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18 私は決して暗算が得意な方ではありません!が、やる時はやりますよ!

 今回はちょっとのんびりした感じです。

 やっとチカさんはゆっくり街を満喫出来そうです。

 今、私の目の前には、ニワトリの獣人さんがいる。しかもちょっとお爺ちゃんだ。


 「ワシがこの職業学校の校長、スワンじゃ。」

 「初めまして、私は千華と言います。」

 「チカさんじゃな。よろしく頼む。」


 鶏なのにスワンなのかーとか、突っ込めない!


 私はあの後……そのお仕事、興味があります!と高らかに宣言し、簡単な面接とテストをして、ここにいる。無事に採用されたみたいで良かった!


 スワン校長はこの学校についての説明を簡単にしてくれた。


 この学校は、子供たちが出来る事を増やし、沢山の職業を見学、体験して自分のやりたい仕事を探す、というもの。

 親の仕事を無理やり継がせるのではなく、子供たちのやりたい事を探させ、長く勤めてもらおうという国の方針で、ほとんどの街にはこの職業学校がある。この学校から職に就くようになって、離職率が激減し、生産率が上昇したそうだ。


 「子供たちが職に就くにあたって、やはり必要な教育というものもあるのじゃ。その中の計算を主に、チカさんには担ってもらおうと思う。」

 「はい。」

 「寮は学校からすぐ近くにあるでの。他の先生に案内させるから、そこを使っておくれ。」

 「ありがとうございます!」

 「よろしく頼むよ。ふぉっふぉっふぉ。」


 すぐに、犬の獣人の先生が寮の場所を教えてくれた。元々旅用の物しか持っていないので、荷物の整理などは一瞬だ。これから少しずつ、物を増やして自分の部屋にしていこう。


 チカは、一時的に、自分の部屋を手に入れたーー!いやっほーー!




 では、仕事を始めよう。子供たちに算数を教える。先生方に聞いたところ、必要な計算力というのは、小学校終了程度で良いようだ。それなら私でも大丈夫かな!良かったー!

 算数を教えながら、街に出て色々な職業の見学、体験もする。私も一緒に参加させて貰えるのが嬉しい。この世界をもっと良く知ることが出来そうだ。


 「おはようございます!私は千華です。これから皆さんに算数を教えます。よろしくお願いしますね。」


 という挨拶をして、子供たちの計算力がどの程度なのか見る。どの辺りから教えていったら良いのかの確認だ。足し算引き算……うんうん。位が上がると大変な感じかな?じゃぁまずは、足し算をしっかり身に付けてもらいましょう!


 私は数字カルタを作成して、みんなで遊ぶ形を取った。私が読み上げた問題の、答えとなる数字が書かれた紙をみんなで取り合うのだ。その数字を少しずつ、難しくしていく。桁を増やし、答えの紙の数を増やし、簡単な引き算を混ぜてみたり……。躓いてしまったら、みんなで教え合う。

 数字に嫌悪感を抱かずに慣れてもらう為、遊ぶようなスタイルをとっていたからなのか……。


 「チカー!遊ぼうー!」

 「今日はどんな遊びをするのー?」

 「チカー、僕はもう三桁でもへっちゃらだよー!」

 「一番になったらキャンディ食べたい……。」


 子供たちには、私は先生というよりも一緒に遊ぶ友達という認識になってしまったようだった。


 「チカ先生でしょ?ちゃんと先生をつけなさい。」

 「えー!チカはチカだよー!」


 犬の獣人の先生が優しく諭すが、これっぽっちも効果がない。


 「みんな足し算引き算はとっても早くなったよね。だから今日は歌を歌いましょう。」

 「「「「歌ー?」」」」

 「そう。九九、という歌をね。」

 「くくー?」


 足し算引き算に慣れたら、次は掛け算。一の段から歌にして、覚えていってもらう。そして、掛け算がどんなものなのか、覚えてから説明しよう。




 「「「「ににんがしー!にさんがろくー!にっしがはちー!」」」」


 職業見学に向かう時でも、みんなで歌いながら歩いた。道行く人は、なんの歌?と困惑の表情だけれど、子供たちには関係ない。みんなでニコニコと楽しそうに歌っている。もちろん私も一緒に歌う。ちょっと恥ずかしい!でも我慢。


 「なーなーチカー!」

 「んー?」


 子供たちの中でも一番ヤンチャなのがこの子、セイン君。黒い毛並みのウサギの獣人さんだ。年は十三歳だったかな……。十五になったらみんな職に就く事になるから、彼は後ニ年だ。


 「チカはさー冒険者なんだろ?」

 「そうだね。一応、ね。」

 「十四歳になったら、冒険者の体験もするんだけど、その前にどんなものか見てみたいんだ!一回で良いから連れて行ってくれよ!」

 「うーん。でも私は新米すぎて人に見せられるようなものじゃないからなぁ。」

 「えーチカ、ダメダメなのー?」

 「うーん。ダメダメだねぇ。」

 「なーんだー。」


 学校の仕事がない時は、冒険者として薬草採取もしている。学校は寮がある代わりに、お給料が雀の涙なのだ。これでは貯金が出来ない。なのでスワン校長に許可を取って、冒険者の活動もしている。

 ただ、未だに薬草採取だけなので、見せられるようなものじゃない!期待に応えられなくてごめんね、セイン君。


 「今日はこのお店を見学しますよー。」


 引率の先生がみんなに声をかける。今日の見学先は、八百屋さんだ。

 八百屋さんのご主人は熊の獣人さんだ。薄めの茶色い毛並みはフワフワしていて、触り心地が良さそうに見える。エプロンを着けて、頭の上で手を叩きながらお客さんを呼んでいた。その動きはいつかテレビでやっていた、餌をねだる動物園のクマさんのようだった。声はおっさんなのに、動きが可愛いとか……。卑怯な!


 「いらっしゃーい!……って、今日だったかい見学は。」

 「はい。今日はよろしくお願いします。」

 「おうよ!」


 野菜はどれもこの街と、街の近くの村の人が育てたもので、朝採れたばかりなのだそうだ。どれも瑞々しく、新鮮そうに見える。

 しかし、台の下、端の方に追いやられるようにして置かれている野菜たちがいた。種類もバラバラで、一つのカゴに纏められて置かれている。


 「この野菜たちは……?」

 「あぁー、それは昨日の売れ残りだよ。他より少し安くして売っているんだが、みんな朝採れたばかりの方を選ぶからな。なかなか売れないんだよ。」


 獣人さんたちは、とても敏感で、新鮮かどうかをすぐに見分けられるのだそうだ。そして、みんな新鮮な方を買っていく。結果、どうしても売れ残った野菜が端っこに追いやられてしまうのだと、教えてくれた。


 なるほどなー。私には違いがわからなかった。一日ではそこまで鮮度が落ちているようには見えない。なんだか、もったいないな……。

 


 「ねーねー、チカー!ここのお野菜を売るのにも、算数って出来ないとダメなの?」


 可愛らしい声で聞いてきたのは、鹿の獣人の女の子、サーシェちゃん。クリクリとしたお目々がとてもキュートです。


 「そうだね、お勘定がすぐに出来ないと、お客様を待たせてしまうからね。……例えば、銅貨十四枚、銅貨十三枚、銅貨二十二枚、銅貨二十八枚のお野菜をまとめて買おうとしているお客様がいます。銀貨を一枚支払ってくれたら、お釣りはいくら?」

 「「「「銅貨二十三枚!」」」」


 いきなりの問題だったけれど、瞬時に答えが返ってきた。


 「はい、正解です。」

 「すごいなー……。こんなに早く計算が出来ちまうのかい?こりゃーうちに欲しいくらいだよ!」


 八百屋のご主人はびっくりしているのか、目がまん丸になっている。そして、とっても嬉しいことを言ってくれた。


 「ね?計算が早いのは、お店側が欲しいと言ってくれるくらい、すごい事よ。その分、いろんな所で働ける可能性も出てくるの。」

 「そうなのね!じゃぁ働きたいと思える所に行けるように、もっとたくさん計算が出来るようにならなくちゃ!」

 「その感じじゃぁ、うちには来てくれなさそうだなぁ……。」


 サーシェちゃんはやる気になって、八百屋のご主人はがっくりとうなだれた。


 熊さんには申し訳ないけれど、計算の大事さを感じて貰えて良かった。

 学校が終わった後、代わりってわけではないけれど、安くなっている野菜を買わせてもらった。これで今夜は野菜炒めだ!

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