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閑話 イケメン騎士のわずかな嫉妬

ちょっと時間が戻って、年越しを迎える前の話です。クレスとマディラが千華と別れてから数日が経過した辺りです。


イケメン騎士こと、レオナルドの視点です。


 主人がマリアンヌに頼んで指名依頼を出してから八日経った。


 前に強力な魔道具を使用した女性を探すように、アンタレス王子が指名依頼を出した冒険者。

 あの時はアンタレス王子に報告に行く前に、マリアンヌが捕まえて、話をしたのだったか。彼は千鶴を死んだものとして報告しようとしてくれていた。それである程度信頼の置ける冒険者だと判断して、今回は指名依頼を出したのだ。


 相変わらずなんともキラキラしい顔をしたチャラそうな男だ。そのチャラ男はもう一人、顔の整った寡黙な男を連れてやってきた。


 主人はにこやかに二人を迎え入れた。


 「よく来てくれたね。歓迎するよ。」

 「いえいえー。あなた様の依頼を断ることは出来ないって知っていますからー。」


 チャラ男はニコニコとしているが、伸ばし気味な言葉には棘があるように感じる。あの時の、マリアンヌの有無を言わせない拉致をまだ怒っているのだろうか。


 「それでー、何のご依頼ですかー?」

 「うん。実はね、訳ありの女性をこの国から連れ出して欲しいんだよ。君には、前にもその手腕で無事に送り届けた女性がいただろう?今回の女性は同郷なんだ。」


 それだけ言えば誰の事なのか、理解したようだった。その様子から見て、千鶴から詳しい話を聞いていたのだろう。……この二人はチヅルにとって信頼出来る者たちだったのか……そう思うと、何故だか胸の奥がチクリと痛んだ。

 今まで言葉を発しなかった寡黙な男が、渋面を作って呟いた。


 「勝手なものだな……。」

 「アイちゃん……。」

 「自分は無理矢理連れて来られただけだ。俺は受けんぞ。」

 「……話を聞いた以上、断るという選択肢はないんだよね。」


 主人が言い切る前に、私は寡黙な男の後ろにある扉の前に移動した。逃がさない、とばかりに。


 「……。」

 「無理だよー、アイちゃん。連れて来ちゃって悪いけど、お城で暴れちゃうと、ただでは済まないよー。」


 見た感じではあるが、おそらくこの寡黙な男と私の力は互角だろう。チャラい男が加わると、少し手こずるかもしれないが、マリアンヌが手を貸してくれれば問題なく抑えられる。

 ……私とマリアンヌの強さは……ベクトルが違うので比べてはいけない。


 男が怒るのもわかる。勝手に喚び出し、不可抗力で一緒に来てしまったチヅルは、知識を与える時間も少なく、国外に逃すので手一杯。その上、喚び出した聖女すらも冒険者の手に委ねてこの国から放り出すのだ。

 私だって、チヅルをあのように国から出すしか出来なかった事が悔しかった。しかし、一刻を争う状況で、ああするしか無かったのだ……。


 「それにしてもー、どうしてわざわざ喚んだ女性をー?」

 「うん。彼女は国の望む使い方が出来なくなってしまったんだ。このままだと彼女は存在を消されてしまう。殺されるくらいなら、せめて……平穏に暮らさせてあげたいと思ってね。」


 正確には、使えないように仕向けた訳だが、それを言う必要は無いだろう。

 主人は、召喚を止め切れなかった責任を感じて、せめて生きて平穏に暮らさせてあげたいと思っていらっしゃる。……あの欲にまみれた元聖女が、慎ましく暮らせるのかは甚だ疑問だが……。


 「同郷の女性は追い出すだけ出して……今度の女性には最初から人を付けて守らせるのですか……。」


 男の怒りはまだ収まってはいないようだ。主人は申し訳なさそうに目を伏せた。


 「あの女性には、会う事ができるならば直接謝りたいとは思っている。ただ、私が動く事はできないんだ……。良ければ、この謝罪の手紙を渡してほしい。」


 主人が自らの手で、寡黙な男に手紙を渡す。男はそれを受け取ると、ようやく怒りを鎮めたようだった。

 主人にあそこまで言わせた事に腹も立つが、そこまでチヅルを思ってくれている事に感謝もする。複雑な感情が胸に渦巻いていた。


 「それに、今度の女性はどうも……目を離すのも怖くてね。一人にした途端、誰かが謂れのない罪を負ってしまいそうなんだよ。」

 「どんだけやばい女性なんですかーそれー。」


 チャラい男がケラケラと笑いながら突っ込んでいるが、私も主人も真面目な顔のままだった為、だんだんと乾いた笑いになっていった。

 マリアンヌは最初から最後まで無表情を決めているので、参考にはならない。


 「そーんな女性の面倒を見ないと行けないのかー。はぁ……。」

 「まぁ、女性にしか入れない場所もあるだろうから、このマリーも連れて行ってくれ。」


 うなだれるチャラ男に、主人は明るく声をかける。マリアンヌは丁寧にお辞儀をした。無表情で。


 「マリーと申します。よろしくお願いいたします。」


 そんな無表情なメイドを見て、チャラ男は更にうなだれて呟いた。


 「わー。楽しい旅になりそうだなー……。」

イケメン騎士が、キラキラしい顔って言うんかい!というツッコミを心の中でしながら書きました。


少し閑話は続きます。次はマディラ視点予定です。

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