35 全力全開で撫でるってのは、なかなか出来ないですよね!
誤字報告ありがとうございます!
依頼を受けてくれる冒険者さんは、私を含め二十人になった。
これだけの人手があれば、一部だけでもコッメを守る事が出来るアル、とアールさんは予想していた。
……これだけ冒険者を集めても守れるのは一部だけなのかな、と不思議に思った。
この国の冒険者ギルドには、コッメを狙う魔物の情報は無く、どんな魔物なのかも分からない。アールさんによると、一匹一匹は小さく、そこまで強くはないって事だけ。コッメに群がっているうちに、村のみんなで力を合わせて退治出来るって言ってたものね。
「それじゃぁ、グランディディ王国に向かってしゅっぱーーつ!皆さん後でお会いしましょー!」
「「「「「おぉーーーーー」」」」」
冒険者さん達はそれぞれに移動する手段を持っている。それは数人で乗り込む馬車だったり、馬さんや獣さんたちを慣らして、騎乗するタイプだったりと色々みたい。
アールさんは商人らしく馬車だけれど、想像していたよりは小ぶりな馬車だ。きっとカルセドニー渓谷を通るための仕様なのだと思う。冒険者さん達が使う馬車はもっと小さい。荷物をたくさん積むというよりは、小回りを利かせる事に重点を置いているのだと思う。
速さもそれぞれ違うので、同じくらいの速度ごとに組んでカルセドニー渓谷を越える事になっている。なので、速度の違う人たちとはグランディディ王国まで暫しのお別れだ。
私はみんなに挨拶をした後、先頭の方で待機している集団へと向かう。
久々だなぁ……!
「グリちゃああぁぁぁぁーーーん!!」
「クエエェェェェ!!」
うはぁぁーー!このモッフモフ!この抱き心地!最高ーーー!!
グリちゃんの首に両腕を回すが、指先はくっつかないほどに太い!こんなに大きくて、力一杯抱きしめて、もふもふしても怒られないなんて……幸せーーー!!
羽をバサバサと羽ばたかせながら、グリちゃんも顔を擦り付けてくる。喜んでくれているみたいだ。あーー可愛い!!
「相変わらず、仲が良いな。でも走れなくなるほど撫でるのは勘弁してくれ。」
「ちゃんと加減はしてますよー!そして、グリちゃんと私は仲良しです!クレス、グリちゃん。今回もよろしくお願いします。」
「クエ!」
「構わないが……良かったのか?馬車に乗る事も出来るというのに。」
「はい!久しぶりにグリちゃんに乗れるのはとっても嬉しいですから!それに、もう慣れましたよ!もう叫びません!」
「クエェェェ!!」
「……そうか。」
アールさんが乗せてあげるアルよって言ってくれたけれど、丁重にお断りさせて頂いた。
だって、久々に森を抜けて、草原を駆け抜けるんでしょう?なら絶対爽快感がある方が楽しいよね!
それに、クレスさんとお話したいなって思ったんだ。……これは、言わないけどね!
クレスさんが仕方ないなっていう顔で笑ってくれた。ちょっ!その笑顔、反則です!!
「僕もいるんだけどなぁ……まぁ良いか。」
珍しく主張しなかったマディラさんがポツリと呟いていた。ふり返ると、アイリーちゃんに髪の毛を食べられていた……。
首都を発って街をいくつか通り越し、何度か夜営をし、森を抜けた。後はカルセドニー渓谷前まで突っ走るだけ。
目の前に広がるのは、青空と草原。そして遠くにカルセドニー渓谷の大きな山だ。山のてっぺんにはまだ雪が少し残っている。上の方は寒いだろう。この景色をグリちゃんに乗って駆け抜ける。爽快だ!
今回のパーティーはクレスさんとマディラさん。それにマータさんとビータさんが一緒だ。私も入れて五人だね!
ちなみに、マータさんとビータさんが乗っているのは大きなスズメだ。大きい。あと目つきがとっても悪い。二羽ともに。
跳ねるように地面を蹴って、羽で軽く滑空する移動の仕方を最初に見たときは、ちょっと面白いなと思って吹き出しそうになった。飛ぶのか、飛ばないのか!って感じ。
今は二羽で寄り添って、キョロキョロとしている。その仕草がシンクロしていて可愛い。
「ジュン!」
「目つきは悪いし声も低いのだけれど、仕草が可愛すぎる……。」
休憩時間中にスズメさん達に近寄って見ていると、マータさんとビータさんがクスクス笑っていた。
「目つき悪いわよねー。」
「声も低いしー。」
「「でも可愛いのよねー!」」
最後は声がぴったり重なっていた。猫の獣人姉妹さんと私の意見は完全に一致したー!
「ジュン!」
「ジョン!」
「この子達も私たちと一緒で兄弟なのよ。依頼で山に入った時に、巣から落ちて鳴いているところを発見して、私たちが保護したの。」
「最初はこーんなに小さかったのよ。」
ビータさんの仕草からして、最初は私の良く知るスズメほどの大きさだったらしい。
雛のうちから大人サイズだったのかー。それが今では人を乗せるサイズに……。すごい成長率だわー。
「良い物を食べさせ過ぎたのかもねー。」
「何を食べるんですか?」
「狩った魔物の肉よ。持って行けない分をあげるんだけれど、少しあげ過ぎたかなー。」
「ジュンジュン!」
「ふふふ。冗談よー。」
「ジョン!」
……スズメも肉食だった……。まじか。この世界、草食動物少なくない!?
「それにしても、そんなに熱心に見ていると……。」
マータさんが、心配するような顔で私の奥の方を見ている。つられてふり返ると……。
「嫉妬されちゃうわよー?」
グリちゃんが目をウルウルさせてこっちを見ていた……。心なしか羽もプルプルしていた。
「可愛い過ぎか!!」
「「フフフ!」」
ダッシュでグリちゃんに抱きついて、ナデナデしまくった。
移動は順調で、出発から三日目でカルセドニー渓谷の足元までたどり着いた。
今日はここで一泊して、一日で渓谷を通り抜ける。前と一緒だね。
夕飯を食べて、後は寝るだけ。焚き火を見つめていると、クレスさんが隣に座った。
「明日の準備、終わったか?」
「はい。クレスも終わりましたか?」
「ああ。」
「なら良かった。お疲れ様です。」
その後は二人で静かに火を見つめていた。
この、何も喋らない時間ですら心地良い。クレスさんが隣にいて、一緒に旅をしている。その状況が既に嬉しいと思っている。依頼で来ているのに、少し不謹慎かな?
……クレスさんも同じように感じていてくれたら……嬉しいな。
ぼーっと火を見つめていると、だんだん眠くなってきた。そろそろ寝袋に入らないと……。
「クレス……。そろそろ……。」
「寝るか?」
「ん……。」
だめだ。眠気が究極すぎる……。私この三日で結構疲れていたのかな?動けない……。
赤い火がゆらゆらと揺れる。遠くなる意識の中で頭の中でも火が揺れている気がする。もう自分が目を開けているのか頭で火を想像しているのかの区別もつかなくなっていった。
そのまま眠りの世界に入っていったのだと思う。
朝、目が覚めると、私は寝袋に入っていた。
静かにテントから外に出ると、マータさんが朝食の準備をしている。
「おはようございます。」
「あら、おはよう。昨日はずいぶん疲れていたのね。」
「そうみたいです。自分でも気付いていなくて……。私って焚き火のところで寝ちゃった気がするんですが……。」
「フフフ。クレスだったかしら?彼が運んでくれたわよ。起きたらお礼を言うのね。」
「うはぁ……。はい。」
眠気に抗えず、クレスさんに運んでもらっていたとは……。
私は子供かーーーー!
っていうか、重かったんじゃないかなぁ!!あああああ!恥ずかしいーーーーー!
その後起きてきたクレスさんに、最敬礼のお辞儀で感謝を伝えた。角度は九十度ですよ!
若干クレスさんがしどろもどろになっていたんだけれど……。私、よだれ垂れたりしてないよね?……それとも思ったよりも重かったとか?恥ずかしくて聞けないけど、きっと何かやらかしたんじゃないかな……。あああ……。
久しぶりに恋愛要素が入っている!
……いるのかな?
最近、お引越しで投稿が遅かったので、頑張ります!




