない。国境を守る兵のための小さな小屋があるだけ。宿とかあったら絶対儲かると思うんだけどなぁ……。
はっ!
良い立地……コンビニ二号店……宿屋も併設……丸儲け……?
「チカ……?大丈夫か?」
「はっ!!」
危ない。鍋に入れた具材が全て粉々になるところだった……。ちょっとグルグル回しすぎちゃった。
「すみません。考え事をしていました。」
ちょっと具が細かめになってしまったけれど、久々に肉じゃがを作った。
持ってきたコッメも炊いて、今夜は和食の晩ご飯だー!……そのためには、コッメを精米しないとね!
お米は精米すると、どんどん劣化が進む。だから精米した後は冷蔵保存が良いの。田舎のお婆ちゃん家は米農家で、精米したお米はいつも冷蔵機能付きの米櫃に入れていたんだよね。精米してない物も、倉庫の中の大きな冷蔵庫に入っていた。
今のところ、冷やす機能の再現は出来ないから、せめて精米は直前にね!
「スライム君!」
ぽよよよーーん!
……そんな、呼ばれて飛び出てぽよよよーんみたいな。ノリが良いなぁスライム君よ。っていうか、なぜ決めポーズに不吉そうな人形さんが参加しているのかな?いつの間に私と人形さんを繋ぐ腰縄から逃れたのか。そしてポーズが戦隊ものっていう……。何故に。
そうそう、スライム君にも一緒に来てもらったのだ。精米方法が今のところこれが一番早いし、スライム君も新しい場所で新しい食べ物があるかもって言ったら、私にしがみついて来たからね。
そんなスライム君に精米してもらって、コッメを炊きましょう。
ご飯ができる様子をじっと見つめる不吉そうな人形さん。私の方を見ていないのも珍しい。
お鼻をスンスンしたり、火の様子を見たりと忙しなく動いている。コッメを炊いている鍋の蓋を少し開けて、様子を見ようとすると、一緒に覗いてくる。コッメに興味深々だなぁ。
ただ……たまに思い出したように目を見開いてこっちを凝視するのはなんとかならないのかな……。
炊けたコッメをみんなの器に盛って、スライム君の分も確保して、ふと思った事を聞いてみた。
「人形さんも食べてみる?」
コクコク。
聞いておいてなんだけど……食べるんだぁ。
嬉しそうに勢いよく頷いていたし、ちゃんと用意してあげましょう。コッメ少し、肉じゃがも少し。どのくらい食べられるかわからないものね。
みんなで火を囲いながら、ご飯を食べる。みんな美味しいって言ってくれた。良かったー!
私はドキドキしながら人形さんをチラ見した。
フォークはちょっと大きくて、食べづらいかな?でも、器用に持っている。
ひとすくい、口に運ぶ。
モグモグ……。
カッ!!!
「ひぃ!」
その、いきなり目をカッって見開くの怖いんだよー!
……でも、美味しかったのかな?一生懸命口に運んでモグモグしている。人形がご飯食べる、とか味がわかるのか、とか……もうよくわからないけれど、異世界だもの。で、良い……のか?
晩ご飯を食べ終えてテントに戻る。
テントの入り口を開いた瞬間、目に入ったのはショルダーバッグ。壁側に置いておいたはずのバッグが真ん中にあった。
そして……そのバッグの口から髪の毛が出ていた。びっくりしすぎて声が出なかった。
自分からは出られないんじゃ無かったのーーー!?
髪の毛だけでも出てるってやばくない?なにがそんなにあなた達を突き動かしたの!!
まさか……!
「……あなた達も食べたかった……?」
ゾワゾワゾワゾワ!!!
「ひぃぃぃ……わかった!明日の朝ごはんは二人にも出すからぁー勘弁してぇぇぇぇ……。」
恐れ慄きながら宣言すると、髪の毛達はするするとショルダーバッグに戻っていった……。もうやだぁ……。
次の日、朝ご飯を食べた後の少しの時間、三体の不吉そうな人形さん達とスライム君は戦隊ものっぽい決めポーズの練習をしていた。
……気に入ったんだね。
グランディディの街に着いて、みんなと合流した後は、アールさんの故郷の村に一直線で進んだ。
更に南に向かっての移動だ。建物の造りはどんどん変わっていった。石から木に。木から土に。アールさんの故郷の村も、土壁だった。けれど、色彩豊かな布がかかっていたり、綺麗な草花が飾ってあったりして、結構綺麗な村だった。
村に寄り添うようにあるのは田んぼ。村の規模よりも断然大きな田んぼは、村に着いた時間帯もあってとても美しい景色を見せてくれた。
夕陽に照らされる水面と、その水面から真っ直ぐ伸びるコッメの葉。夕陽の茜色と葉の影の色は、小さい頃お婆ちゃん家に行った時に見た景色と何も変わらない。
一瞬、戻って来たのかと錯覚してしまいそうになった。そのくらい同じだったから。
いつの間にか足を踏み出していたみたい。
「チカ。どうした?」
「いえ、なんでもないです。あんまり綺麗だったから、足が勝手に動いちゃったみたいです。」
クレスさんが手を掴んで止めてくれなかったら、田んぼに足を突っ込んでいたかもしれない。
泥だらけにならずに済んで良かった。
田んぼに足を突っ込んでも、きっと元の世界には戻れないだろう。
千華からちょっと離れた場所では、夕陽に照らされた水面を背景に戦隊ものっぽい決めポーズの練習をする人形とスライムの姿があった……。って入れたかったんですが、さすがにちょっと雰囲気ぶち壊しすぎるかなって思って入れられませんでした。
でも、多分やってます。決めポーズ。




