28 手当てって、本当に手を当てて患部を温めたりしたから手当てって言うんだって誰かに聞いたことがあります。本当かな?
誤字報告、ありがとうございます!
いつも助かっております!!
お金が尽きて、警備設定のバーリアーは、対価を私のHPに求めてきた。
このままだと、私のHPはどんどん減っていく一方だ。HPが0になったら……死ぬよね?
死ぬのは嫌だ……お金を……みんなにスキルの事を言って、お金を借りる?いきなりここで商売を始める?でも……スキルについては、あまり知られたくない。
この世界に来て、初めに見た出来事を思い出す。聖女を管理するために、ステータスを表示させていた王国の人達……。
あれを見て、マリーさんに本来のステータスの表示の仕方も聞いて、ステータスもスキルも人に言うべきではないのだと思った。【コンビニ経営】は、日本語で書かれているから、見せても何のスキルなのかわからないけれど、それって逆に怪しまれそうだし……。
ここの人たちはいい人だ。でも、信頼出来るかというと、難しい。悪意はなくとも、ここの誰かがしゃべったら、情報が回ってしまうかもしれない。
信頼できる人……。この世界で信頼できる人っていったら思い浮かぶのは一人しかいなかった。
少し垂れた目じり、深い紺色の髪の体格のいい冒険者さん……。今はどこにいるのかな?スキルについて相談しておくんだったなぁ……。
……やっぱり、ここの人たちには言えないよね。でも、本当に危なくなった時は……うん。本当の本当にもうダメだと思った時は、言おう。
それまでに首都からの救援が来る事を祈ろう。
「おい、大丈夫か?」
「あ、私は大丈夫です!それより、この方の怪我を!」
いきなりフラフラと外へ出て来た私を心配して、周りにいた獣人さんが声をかけてくれた。
でも、私より、さっき魔物から逃れてきた獣人さんの怪我の方が大変だ。
「あちゃー。だいぶやられたな!」
「へへ……面目ねぇ。」
「大丈夫ですか?」
「ああ。このくらいなら問題ないさ。俺たち獣人は結構丈夫なんだよ。」
「まぁ、さっきの一撃は危なかったけどなぁ……。」
傷だらけの獣人さんは、笑いながら立ち上がり頭を掻いて家に向かっていった。治療をしてもらうのだろう。
私も戻ろうと家の方を向くとチーターの獣人の大工さんが、私を心配して追いかけて来てくれるところだった。
「嬢ちゃん、大丈夫か?」
「はい。……食あたりだったのかもしれません。」
咄嗟に食あたりって言っちゃったけど、食あたりでHPが減るって、あるのかな!?わからないけれど、ほかに思いつかなかったー!
「食あたりって……。スライムの真似して、その辺の雑草でも食ったか?」
「……えへへ。」
呆れ顔をされてしまった。これは上手く誤魔化せた……のかなー?誤魔化せた代わりに、なにか大事な物を失ったような気もするなー。
スライム君が私の頬を突く。いててて……。知ってるよー。スライム君はその辺のスライムと違って、グルメなんだよねー。
家に向かって足を出した瞬間、ものすごい勢いで隣を何かが通過した。
……え?
私の隣を通過した獣人さんが、家の入り口で倒れている。
私は、ゆっくりと後ろを振り返った。
グゥゥルルルォォォォォォォオオオオーーーーン!!!!
思わず耳を塞ぐ。
今までの魔物と違って、とんでもなく大きい狼。体長は八メートル以上あるだろうか。薄茶色の毛は艶もなく、所々くすんでいるように見えた。目は赤く、牙をむき出しにしてこちらを睨みつけている。口から湯気を出し、振りぬいたと思われる前足をゆっくりと戻しているところだった。
周りを警戒していた獣人さんたちが、慌てて狼に対峙する。
「おいっ!こんなでかいやつどこから出てきやがった!?」
「さっきまでいなかったぞ!」
「後ろから小さいのがいくつも来ている!……とんでもないスピードで、こいつだけ先に来たんだ!」
大きな狼の一撃で対峙した数人が吹き飛んでいく。連続で狼が爪を閃かせる。
「っ!!!!」
今までと比較にならない衝撃が胸を打つ。スキルのバリアもどきに爪が当たったのを目で確認しながら、膝に力が入らなくなって座り込んでしまった。無意識に胸を押さえるけれど、手を当てたって良くなるわけではない。
私を追いかけて来ていたチーターの獣人さんがみんなに声をかけながら、対応しているが……死なないようにするので精一杯にしか見えない。
私は、嫌な想像を振り払おうと頭を振りながら、自分のHPを表示した。
「ス、ステータス……」
広瀬 千華 24歳 【冒険者 G】
レベル32
HP 1500/2688
MP 640
力 29
体力 84
知能 46
精神 20
敏捷 19
スキル
【料理 3】
【コンビニ経営】
2500は残っていたはずのHPが……。一撃で1000も削れたの……?
今バリアもどきを外したら……みんな死んじゃうかもしれない……。でも、スキルを解除しないと……私のHPが0になっちゃう……。
……0になったら……死んじゃうんだよね?
本当に?
死ぬかどうかが可視化できると、こんなに現実味が感じられない物なんだ……。
「ぐぅ!」
獣人の大工さんが避けた爪がバリアもどきに当たる。
さっきよりも胸が痛い。さらにもう一撃食らわせようと前足を振り上げるのが見えた。
やけにゆっくりと爪が振り下ろされる……。
ゆっくりと見える世界でも、自分がスキルを解除する余裕はないのだとわかってしまった。
とっさの判断って出来ない物なんだな……。でも、そうだよね。私、ただの会社員だったんだよ。運動神経の全然ない、ただの会社員……。
やっと落ち着いて暮らしていけると思ったのにな……。
この獣人さんが多い国は楽しかった。この国に来るまでの旅も、最初は大変だったけれど、楽しかったな……。楽しくなり始めたのは、冒険者ギルドのドアを開けた時かな?この世界に来て、心から心配をしてくれた人と会えた時。
こんなときに思い浮かぶのが、ドアを開けたら壁だった事なんだなぁ……変なの。
爪がバリアもどきに当たる……!
私は目の前が真っ赤になった。
なんだか熱いな……死ぬときって体が熱くなるんだなー。ん?冷たくなるんじゃないのかな?一回熱くなってから冷めていくものなのかな?
目の前の赤は、オレンジ色と混じりあいウネウネと動いているように見える。っていうか、この赤いのが熱い!
これって……炎?
「チカッ!!!」
さっき思い浮かんだ人の声が聞こえる……。幻聴?
「チカッ!無事か?!」
幻聴……じゃない?
「クレスさん……?」
炎が消えて、目の前が見えるようになった。
瞬きをして、しっかり見ようと顔を上げると……。
目の前には見覚えのある壁があった。
……この壁は安心できる壁だ。
「チカ、もう大丈夫だ。よく頑張ったな。」
「はい……っ!」
遠くから、活を入れる人の声が聞こえてきた。たくさんの人の声。
助けが、来たんだ。助かったんだ。
「良かった。……よかったぁ。」
ちょっと滲む視界で、聳える壁を目に焼き付けた。
シリアスな感じはこれでおしまいです。
感想にいただいていた件は、編集で加筆しようと思っていましたが、そうすると一度読んだ方はわからなくなってしまうと思ったので、今回の話の中に入れました。スキルのことを人に話さないチカの考えを入れました。
頼もしきヒーローは壁である。




