26 緊張し過ぎると笑ってしまい、怒り過ぎると泣いてしまいます。怖い時程、その緊張を和らげるために笑おうとするんですよね。
いつもより遅くなってしまいました。
そして、いつもより長くなってしまいました。
誤字報告、ありがとうございます!
こうなったらもう、なんとかしてみようじゃありませんか!
現実を見て、絶望しそうになったけれど、私にはまだ出来ることがある!
ダンジョンが出来たという方向から群がってくる魔物と、丁度反対側にいたこともあり、私に気づいた獣人の大工さんが魔物を牽制してくれて、避難していた家に着いた。
家に駆け込むと、昨日から一緒に避難していた奥さんたちが心配してくれた。
「あぁ!チカちゃん!大丈夫だったかい?」
「ありがとうございます。私は大丈夫です。」
「……他の人たちは?」
「あっちにも魔物が出て、次から次へと来るので、応援を呼んで欲しいと頼まれたんです。」
チーターの獣人の大工さんが、険しい顔をする。……それもそうだろう。今、ここに応援に駆けつけられるような余剰な戦力は無さそうだもの。
辺りを軽く見渡せば、男性は全員どこか怪我しているようだった。体力ポーションも節約しなくてはいけないから、無闇に飲めない状況なのだろう。
私は近くに来てくれた大工の奥さんに、摘んだ薬草を渡した。奥さんは頷くと、すぐにそれを持って別室に行った。
あっちに調合スキルがある人がいるのかな?その人も疲労困憊だろうか……。
「後はそっちにいた奴らで全員なんだ。呼び戻して籠城戦をするしかないか……。」
「どれだけ持つか……だな……。」
仲間の大工さんも険しい顔で外を見ている。
……私は、やるときはやる女だ。比較的若い女の話なんてと笑われるかもしれないけれど……勇気を振り絞る。
……比較的ってのは、ここにいる人間の中でも一番の若さだからね。別に自分を若いだなんて思ってはいないよ!もう二十四だよ!ピッチピチの女子高生と比べちゃーいけません!!
「あの、籠城なら、私のスキルが役に立てると思うんです。……悪意のある者を入れないようにするスキルです。」
お店を経営するスキルです!なんて言っても信じてもらえないよね……。だから、スキルの使う部分のみを言うことにした。
「結界を張れるスキルか……。とんでもないレアスキルだな。」
「はい。そこまで強力では無いのですが、一助にはなると思います。なので、応援を呼んでいた方達に、何とかしてこちらに避難するように伝えて下さいますか?」
とんでもないレアスキルなのだそうだ……。実際はお店を経営するスキルなんですよ!そのせいで代償がお金なんですよ!とは言えない。とにかく、さっきの人たちを呼んで欲しいとお願いする。
「わかった!どっちにしても籠城するしか無いのだから、嬢ちゃんにお願いするよ!……おい、知らせてくれ。」
チーターの獣人さんはすぐに私の言うことを信じて、使うようにお願いしてくれた。この判断の速さは流石ベテランな大工さんだ!大工さんはきっと素早い判断が必要なのだろう!
……それにしても、どうやって知らせるのだろう?
チーターの獣人大工さんが見た方向を見ると、そこには狼の獣人さんがいる。狼の獣人さんは頷くと、外に出て家の周りで魔物と戦っている人に一言何か言って、上を向いた。
アオオオオォォォーーーーーーーーーーーーーーーーン!
……ァォォーーーーーーーーン……
少しして、遠吠えが返ってくる。
「すぐに戻ると。みんな無事らしい。」
すごい伝達能力!!アオーーンの一言に二つも意味を乗せられるのかー!獣人さんのハイスペックには驚かされる!
しばらくして、さっき私に応援を頼んだ獣人さんと、近くで警戒していた獣人さんたちが戻ってきた。
「戻ったぞ。」
「おかえりなさい!良かった。」
みんな若干の怪我はあるものの、大きな傷は見当たらなかった。やっぱり大工さんってのは強い人たちの集まりなのだろうか……。冒険者さん並みだよね!
よし!それじゃぁスキルを発動させようかな!
私は家の外に出て、短めの角材を持って、地面に線を引く。ガリガリガリーーっと。家の周りを囲うように線を引いたら、境界線がはっきりとする。
「スキル【コンビニ経営】。この線で囲った内側を店舗に設定する!」
前と同じように、目の前に画面が出てきた。
『店舗設定』
・簡易設定
・詳細設定
前回は簡易設定を押したけれど、今回は詳細設定の方を押す。結構時間がかかったけれど、やっとスキル説明を読み終えたよ!
『詳細設定』
・価格設定
・仕入設定
・営業時間設定
・警備設定
・警備員設定
・従業員設定
・従業員昇格設定
・BL設定
おぉー。前よりも設定項目が増えている。とりあえず警備設定を押す。警備設定は、前と同じ様に『強』と『弱』の選択式なので、『強』を押す。
警備設定『強』に変更しました。警備費を引きます。
ショルダーバッグの中でチャリンと音がする。うぅ……頑張って貯めたお金が……。いや、死んだら元も子もないんだぞ!それに、まだマリー師匠からもらった分も残っていたじゃ無いか!そっちから引かれたと思っておこう。うん。
むしろ、この金額でどれだけ持つのか……。
次に警備員設定を押す。人を警備員として設定出来る項目だ。警備設定の方で知った事だけど、魔物や悪意のある人が結界もどきの壁を攻撃すると、警備費としてお金が引かれてしまうのだ。
つまり、壁をひたすら殴られると、私のお金がすぐに底をつく!
お金が底をついたら……どうなるのかわからない!だから、一助と言ったんだ。もしもの保険で使って欲しい。
警備員に設定して、みんなには今まで通り、魔物の警戒はしてもらうつもりだ。警備員に設定すると、お店の敷地内で武器を振っても大丈夫になるし、命の危険がある場合、強制的にお店に引っ張られるという保険もついてくる。少しお金がかかるけれど、保険は発動しなければ大量には引かれないから、設定しておく。みんな無事で帰りたいものね!
ついでに、私が魔道具を使った時の衝撃分はお金を引かれていなかったみたい。あの衝撃分を引かれたら、私の貯金はあっという間にスッカラカンだろうなー。
警備員設定に、獣人の大工さんや、数少ない冒険者さんを軒並み登録する。あとは……。
営業時間設定。これは朝九時から夕方六時に設定。警備は営業時間に関係ないからね。出来るだけ営業時間を減らして、開店時間中のお金の消費を抑えよう、という考えだ。お店って、開いているうちは電気代やら従業員の時給やら発生するものだものね。……そこにリアリティ出さなくても良いのに、とはちょっと思った。スキルさんや……。
最後に、BL設定。……違うよ?ぼーいずなんたらじゃないよ?
ブラックリスト!ブラックリストの省略だからね!そっちの趣味は……ありません。
ブラックリストには基本魔物が入っている。たとえ悪意が無かろうと、魔物は入ってこれない様にする設定だ。そこから、スライム君だけは除外する。限定除外設定だ。スライム君が入れなかったら、魔物の餌になっちゃうかもだし!
「スライムって食べられるの?」
肩に乗るスライム君に聞くと、ゆっくりとハテナマークの形になった。これは聞くんじゃねぇって感じかな。はっはっは。
家に戻ってチーターの獣人さんに報告する。
「スキルを発動しました。ただ、たくさん殴られると壊れてしまう弱いスキルなので、出来る限りは殴られないようにお願いします。」
「わかった。ありがとうな。少しでも保険があるのなら安心出来る。その程度に考えて行動するように徹底するよ。」
「はい。」
夜には、お店に設定した家のすぐ横に、魔物の山が出来ていた。
……どんどん増える魔物。少なくとも、あと二日はこの状態だろう。
早い判断で、第一陣だけでも首都に向かわせられて本当に良かった。早く応援が来ることを、後は祈るだけ……。
夜、一部の魔物を除いて、動きが緩くなった。夜行性の魔物が少ないみたいだ。
昼間よりも多くの、戦っていた人が家で休んでいる。私は、チーターの獣人の大工さんに、万が一の話をしに行くことにした。みんなにも聞いて欲しいから、あえてこの時間だ。
「あの、少しお話、良いですか?」
「あぁ。どうした?嬢ちゃん。」
「今後の事です。もし、魔物がこのまま増え続け、結界が攻撃を受け続ける様な状態になった場合、この魔道具を使いたいんです。」
そう言って、マリーさんが持たせてくれた魔道具を見せる。後二本の魔道具。これは本当に危険な時に使うべきだろう。
「俺はあまり魔道具に詳しくねぇんだが……。その手元の模様を見るに、すごいやつなんじゃねぇか?」
「はい。大体、直線距離で家二十軒分くらいの範囲を焼き尽くす効果があります。」
「……。」
ドン引きな顔をされた。私も焼け野原を見たときはそんな顔してたかもしれないなー。
「スキルを発動したこの家は大丈夫なんです。ただ、周りの家は多分……壊れてしまうと思うんです。せっかく作ったお家ですが……もしもの時は使ってもよろしいでしょうか?」
本当はせっかく作った家々を、壊したくなんて無い。けれど、やっぱりいざとなったら使うと思う。許可を得るような言い方だけれど、本心は使うつもりでいる。ただ、ひたすらにごめんなさい、と思いながら……。
チーターの獣人の大工さんは、周りの人と顔を見合わせて、それから私を見てニカッと笑った。
「そんなの、構わねぇよ!家はまた建てればいいんだ!でも、俺たちが死んじまったらもう建てることは出来ねぇ。優先すべきは命の方だ。気に病むことはねぇよ!」
肩を叩いて更に笑い始める。周りにいた獣人さんたちもニコニコしていた。
「っていうか、そんな強力なもんがあるなら、俺たちの生存率は爆上がりだな!いざという時は、頼むぜ!ガッハッハッハ!」
私は呆然とみんなが笑う様子を見ていた。大事な物を壊すと言っても、笑い飛ばしてしまう。ほとんどためらう様子のない判断の早さに驚いた。
「良い男だろう?惚れちゃダメだよ、私の旦那だからね。」
しばらく呆然としていると、いつのまにか隣に一番年上の女性が来ていて、笑顔でウインクされてしまった。
私もつられて笑顔になってしまう。
「釘を刺されてしまいました。」
そして奥さんと二人でクスクス笑った。
いざという時は、使わせてもらおう。この気持ちの良いくらい明るく、優しい人たちを守るために。
やっとタイトルのスキルを使う時が来たーー!
使い方が結局違うんですけどねーーー!いつになったらまともな使い方が出来るんだか……。
次は閑話が続く予定です。




