34 ピンポイントで記憶力がすんごい力を発揮する事があると、不思議に思います。
誤字報告、ありがとうございます!
二日間、無料の試食も配りつつ大きめサイズの販売も行った。
一日目に試食を食べた冒険者さんが、二日目には大きい方を買ってくれたり、おむすびの感想を言ってくれたりして、なかなか好評だった。
「やっぱり、コッメは美味しいアルね!みんなに知ってもらえて嬉しいアルよ。」
「そうですね!みんなに美味しかったって言ってもらえると、とっても嬉しいですよね!」
「あとは依頼を受けてもらえるか……アルね……。」
「そうですね。そのためには、もっともっと良さを知ってもらいましょう!そう……コッメ無しには生きられないほどに……ふふふ……。」
「ちょっとキャラ変わってるアルよ?」
コッメに合うのはお肉だけではない!って事を知ってほしい……。そんな願いを込めて三日目の具は、お肉の量を減らして、代わりに小松菜と炒り卵を混ぜた具にしてみた。味付けはやっぱり醤油と砂糖。ワンポイントは、お肉が柔らかく味が良く染みるように、片栗粉をまぶしておく事!
……学生の頃ボケーっと見ていた料理番組のワンポイントがここで役に立つとはねー。全体の内容は覚えていないんだけれど、そのワンポイントだけが頭に残っているんだよね……。脳って不思議だわ。
「今日もお弁当を販売しておりますー!どうぞお仕事に買ってくださいませー!」
「お、今日はもう、えっと……ししょく?は無いんだなー。」
「はい。今日からは販売のみになります!でも昨日、一昨日とは違う具が入っていますので楽しんでもらえると思いますよ!」
「はは!嬢ちゃんノリノリだなぁ。じゃぁ、一つ貰おうかな。」
「ありがとうございますー!」
このギルドの人達は、もう慣れてしまったのかみんな微笑ましい顔で買ってくれる。昨日のようなテンションの人は何故かいなかった。そのテンションが高かった人は普通にギルド内に居て、今日も買ってくれるんだけれど、とても落ち着いている。むしろちょっと挙動不審?
あの物凄いテンションは何だったのだろう……。
「チカー!」
「ん?あ、ジェット君!」
ギルドの入り口から元気な声が聞こえた。そちらを向くと、ジェット君がこちらに向かって小走りで来る所だった。
一生懸命に走ってくる、子犬のような姿にハートが撃ち抜かれる。グハァ!
「ジェット君おはよう。」
「おはよう、チカ。みんなもね、お弁当買いたいって来てるんだ!」
「え?」
そう言われて、もう一度ギルドの入り口を見ると、学校の子供達が興味津々という感じでギルド内を見回している。
「みんな……。」
「チカー!買いに来たぞー!」
「ここでしか買えないって言うから、先生に連れてきてもらったのよ!」
「キャンディは売ってないのー?」
セイン君、サーシェちゃん、タルク君の順番で思い思いに話しかけてくる。冒険者ギルドの見学は14歳からだけれど、先生も一緒なら大丈夫なのかな……。それに朝だから呑んだくれもいないし、帰ってくる冒険者さんもいないから、返り血まみれ……なんて人もいないものね。
子供達は自分の分を買うと、大事そうにカバンにしまっていった。そんな風に扱ってもらえて、私は幸せな気分になった。
しまい終えると、セイン君が思い出したように手を叩いた。
「チカ、街のみんなも食べてみたいって言ってたぞー。」
「そうなの?……そっか、ここでしか売っていなかったから、気になってしまったんだねぇ。」
「街の人にも売って大儲けだー。そしたらキャンディもいーっぱい買えるよ。」
「ふふふ、そうだね。」
せっかくだから、街の人にも食べてもらおう。いつか私がお店を出した時に買ってもらえるように、味を知っていてもらいたい。
まずはアールさんの故郷を優先なので、余った分だけ売る感じだけどね。
結局、その日は余らなかったので、四日目は今までよりも多めに作っておいた。
ギルドでの販売を終えて街の中心部分、露店が並んでいるエリアに近づくと、街の人が私に気付いて寄ってきた。
「おー!とうとうこっちでも販売するんだなー!冒険者どもがみんなして美味い美味いって言うもんだから、気になって気になって仕方なかったんだぞー!」
「わー!これがお弁当なのね!丸いし、真っ白ね!どんな味なのかしら……。」
「とりあえず美味いのはわかっているから早く売ってくれー!」
そんな勢いのまま、あれよあれよと完売した。
みんなの勢いに思わず笑顔になってしまう。味もわからないはずなのに我先に、と買って満足そうな顔で帰って行く。
まるでお祭りのように、楽しく騒ぎながら。
この雰囲気がすごく好きだ。私は本当にいい国に来たんだと改めて感じた。
五日目。グランディディ王国に向かう前の、最後の販売だ。
最終日は、肉肉しい物にした。
炊いたコッメにサイコロステーキとゴマをまぶして握った、肉まぶしおむすび。ステーキのソースもコッメに馴染んで、一口目から美味しいおむすびになった。
今日も順調に売れている。いつもより大人しめに売りながら……。
「今年はこのコッメ、収穫の危機なんです。コッメを助けるために、グランディディ王国での依頼を受けてくれる人を募集中です。」
このおむすびも、この先中々食べられなくなるかもしれないんですよね……。と、とても残念そうな顔で呟きながら販売した。
「あー。それで嬢ちゃんはこの弁当を販売してたんだなー。」
「美味しい物ってわかっていたら、惜しいと思うから、依頼を……って寸法か。策士だなぁ!」
「はい。私はアールさんのお手伝いでここで販売していたんですよー。このコッメは、アールさんの故郷、グランディディの食べ物なんです。」
「そうかぁ……ま、頑張れよぉー。」
私の意図に気付き、なるほどなー、と感心しながら買ってくれる冒険者さん。でも、依頼を受けると言ってくれる人は現れない。
「やっぱり五日間じゃぁ、コッメ中毒にするのは難しかったか……。」
「だんだんやばいこと言うようになってきたネ……。でも、本当に人手が集まらないと困るアルよ……。」
主食がパンの国で、たった五日間じゃぁ無理だったかなぁ。
……でも、この美味しさに気付いてくれた人は多いはず!今日一日、まだまだ諦めないんだから!
そう決めて、根気よく声をかけ続けた。
「その依頼、受けてもいいわよ。」
「本当ですか!?」
もうすぐお昼になる、と言う時間になって初めて依頼を受けてくれるという人が出た。
その人は、おむすびについて冷静に話を聞いてくれていた女性の冒険者さんたちだった。
姉妹なのかな?そっくりな見た目の猫の獣人さんのお姉さんたち。
一人は灰色の毛並みに黒い縞模様が入っている猫さんで、目が茶色。
もう一人はクリーム色の毛並みに茶色い縞模様が入っている猫さんで、目が灰色。
毛並みと目の色がお互いと色違いだ。クリッとした目が愛らしい。二人とも穴の空いたフードを被っていて、その空いた穴から耳が出ていた。
「このコッメって言うのは、あまり口の中がパサつかなくて良いのよね。この依頼でコッメを守れたら、また販売してくれるんでしょ?」
「やるアル!」
私が答える前にアールさんが答えていた。作るのは私なんですけどーーーー!
売りたいなと、は思っていたけれどね。お店を持つ前に、まずはギルド内で出張販売かなぁ……。いい下積みになりそうだ。うん。
「それならその依頼受けて損はないわね!よろしく。私はマータ。」
「私はマータの妹の、ビータよ。」
「よろしくお願いします!マータさん!ビータさん!」
そんなやりとりを聞いていた男性陣の数人が、ちらほらと依頼受けてくれると言ってきた。
最初の一人が現れると自分もー、となる現象かな?とりあえず、良かったーー!
「……フフフ……またここで販売してくれるって事は……チャンスが……ヒィ!?」
コッメチャンス?とか、何かをブツブツとしゃべっていた男性の冒険者さんの後ろに、クレスさんがいつの間にか立っていたのはびっくりした。いつからいたのだろう?
後ろに立たれていた冒険者さんは、なんだか異常に挙動不審になっていたような気がした。
お弁当販売だけで結構話数が行ってしましました……。でも、のんびり部分が書けて楽しかったです。
猫姉妹の名前をちょっといじると……
マータタービ。となります。安直!
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