閑話 イケメンチャラ冒険者の嘆息
冒険者マディラ視点のお話です。
指名依頼の内容を聞いてから二日経った。
聖女の支度が済み次第出発という事で、城下町で待機していたんだけれど……。
「なかなか来ないねー。」
「そうだな。」
依頼の話が来ていると言う事は、向こうの準備もある程度終わっていると思っていたのだけれど、なかなか連絡が来ない。依頼主と話した感じ、かなり面倒そうな女性っぽいけれど、もしかしてそのせいで遅れているのかなー。
暇を持て余しながらさらに一日。やっと連絡が来た。
「来た。緑の便箋。大丈夫そうだね。」
この手紙は、内容に意味はない。大事なのは便箋の色。赤は気付かれた、作戦中止。黄色は危険かもしれないので、出来るだけ早く出ろ。緑は順調に進んだ。予定通りに。という意味だ。今回来たのは緑だったので、何の問題もない、って事かなー。
ついでに、内容はこんなだった。
『やぁ!元気かな?僕は順調に寝不足だよ!
最近友達の彼女はヒステリック気味なんだ。友達も一緒に来てくれるって思い込んでいたみたいで、行かないって知ったらもう大変!部屋の中の物という物を投げ飛ばし、ベッドのシーツもカーペットもビリッビリ!あの部屋の補修代誰が出すと思っているんだかって感じだよ。
第一、そんな状態を見せられて、誰がついて行きたくなるのかって感じだよねー!友達、めっちゃ引いてたよー。
そうそう、友達の彼女はレベルだけは無駄に上げてあるんだよね。確か今は32だったかな?力が無駄に高いから、グーパンに気をつけてね!人を殴る事に抵抗も無いみたいだから、注意だよ!
最後に、友達の彼女はカッコイイ男の人に目がないらしいんだ。……頑張ってね!』
ね、どうでもいい内容でしょ?そう、ただただやる気が無くなるような内容しか書いていない……はぁ……。
明朝、二人の人間がこの宿屋前にひっそりと訪れた。二人ともローブを目深に被り、顔は確認出来ないが、昨日送られてきた手紙と同じ便箋を持っている。内容は……見なくてもいいよね。
僕とアイちゃんはそれを迎えて、城下町を出る。小柄な方をアイちゃんのグリフォンに、僕と近い背丈の方を僕のアイリーに乗せて移動をする。今回は飛べないなー。ごめんよアイリー。
ゆっくりと移動をして、城下町からある程度離れたところで二人がローブのフードを外した。僕と一緒に乗っているのは、この前挨拶してくれたメイドのマリーさんだ。つまり、アイちゃんの方にいるのが聖女ちゃんか。
黒い髪はまっすぐで、サラサラと風に揺れる。瞳も黒く、パッチリとした二重。肌は白く、そのコントラストがよりお互いを強調しているよう。頬は少し紅潮し、潤んだ唇。庇護欲を掻き立てるような、あどけない表情をしている。
……なるほどねー。初対面でこのインパクト。何も知らない人が見たら、勘違いをしてしまうのかもしれない。あの手紙は、見た目に騙されないようにっていう保険だったのかなー。
ちなみに、アイちゃんもあの手紙は読んでいるよ!
とりあえず、自己紹介をしないとね。
「初めまして、僕はマディラ。君を送り届ける依頼を受けた冒険者だよー。よろしくねー。この子は僕の相棒のアイリー。 で、こっちが……。」
「アイド……。」
アイちゃん、途中から声が消えてしまったよ。……それも仕方ないか、聖女ちゃんの顔、やばいもんね!
目をうっとりとさせてアイちゃんを凝視している。誰が見てもわかる。あれはロックオンされたなって……。
ご愁傷様ー。言ったら殴られそうだから、心の中で叫んでおこう。
「うん。アイちゃんだよー。んでアイちゃんの相棒のグリちゃんね。」
「クエー!」
「ひっ!」
真横でグリフォンに鳴かれて悲鳴をあげる聖女ちゃん。さて、彼女の名前を聞かないとね。
「次は君達の番ね。」
「はい。私はミレイと申します。あまり戦いは出来ないので、道中ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いいたします。」
「私はミレイ様に付いたメイドのマリーでございます。よろしくお願いいたします。」
ミレイ、と名乗った聖女はペコリと頭を下げた。レベルが上がっていて、人を殴るのに抵抗がないんじゃ無かったっけ?あれー?
メイドのマリーさんは相変わらず無表情だったけれど……こんな顔だったっけ?ついこの前見た時と、ちょっと印象が違うような気もする。メイドって顔変えられるのかな?それにしても、マリーさんのお辞儀は貴族のするような、優雅なものだった。その所作だけで優秀なメイドさんなのだろうと思われる。ミレイちゃんの動きとは雲泥の差だなー……。
自己紹介も終わったし、予定を伝えて早速出発だ。
「じゃぁ、予定通りに少し飛ばして、二つ向こうの街に行こうかー。マリーさん、少し寄りかかっても大丈夫だよー。」
「はい。ありがとうございます。」
「あ、アイド様!よろしくお願いしますぅ!」
「……ぁぁ。」
マリーさんを前にアイリーを走らせる。何でだろう、このマリーってメイドさん、すごく姿勢良くて、僕に体を預けなくても余裕そうだ。体幹めっちゃ鍛えているのかな?
少し後ろを走るグリフォンに目を向ければ、ミレイちゃんがすこぶる嬉しそうーに、アイちゃんに寄りかかっている。アイちゃんは寄りかかって良いなんて、一言も言ってないのにねー。アイちゃんの顔が少し青ざめ、まるで魔力が切れた時のような感じになっている。聖女って魔力吸えるのかな?……そんなわけないか。アイちゃんがあんなに嫌そうな顔するの、初めて見たかもなー。
頑張れー!アイちゃーーーーん!この依頼、長いぞーー!
あと一、二話閑話を入れて本編に戻ると思います。
見た目だけは良い、聖女ちゃん。




