32 夏休みの宿題のポスター作成は、お米とごはんと私。がテーマだったんですよ!
誤字報告ありがとうございます!
さて。コッメを守るための戦力確保をしなければならない。
魅力と言ったらもうこれしか無いよね!お米ですよお米!ごはん!
ごはんの美味しさを知ってもらって、失うにはもったいない!と思ってもらうのが一番だよね!
そのためにアールさんにお願いして、いくらかお米を買って来た。
こんな時でも売るんかい!とはちょっと思ったけど……商人だからねー。割安にはしておいたアル!って言っていたから、信じましょうか。
一回解散して、お米を持って帰ってきました。自宅です。
まずは、精米。
「かといって、私に精米技術も知識もないんだよねー。」
多分、この籾殻を取り除いて玄米にして、それをさらに削るか切るかして、白いお米にするんだと思うんだ。記憶になんとなくあるのは、木で出来た臼のような物をグリグリ回して摩擦で削るって感じの物。それで籾殻を取って、杵と臼で精米するんだったよね……。でも、木で出来た臼のような物は無いし、作れない。中の構造もよくわからないものね。
「棒でグリグリしたら削れないかなー。……ん?」
麺棒でゴマを擦るように、お米も擦ったらどうかな……と考えていると、何するの?と言いたげなスライム君がテーブルの上にやってきた。
「……スライム君。」
スライム君は、食べ物を溶かすように食べているのを思い出す。
……うん。
「スライム君や、君にとうとう仕事が出来ましたよ。」
「?」
「これをしてくれたら、唐揚げにとーってもよく合う主食をご馳走しようじゃぁーありませんか!」
「!!」
スライム君は体を目一杯上に伸ばしてびっくりしているようだ。唐揚げに合う主食と聞いて、かなりやる気になってくれた。
これで精米は解決するね!
あとは……私の安全を守る事。クレスさんがくれたこれを使う時、だよね。
アールさんのお店に集合した。
あれを初めて使うという事もあって、クレスさんにも来てもらった。クレスさんも一緒に来たことについては、アールさんはあまり気にしていないみたいだ。
「まずはじめに……アールさん。コッメを守るための手段に、私の知識を提供します。そのかわり、この精霊の契約書で契約を交わして欲しいんです。」
アールさんの前に、精霊の契約書を出す。
「内容は、私の事を誰にも言わない事、聞かない事。私がコッメや醤油を大量に買う時に、仲介してくれる事。そして、私はアールさんの故郷のコッメを守るために、最大限の情報を提供する事。です。破れば……喉が焼けます。」
「……そんな事でいいアルか?」
「はい。」
アールさんは、こんな何の変哲も無い女の情報、欲しがる人などいないであろう。喋るわけがない。という顔をしている。それでも、私は自分の身を守るために必要なのだ。喉が焼けるというのは、二度と喋れなくなる。という事。商売人にとってかなり手痛いものになると考えた。流石に全身燃えるのは怖いから、このくらいで良いのではないかと考えて、クレスさんに相談して決めた。私も契約内容を破れば燃えちゃうからね。
ちょっとだけ拍子抜けしたような顔のまま、アールさんは同意してくれた。
契約書にお互いの名前を書く。
アールさんが書いて、次に私が書く。名前を書き終えると、ひとりでに契約書が宙に浮いた。
「わぁ……。」
テーブルから離れ、目の高さまで浮いた契約書は四隅を光らせる。火の模様のような部分が、本当に燃えるかのような赤い光を放った。
そのまま火が点くのではないかというくらい赤くなって、徐々に収まっていく。そして、またひとりでにテーブルに戻っていった。
「契約は成立した。あの光は、契約書を火の精霊が確認した、という証だ。」
「ほへぇ……。じゃぁ、すぐそこに火の精霊さんがいたのですか?」
「ああ。そうだな。」
「火の精霊さん。よろしくお願いしますね。」
私には精霊さんの姿は見えないようだ。残念。
見えない精霊さんに気持ちが伝わるように、手を合わせた。なんとなく、初詣で手を合わせた時の事が頭を過ぎった。
ちょっと視線を感じて、クレスさんの方を見ると、不思議なものを見るような目で見られていた。手を合わせるのって、この世界では変だったのかなー。
「ありがとうございます。……じゃぁ、コッメを食べてもらって、この美味しいコッメが失われるかもしれないという悲しい現実に立ち向かってくれる、勇敢な冒険者さんを募集しましょうか!」
そう言って契約書を仕舞い、炊いてきたコッメを出す。
「これが……コッメアルか?」
「はい。これがコッメの美味しい食べ方です。どうぞ食べてみてください。」
まずはアールさんに食してもらうのが一番だよね。炊飯器を使わないで炊いたのはこれが初めてだったけど、何となくこのくらいかなーって目分量で水を入れた。水の量が良くなかったのか、それとも炊く時間を間違えたのか……わからないけれど、運良くちょっと硬いくらいのごはんになったよ!
……硬いけど、食べられなくはないよ!くらいの硬さ。うん……精進します。
アールさんはもぐもぐと食べている。俵形のおにぎりにして、中にサイコロ状に切った唐揚げを入れてある。不味いわけはない!スライム君も初めて食べた時はびっくりし過ぎて、体が二つに分かれそうになっていたからね!スライム君が美味しいと思うという事は、この世界の人の口にも合うはず!
スライム君はグルメだからね!
「クレスも、どうぞ。」
「ああ。」
おずおずと手を伸ばし、食べ始めるクレスさん。じっくりと味わって食べている。
……やっぱりもう少し水加減?炊く時間?を気をつけておけば良かったなーーー!
アールさんに差し出した時には何とも思わなかったのに、クレスさんに食べてもらうって思うとちょっと恥ずかしいと思ってしまった。もっと完璧なごはんを食べて欲しい、なんてね。
「……美味い。」
「良かったです。」
私のご飯を美味しいといってくれた時と同じ顔を見せてくれるクレスさん。照れるなー。でも、次はもっと美味しいお米を炊きますからね!という気持ちを込めて、笑顔で答えた。
「……これが、コッメアルか……?」
「はい。これが本当のコッメの味です。」
「本当の……?チカはなんで美味しい食べ方を知ってるアルか……。」
……こうなるよね。
「私のいた国では、このコッメ……お米と呼んでいましたが、お米が主食だったんです。」
それから私は必要な部分のみをアールさんに伝えた。
別の世界に住んでいた事。私の国ではお米が主食で、品種改良をしながら美味しいお米を追求していた事。
私の事を言えないように契約したからこそ伝えられる。アールさんは気になっても、他の誰かに聞く事も出来ない。
ちょっと申し訳ないと思うけれど、これも自分の身を守るためだ。どこぞの国が召喚したとか、もう一人召喚された人がいるとか……そういう部分は省かせてもらった。
アールさんは踏み込んで聞いてくることは無かった。大人な対応に少し安心する。
「だから、この先の商品の仲介も依頼したアルね。」
「はい。出来る限り、私の事を知っている人は少ない方が安全ですから。」
アールさんもわかってくれたところで、話は冒険者を募る内容へと戻った。
「この美味しさを知ってくれたら、きっと冒険者も来てくれるネ……?」
「きっと来てくれます!そうなるように、冒険者ギルドの前で、数日販売をする予定です。」
「わかったネ!チカを信じるネ!……ところで、このコッメの籾殻?は、どうやって剥がしたアルか?」
「あー、それは……。」
アールさんは袖からコッメをおもむろに出すと、一粒手に取り籾殻を剥がそうとしている。けれど籾殻は固く、簡単には取れないだろう。
私はアールさんの出したコッメを一掴み取って、彼を呼んだ。
「スライム君や。」
私の足元でポヨポヨしていたスライム君は、私に呼ばれるとテーブルの上に乗っかった。
スライム君の頭?上からコッメを落とすと、スルスルとスライム君の体内に入っていく。
そして……。
ポポポポポポポポポポポポ!
口からスイカの種を出すように、スライム君の体の中心から白くなったコッメが出てきた。
テーブルの上に載っていく白いコッメを見つめるアールさんの顔は、豆鉄砲を食らった鳩のようになっていた。
私はあまり気にならなかったのだけれど……アールさんとクレスさんには衝撃的過ぎたみたい。
もっといい精米方法は無いのか!と、この後結構な時間、問い詰められてしまった。
豆鉄砲ならぬ、米鉄砲!的な?
スライムの体を通ったコッメを食べていたことに、ショックを受ける二人でした。




