16 トマトとバジルとチーズの組み合わせって、最高ですよね!
大きなアーチという話でした。
ええ。私も想像しておりましたよ。大きな、と言うくらいですから、五、六メートルくらいの高さかな、と。
……なにこれ?
大きすぎでしょーーーー!?
私は顔を真上に上げた。
大木が二本。木同士の間隔は二十メートルはあるだろうか。先端に行くにつれて、お互いの方へと傾いていき、枝が絡み合ってアーチを作り出していた。もうビルみたいな大きさだよ……。
葉が生い茂り、薄紫色の花が咲き誇っている。ひらひらと花びらが落ちてきて、空の青と葉の緑と薄紫の花が視界いっぱいに広がる。舞う花びらが踊っているみたいで、幻想的だ。
「ふえぇ……。」
「チカちゃん変な声ー!」
思わず出たため息のような声を、マディラさんに笑われた。
広大な森を二日で抜けて、たどり着いた。獣人さんがたくさんいる、エンジェ共和国。
広大な森もすごいスケールだったね!あれが天然の防壁代わりなんだとか。兵は横に並びにくいし、敵を見つけにくい。獣人さん達は目や耳や鼻が良いのと、身体能力も凄いから、森で戦いになると圧勝なんだとか。なるほどなー。
アーチをゆっくり潜って、入国しました!やったぜ!
少し離れたところに街があって、今日はそこに泊まる事になる。
「カッコイイ!!」
街に入って第一街人発見!虎の獣人さんっぽいその人は、筋肉ムッキムキの二足歩行の虎さん!上半身も虎のままでモフモフしていた。……でもズボンは履いていたよ!良かった!角材を持っているから、大工さんなのかな?
私の声が聞こえたのか、耳をピクピクさせた後、急に胸を張ってフンフン言いながら歩き始めた。……角材がブンブン振るわれて、周りの人が迷惑そうな顔してるよ!早く気付いて!
「うわー!皆さん可愛いしカッコイイし、素敵だー!私この国に来て良かったー!」
「そうか。なら良かった。」
クレスさんが嬉しそうに笑った。きっと、クレスさんもこの国が好きなんだね!
周りの獣人さん達は、私にニコニコと笑いかけてくれる。さっきのが聞こえていたのかな?耳がいいって言っていたし。随分遠くまでそんな顔で迎えられちゃって、ちょっと恥ずかしかった。さっさと宿を取って、部屋に入りましたよ!
クレスさんたちに勧められて、今日から少し冒険者としての活動をしようと思う。一年の間に依頼をこなさないといけないもんね!
と言っても、面倒が少ない薬草採取だ!どのギルドでも常に出ている依頼だから、一々依頼を受けたりしないで、薬草を持って行けば良いだけ。移動しながらこなすにはもってこいだね!
グリちゃんのスピードも緩やかで、薬草がありそうなところがあったら、一旦休憩して薬草採取をしていった。
「これが体力を回復するポーションに使う薬草だ。葉の部分だけを取る。」
「これって……タンポポ。」
「たんぽぽ?チカの世界にもあったんだな。こちらではタポーの葉と呼んでいる。」
「名前ちょっと似ているんですね。……あ、体力ポーションだからタポー?」
「……どうだろうな。名付けた人に聞かないとわからない。」
クレスさんが遠い目をしていた。
魔力ポーションの薬草が、マポーだったら確定かな!どんな人が名付け親なんだろうな。安易な名前つけたなーって子孫に言われ続けるのかな?……ちょっと可哀想!
それにしても、タンポポなら見つけるのは簡単だ!これなら一人でも薬草採取出来るぞー!
……あ。
「チカちゃん、スライムがいるよー。退治してみたらー?」
「……はい。」
そうか。私が一人でも生きていけるように、冒険者としての基礎を教えてくれているんだ。そこまで考えて、そうだった、と思い出した。
私は依頼でクレスさんと一緒にいるんだ。つまり、この国に来た事で私が大丈夫そうならば、依頼は終わるんだ。依頼が終わったら……クレスさんとはお別れだ。
そこまで考えてしまったら、少し寂しくなってしまった。
マディラさんは面白そう、で付いて来たわけだけれど……どうするのかな?クレスさんと一緒にいなくなっちゃうのかな。二人がかりで教えてくれているって事はそうなのかもな……。
「大丈夫ー?」
「あ、はい!」
でも、せっかく教えてくれているのだもの。今はしっかり身につけよう!心配してくれているのに、ウジウジして覚えられないなんて、ダメだよね!切り替え切り替え!
私は小さなナイフを構えてスライムに向かった。
薄緑色のスライムは、プルプル震えている。目は無いし、こちらに攻撃するような素ぶりも無いし、プルプルしているだけなんだけれど……。
「……これ、害があるんですか?」
倒さなくちゃダメなのー!?可愛すぎるんだけど!
「たくさん増えすぎるとちょっと困るけど、そうじゃなければ特に害は無いよー。初心者のお決まり的なものかなー?」
「なるほど……。」
マディラさんにそう言われ、もう一度構える。すると、スライムは体を縦に伸ばして……クエスチョンマークのように傾げたではありませんか!?
「可愛すぎて無理です!私にはスライム君は倒せません!!」
「あはははー!」
どんなに笑われようとも!私には倒せないですよ!
スライム君は避けることにして、私は薬草採取を続けた。ついでに綿毛になっているタンポポも採取する。種をハンカチに包んで、ショルダーバッグにしまう。いつか住む場所を手に入れたら、そこで育ててみようと思う。生きる術をきちんと探さないとね!
タポーの葉の近くには、ハーブも沢山あった。その中から、私はバジルを採取した。バジル、美味しいよね!パンにバジルとチーズとミニトマトを載っけて、焼いて食べるんだ!
今までに比べたら、だいぶゆっくりした行程だったけれど、夕方になる前に次の街に着いた。ここは主にウサギの獣人さんが多く暮らしているみたい。ギルドに薬草を納品して、市場でミニトマトとチーズとパンを購入する。宿屋で夜食にしよう。
夜、部屋でスキルの説明を読んで、勉強をした。少しずつ理解出来ていると思う。一人でも生きて行けるように、このスキルには頼るつもりだ。
小腹が空いて、バジルチーズトマトパン……私はピザパンって勝手に呼んでいるんだけれど、ピザパンを作ろうとして、火が無いことに気付いた。チーズがとろけないと、ピザパンにはならない!
どうしようかと考えていると、ドアがノックされた。
「まだ起きているか?俺だ。」
「クレスさん?」
私がそっとドアを開けると、旅装を解いたラフな格好のクレスさんがいた。
「少し話してもいいか?」
「はい。……あ!ちょうど良いところです!これを温めたいんです!」
私はチーズの溶けていないピザパンを目の前に差し出した。クレスさんの火魔法を期待した!
……クレスさんが微妙な顔をした。
「美味しかったー。ありがとうございます!チーズを溶かす方法を思いつかなくて、困っていたところだったんです。」
「いや、良いんだ。俺も頂いてしまったしな。美味かった。」
「バジルとチーズとトマトの相性は本当に抜群です!……それで、お話とは何でしょうか?」
何となく予想はついているんだけれどね。
「ああ。俺の護衛の依頼についてだ。」
「はい。」
やっぱり。
「俺としては、チカがこの世界に馴染めるように基本的なことを教え、暮らす場所を見つけた時点で、依頼が完了したと考えている。」
「暮らす場所を探すのは時間がかかると思いますし、色々と教えてもらったら、それで大丈夫です。」
「……本当に?」
それで良いのか?
私はクレスさんの目を見て頷く。
「はい。」
「……わかった。では冒険者としての基本的なことが済んだら、依頼完了としよう。」
「はい。ありがとうございます。」
「あと数日はかかると思ってくれ。それまでにいい場所があったら、住む準備なども手伝おう。」
「はい。……もし、別の国に行きたくなったら、指名依頼を出してもいいですか?」
「……ああ。」
一生の別れじゃ無いもの。まだ他の国も見てみたいし。依頼を出したら、また会えるから。
クレスさんは笑顔で返事をしてくれた。良かった!
とりあえずあと数日、楽しもう。
こうして、予定が決まった。




