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3 さっさと逃げますよ!恩は覚えておくものです。


 「あと他にお教えするものは……。」


 私が日本語表記のスキルについて悶々としている間に、メイドさんは教え漏れがないか考えているみたいだった。


 「あ、そうだ。ねぇメイドさん、手紙を書きたいので、紙とペンを貸してください。」

 「かしこまりました。」


 メイドさんが部屋の机から紙とペンを持ってきてくれる。私はそれにお礼を言って受け取り、お手紙を書きながらメイドさんに話しかける。


 「もし、物だけでもあちらの世界に送れるようになったら……この手紙を送ってください。」

 「……はい。」

 「あと、教えて欲しいことが……。」










 夜も更けて、月がゆっくり西に向かって……いるのかな?この星の自転方向地球と一緒なの?……わかんないけど、端っこの方に傾いてきた。しん、として耳が痛いくらい静かだ。こんなに夜が静かだと感じるのは初めてかもしれない。一人暮らしをしていた時はアパートだったから、隣の部屋のエアコンの室外機がうるさかったし。


 私は真っ黒な服を着て、頭にも真っ黒なほっかむりを被っている。これに唐草模様の大きな風呂敷を背負っていたら完璧だったね!残念ながら風呂敷は無かったけれど……。そんな格好で闇に紛れてお城をお散歩中です。……はい、嘘です。脱走中です。

 イケメン騎士さんに先導されて、城内を静かに走っている。メイドさんとかが通るような道を右へ左へ進むと、裏庭みたいな場所に出た。庭の端に、最初に見たお城の門よりも随分と小さな門がある。荷物などを搬入する用の門かな?門の前に着いて、イケメン騎士さんがこちらを振り返った。


 「ここを抜ければ城の外、城下街ですね。時間的に、街の端に着く頃には朝日が出てくると思います。朝を迎えたら、乗合馬車に乗って出来るだけ遠くに行って下さい。……出来ることならば、この国から出た方が安全だと思います。」

 「わかりました。」

 「このような扱いになってしまい、本当に申し訳ありません。どうか、ご無事で……。」

 「私が生きていられるように、手を尽くして下さったのですよね?ありがとうございます。せっかくですから、この世界でのんびり生きていきますよ。」


 そう言って余裕があると見えるように、ニッコリ笑って見せる。イケメン騎士さんはちょっとだけ、ホッと息を吐いた。


 あまりここで時間を潰すと、街の中を全力で走らないといけなくなりそうだし、さっさと行きますか。


 「では、お世話になりました。助けて下さったご恩、返す事は出来ないと思いますが、忘れません。」


 恩を返す!なんて言って、返しにここに来るなんて出来そうもないし、私に出来ることなんてほとんどないと思うし……出来ないことを言うのは良くない!返せない恩は、しっかり覚えておくだけにしましょう。


 「生きていて下されば、それだけで……。あ、そういえば、お名前をお聞きしていませんでしたね。私はレオナルドです。」

 「レオナルドさん……。私は……千鶴です。」

 「チヅル……。お元気で。」


 お辞儀をしてお礼を言ってから、門を出る。緩い下り坂になっている道を走って、イケメン騎士さんの顔がまだ見えるくらいのところで振り返った。

 イケメン騎士さんは不安そうにこちらを見ているので、もう一度ニッコリと笑って、口パクでお礼を言った。


 “ありがとう。ルードヴィッヒさん。”


 イケメン騎士さんは豆鉄砲を食らったような顔をしていた。人が豆鉄砲を食らったら、あんな顔になるんだろうなーって顔。私は表情を変えないように気をつけて、軽くお辞儀をしてから街を走り抜けた。


 やっぱり異世界って怖いところなんだなー。メイドのマリーさんにイケメン騎士さんの名前を聞いていなかったら、嘘だと分からなかったよ。嘘の名前を言われて、ちょっとショック。私も嘘をついた。誰だよ千鶴って。

 危なく信じ切ってしまうところだった。この世界に召喚されて、初めて親切にしてくれたあのイケメン騎士さんを。きっとああやって親切にして、何かに利用させるつもりだったのかも。王様がアレだし……。名前という情報で、足が付いてたかもしれない……嘘の名前を言って正解だったかも!

 落ち着いて過ごせる場所を見つけたら、少しでも見た目の印象が変わるようにイメチェンしようと心に決めた。



 朝日が出てきて、少しずつ街が照らし出される。オレンジ色のレンガの屋根。モスグリーンや、薄いピンクの壁。ヨーロッパの古い街並みの様な建物がいっぱい並んでいる。ここが本当に、地球の欧州のどこかだったらいいのに……。いつのまにか、飛行機に乗って旅行に来ていただけなら良かったのにな……。

 って浸っている場合じゃない!


 私は街の出入り口と思われる場所に着くと、近くの公衆トイレに入って真っ黒な格好からおさらばした。着替えや必要そうなものをカバン一つに用意してくれたメイドのマリーさんには本当に感謝だわー。


 朝一番の乗合馬車にお金を払って、乗り込んだ。長旅になりそうだし、一番酔いにくいと聞く前の方のイスに座る。


 初めて馬車に乗った時の酔いを思い出して、ちょっと不安になった……。流石のマリーさんでも、エチケット袋は入れてないよね……。

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