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31 戦力外通告ってグサッと来ますよね。自分でわかっていても。

二章の始まりです。

ちょっと長めになってしまいました。


誤字報告ありがとうございます!!

 朝の鐘と鳥の声が目覚まし時計代わりの異世界。


 粗いガラスの窓から見える空は青い。いい天気に朝からのんびりとした気持ちにさせてくれる。


 この世界は朝が早いというのはあるけれど、それ以外ではあまり時間に縛られないので、暮らす人々は皆のんびりとしている。

 ずっと残業だらけの仕事や毎朝の満員電車に追われていた私にとって、こんなにのんびりした人生を送れるとは……そう思うと、意外と恵まれているような気もしてきた。



 聖女召喚に巻き込まれて異世界へとやって来た。最初はいらない子扱いされ、更に命が危ないと言われて……逃げるようにギベオン王国を出た。冒険者になって無職じゃ無くなって、そしてクレスさんに出会えた。そこから少しずつ、この世界が楽しくなっていったと思う。

 エンジュ共和国に来て学校で算数を教えたり、新しい街の建設のお手伝いをしながら少しずつお金を貯める日々。

 可愛い子供たちに優しい先生たち。のどかな獣人の街。私はここで生きている。


 いずれ、お金を貯めてスキル【コンビニ経営】で、しっかりとした生活基盤を整えたい。今のお仕事はアルバイトみたいなものだし。

 それに、異世界でお店を開くとか……楽しそうだものね!



 さて、今日も今日とてお仕事を頑張りますかー!


 「ぶふぉ!」


 突然目の前が真緑に。顔にひんやりとしたプルプルが張り付いている。

 完璧に鼻と口を塞ぐ事から、なんとなく怒っているような気がする。……なんで?


 「おはよう。スライム君。今日はやけに強烈だね。……まさか!回想に出て来なかった事に気付いて怒っている!?」


 布団の上で跳ねるスライム君。そうだそうだ!と言いたげだ。

 君はどうして私の心の声がわかるのかなぁ……。口に出して無いよね?ずっと独り言言ってたらやばいやつだもんね!うん。音は発してない。だからこそ、解せぬ。


 「スライム君とも出会えて私は嬉しいよー。毎日が楽しくなったもの。食費が少し嵩んでいるけどね……。」


 ちょっと何言っているかわかんない。と、しらばっくれてポヨポヨ跳ねているスライム君をベッドから下ろして身支度を始めた。


 今日は学校も街建設のお仕事も無いので、街から出て薬草採取をする日だ。

 外でお弁当を食べるから、スライム君もワクワクしてはっちゃけているのだろう。唐揚げは……少し作るかなぁ。



 街の外といっても、そこまで遠くまでは行かない。魔物を仕留める勇気のない私には、逃げることしか出来ない。なので走って門番の人に助けを求められる位置までしか行かないのだ。滅多に逃げてくる事は無いんだけれど……門番さん、仕事増やしてごめんよ……。


 今日も順調にタポーの葉を採取して、たまに見つかるマポーの葉も採取採取。お昼ご飯をスライム君と争うように食べて、午後も少し採取して街に帰る。


 門番さんが、私とスライム君の食べ物争奪戦を見て笑っているのは知っているが、最近は慣れてしまった。最初は恥ずかしくて顔真っ赤だったけどね!もう仕方ないって開き直ったよ!争わないとお腹空いたままお昼ご飯が終わっちゃうんだもの!食いしん坊スライムめ!見返りはないのかーーー!


 そんなこんなで、いつも通りの採取を終えて街に入り、冒険者ギルドへと向かう。

 結構早く採取を切り上げるので、まだギルドは混んでいないだろう。扉を開けると、なんだか聞いたことのある声が聞こえてきた。


 「たのむアルよー!今年はホントにやばいのヨー!」


 ……この独特な胡散臭さ溢れる口調は。


 「醤油売ってくれた店主さんだ。」

 「ショーユ買ってくれた人ネ!」


 この前と同じ、赤と青の縦ストライプの服に余裕のある袖。今日も手は隠れているし、黒いグラサンとピョンと伸びたお髭も健在だ。この、中世ヨーロッパ風の世界観に、とんでもない異彩を放っている。


 私の声に素早く反応すると、ものすごい勢いで私の元へ来て服の裾を掴んだ。


 「ひぃ!」

 「お願いアルヨ!助けてほしいヨ!このままだと今年のコッメがみんななくなっちゃうアルヨーーー!」


 体型に似合わない速度に、思わず悲鳴が出てしまった。

 冒険者ギルドの職員さんたちも引いている。っていうか、見てないで助けてよ!


 「私戦闘系は出来ないんですよー。っていうか、何を助けるんですか?」

 「戦闘出来ないアルか……使えないアルね。」

 「なんとまぁナチュラルに失礼な。」

 「どうすればいいアルかー!このままじゃぁ、コッメが全滅ヨーー!」


 ……コッメ?


 「コッメって?」

 「これアル。グランディディ王国でしか採れない食物ヨ。」


 怪しい店主さんはそう言って、広い袖から枡に入った物を見せてくれた。どうして予備動作もなくその袖から自然と出てくるんだとか、入れ物が枡なのが自然すぎて不自然とか、そんな疑問もどうでも良くなるような物が私の前に現れた。



 これは……どう見たってどう見てもそうとしか見えない!



 「お、お米ーーーーーーー!」

 「コッメ!アルヨー。」


 コッメってお米の事だったのかーー!コッメ……コッメって。近いのに遠い響きだわー。


 あれ?でもこれって、籾殻付いたままだよね?


 「このまま食べているんですか?」

 「火を通さないと食べられないアルヨー!」


 精米はしていないのかな……このまま炊いて食べるのなら……すっごく硬くてモソモソしてそう……。


 「今年はキングがイルヨ……このままだとコッメは絶滅ヨ……。コッメなくなっちゃうアルヨー。」

 「お、お米の危機!?」


 半年以上見つからず、やっと出会えたお米が無くなっちゃう?今私の頭の中を駆け巡ったあの炊きたての香りが……。

 いつかお米を探して、お店が出来たらおにぎり出すんだって決めていたのに。



 ……なんとかしなくては!!



 「詳しく聞かせてください!」

 「助けてくれるアルかー!」

 「私にもできる事はあるはずです!まずは話を聞かせてください!」

 「あんた、良い人ネ!でも、戦闘出来ないから使えないアル。」

 「ちょくちょく失礼!正しいから反論もできないんだけど!」




 怪しい店主さんは、アールさんというらしい。アルヨ!アルネ!言うアールさん。うん覚えやすいね。


 アールさんの話を聞くために、冒険者ギルドのテーブルとイスを借りて座ったところで声がかかった。


 「チカちゃーん。久しぶりー。何か依頼を受けるのかなー?」

 「この声は……誰だっけ?」

 「わざとだよね?え?本当に忘れちゃったのー?マディラだよーー!」

 「……あ!アイリーちゃんの付き添い人さん!」

 「チカちゃんがひどいよー。アイリーが主になってるよー!」


 久し振りのやりとりをして振り向くと、マディラさんが嘘泣きしていた。この人は本当にノリがいいなぁ。

 そんなマディラさんの隣には、クレスさんもいた。いつもこのやりとりをする時は、静かに待ってくれているのだ。


 「チカ。依頼か?」

 「はい。まだ私に受けられるかわからないのですが、コッメの危機に何かお手伝いをしたくて……。」

 「「コッメ?」」


 クレスさんとマディラさんの声が被っていた。あちこちを旅する二人も知らないのかな?不思議に思ってアールさんの方を向くと、細かく頷いている。


 「コッメはグランディディの中でも地方でしか食べられていないアル。冒険者でも知っている人は少ないアルヨ。」

 「そうなんですか。」


 あんなに美味しいのに、広まっていないんだ……。数が少ないのかな?……まさか、籾殻付いたままのせいで美味しさが伝わっていないなんて事……アルかも。


 「ワタシ、地方の出身アル。これが無いとどうしても満足出来ないアルヨ。だからいつも商品の調達と一緒に買い付けに行ってたアル。でも、今年は羽付きモモキングが発生したアルヨ。」

 「羽付きモモキング?」

 「魔物アル。草という草を食べてしまうアルヨ。あいつらが大量発生した年は、放っておいたら農作物はほぼ全滅するアル。キングが出た、という事は大量発生は確実アル。しかも、コッメが大好物アル……。」

 「それって、お米……コッメ以前に農作物全般の危機なのでは?」

 「コッメを食べ尽くしている間に、魔物退治は出来るアルヨ。だからコッメだけが全滅する危険があるアル。」


 あるアルって、今ツッコんじゃダメだよね雰囲気的に……。あぁーー!気になるーー!


 「不穏な感じだねー。討伐が必要な依頼なんじゃない?」

 「そうアル。それで依頼を出したアル。でもずっと誰も受けてくれないアルヨー。」

 「コッメもよくわからない上に、魔物の討伐自体はそのコッメを犠牲にすれば完了出来る。ギルドもあまり重要視していないだろうな。」


 なぜ依頼が受けてもらえないのか、クレスさんが端的にまとめてくれた。確かに、そう聞くと納得してしまう。


 「キングも退治出来るんですか?」

 「出来るアル……ちょっと強いアルが、みんなで協力すれば出来るアルヨ。その代わりコッメを守れる者がみんなそっちに行ってしまうアルから、コッメは絶滅アル。」


 なるほど。守る人がいなくなってしまうから、コッメは絶滅なのか……。


 「私は戦えないですが、何か手伝える事があると思うので、依頼を受けたいと思うんですが……。」

 「ワタシが一人増えたような感じアルネ。」

 「うぐぅ。」


 戦力外一人追加。ごもっともです。


 「ふーん。グランディディかー。僕は良いよー。一緒に行ってあげる。」

 「マディラさん!」

 「俺も行こう。」

 「クレス!ありがとうございます!」

 「戦力が増えたアル!」

 「チカちゃんが行くから、行くんだよー。チカちゃんに戦力は無いけれど、力はあるって事。もちろん、一冒険者として参加するから報酬をもらうけどねー。」


 マディラさんが何となく嫌味っぽい口調でアールさんに話しかけている。それって私が行くから付いてきてくれるって事だよね?……クレスさんも頷いてくれている。ありがたいなぁ。


 「なるほどアル。少し見誤っていたアル。でも、もう少し戦力が欲しいアルよ。」

 「うーん……。つまり、この依頼を受ける魅力があれば、来てくれるって事ですよね?」

 「そうアルネ。でも、これ以上お金は出せないアルよ。」



 お金じゃない魅力を出せば良いんだよね。うん。やってみますか!

二章最初の副題、もしかしたら変わるかもしれません。

いつも通り過ぎるから、これはこれで良いかなー……。


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