30 つまり、私の物語はまだまだこれからだ!って事ですね!
「おーい!こっちにクギをくれー!」
「あ、こっちにも頼むよー!」
「はい、ただいまー!」
私は街建設予定地に来ている。
ダンジョンから湧き出ていた魔物は一掃され、この街建設予定地は今は安全であるとギルドが認定した。
ただ、この場所は街にはならない事になった。村の規模に抑えるそうだ。またダンジョンから魔物が溢れる可能性があるからね。
基本的にダンジョンに挑む冒険者のための村。ギルドの出張所が出来るのだそうだ。
前に立てこもった家は少し改造されてギルドの出張所に、焦土と化した場所には宿泊施設や倉庫、食堂などが出来る事になった。
今はそんな新しい建設のお手伝い中だ。
また魔物が溢れたら危ないんじゃないかって?もちろん対策されていますよ!
「チカ、そろそろ昼だぞ。」
「あ、クレス。はい、今行きますー!」
クレスさんもこの村建設の依頼を受けて、建設している人々の護衛をしている。
クレスさんがいてくれたら、何にも怖くないよね!
他にも、ダンジョンの攻略をメインにしているCランク以上の冒険者さん達が交代で見回りをしてくれているので、前よりもとっても安心になった。
……そうそう、クレスさんの事は心の中ではさん付け、声に出して呼ぶときは呼び捨てにする事にした。心の中でも呼び捨ては、何となく……恥ずかしいんだよね。えへへ。
私や、一緒に立てこもった大工さんや奥さん達には、国からお見舞金が渡された。
私の貯金していた金額よりも少し多くて、私は飛び上がって喜んだ。
返ってきた……!お金が返ってきたーー!わーーい!……貯金が無くなってなかったら……倍になってたのかー。あああぁぁぁ……。考えるのやめよう。
まだまだお店を開くにはお金が足りないからね。お仕事をしっかりやらないと!
少し考えたのは、この場所にお店を建てたらどうかなーって事。
いつか出そうと思っているけれど、どこに出すかはあまり考えていなかった。ここなら、普通の人にはちょっと出しづらいし、でも冒険者は来るから需要がある。
街ではないから結界は無い。街よりは危険だけれど、村としての大きな柵はあるし、私のスキルも合わせたら普通の人よりも安全だ。
なにより、コンビニは、あったら便利な場所にあるべきだもんね!
と、言うわけでいつかここに私のお店第一号店を建てようと思うのです。
まずは……クレスさんに相談してから、ね。
クレスさんには、まだスキルについての相談はしていない。あと二日ここで仕事をしたら休みがあるから、そのときに相談しようと思っている。
お昼ごはんを一緒に食べながら、予定を聞いてみた。
「クレス。実はどうしてもお話ししたい事がありまして……今度のお休み一緒にご飯に行きませんか?」
「ぐっ!!……ゴホッゴホッ!」
「大丈夫ですか?!お水お水!」
「……はぁ。助かった。……話というのは……。」
「ここでは……話せないんです。すみません。」
ここで話すと、誰かに聞かれるかもしれないからね。クレスさんの大事なお休みの時間を貰う事と、今はどんな内容なのかも言えない事とで申し訳なくて、少し俯きながら言うと、グッ、とまた何かに詰まったような音が聞こえた。
「だ、大丈夫ですか?」
「……ああ。大丈夫だ……。わかった。次の休みにな。」
「はいっ!ありがとうございます!」
良かった!クレスさんは優しいからきっと大丈夫だと思っていたけれど、予定が空いているかはわからないからね!
お休みが一緒の日に、前と同じようにピクニックに出かける。クレスさんと私とグリちゃんと……スライム君もちゃっかり付いてきたよ!ご飯目的だね!
クレスさんは、いつもより妙に落ち着きがない気がする。
まぁ、私も落ち着かないんだけれど!スキルの事を言うのは初めてだし!緊張するー!
二人と二匹でご飯を食べて、スライム君対みんなでの唐揚げ争奪戦を繰り広げて……落ち着いたところでクレスさんが話しかけてくれた。
「ご馳走様。チカは料理が上手だな。」
「とんでもない!私はまだまだ料理初心者ですから!」
「なら、今後がもっと楽しみだな。」
「えへへ……。頑張りますね!」
うぅ!そんな良い声で、目尻を下げながら言われたら……頑張るしかないじゃないかー!
料理スキルはまだレベル3だし、伸び代は……あるよね!次はお味噌とお米が欲しいなぁ。醤油はあったし、きっとあるよね!お味噌汁とホッカホカご飯食べたい……。クレスさんも美味しいって言ってくれるかな……。
少し緊張も落ち着いたところで……いや、むしろ未来の料理に期待されて余計に緊張したような……?
……とにかく、私は話す事にした。
スキルの事、お店を出そうと思っている事、後、今回クレスさんが来てくれて本当に助かった事も伝えた。
「そういう話だったか……。」
話し終えると、最初にボソっとそんな言葉が聞こえた。話の内容を何も伝えていなかったからね。何か思っていたものと違ったかな?
「まず、本当に無事で良かった……。」
最初の一言はこれだった。私の無事を喜んでくれる人がいる事が嬉しい。少し躊躇いがちに、頭をポンポンされた。いつもより下がった目尻が、お世辞じゃないって思えるから、余計に嬉しいな。
「スキルについては、あまり人に言うものではないのは確かだ。この国にも、よくない事に手を染めている者はいるからな。」
「……はい。」
「今回は無事で良かったが、次また同じような状況になるかもしれない。どうしても話さなければ命の危険がある時は……これを使え。」
クレスさんがいつも持っている荷物から取り出して渡してくれたのは、数枚の紙。文字は何も書かれていないが、四隅に模様が描かれている。その模様は、なんだか炎を象っているような気がする。
「これは?」
「精霊の契約書だ。魔法を使える者だけが作る事ができる、特殊な契約書でな。これに書いた内容は、精霊の名の下に契約が成立される。俺の契約書の場合、破った者は……燃える。」
「も、もえ……。」
萌える……じゃないよね。燃えるのかー。あっぶない契約書だ……。
「罰の重さも、契約書に書けば調節出来る。チカのスキルは色々と人に話さなければならない事もあるかもしれない。これはそういう時に使うといい。」
「ありがとうございます。」
これに契約してくれた人になら、話しても安心……なのかな。
契約する側も、燃えちゃう危険があるから、そんなにホイホイ契約する事はないと思うけれど……。この前のような、本当に危ない時にこれがあったら、もう少し何とかなったかもしれないよね。
「俺とも契約しておこう。」
「え?」
「念のためだ。言うつもりはもちろん無いが。不安だろう?」
「いいえ。……クレスだから、言ったんです。不安じゃないです。だから……契約はしなくていいです。」
契約した方が安心なんだろうけれど、何となく……クレスさんとはしたくなかった。契約っていう形にしたくないって思ったんだ。危ない事なんだろうけれど、クレスさんを信じる。信じたい。
「……そうか。」
「はい。」
しっかり目を見て、返事をした。クレスさんは、少し困ったように眉尻を下げて笑った。
「じゃぁ、俺はチカの信頼に応えられるように頑張ろう。」
「はい!」
私にとって、クレスさんはこの世界で唯一の信頼出来る人だから、これで良かったと心から思える。
これから信頼出来る人は増えるかもしれないけれど、一番は変わらないだろうなぁ。
ずっと向こうにかかる雲は薄いオレンジ色になっている。結構ゆっくりとピクニックを楽しんでしまったみたいだ。
信頼出来る人がいて、心配してくれる子どもたちがいて、帰る場所があって……。私はこの世界に根を下ろしたんだって思えた。
まだ芽が出たばかりかもしれないけれど、これからはこの大地に根を広げて生きていくんだ。
まずは、お店を開くための資金稼ぎだーー!
頑張るぞー!おぉーー!
……ちょっとスライム君、唐揚げをお腹いっぱい食べられなかったからって、頬を引っ張らないでよー!
今いい感じに決意を新たにしているところだったのにーー!
これで一章が終了です。
千華の物語は始まったばかりだー!
全然スキルをまともな使い方出来ていないもんね……。恋愛もまだまだこれからですね!
少し閑話を入れて、二章を書き始めたいと思います。
いつも読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます!
誤字報告がいつもめっちゃ早くて、びっくりしつつ、めっちゃ助かりますし、喜んでいます!ありがとうございます!
宜しかったらブックマーク、評価の方を押していただけると、励みになりますし、幸いです!
よろしくお願いいたします!




