14 ガボボボガーボッボッ、ガボボボガボボボ!
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本当にありがとうございます!文章を書きながら数を見ては、小躍りしております!
ぎゃあああぁぁーーーーーーガボボボボボ……!
まーーーーーわるーーーーまーーーーわるーーーーよ!
私ーーは、まわるぅううううーーーー!
っと、冗談は置いておいて、もの凄い水の勢いに、上がどちらかもわからない。とにかく勢いが収まるまで我慢するしかない!
でも、そろそろ息が……空気が欲しい……!
上だと思われる方に、必死に水をかいて、空気を求める。ほんの少しだけ顔を出せた!
「っぷは!!」
でもまた流されるーーー!
何度ギリギリの息継ぎをしたのだろうか……。どれだけ流されたのか……。意識も朦朧として来た。
長いこと耐えて、やっと足が地面についた。流れが緩やかな場所に出たのだろうか……?
ひぃこら言いながら、岩場に上がった。洗濯される衣服ってこんな感じなのかな……と思いながら、気絶するように眠ってしまった。
……さっむ!!!
意識が途切れる前は日が当たっていたと思ったけれど……今は日陰になっている。どのくらい眠っちゃったかな?
濡れた服の冷たさが、体温を奪っているのだろう。脱げる部分は脱いで、服と髪を絞り、水気を出来るだけとる。出来る限りの事をしてから、あたりを見回した。
川の流れは不思議なほど、ここ周辺だけ緩やかになっている。おかげで助かったんだけど。少し向こうは轟々と走っている。
山は緩やかな坂になっていて、登りやすそうだ。これなら私でも行けるかな。ただ……。
「迷子になった時って、その場から動いちゃダメって言うよね……。」
でも、もう随分と流されているし、今更かな。寒いから日向に出たいし、周りを見るためにも動きたい……。
どうしようかと悩んでいたら、声が聞こえた。
「おや、人間がおる……。」
古い言葉遣いの方だな……。雅なお人かな?……いやいや、日本じゃ無いんだから、この喋り方も普通なのかもしれない。
そう思いながら、声の方を見る。
ブリキのバケツを持った女性。サファイアのような色の髪は、緩やかなウェーブを描き、光を反射して本物の宝石のように輝いている。瞳もブルーだけど、こっちは少し緑が入ったような薄い青。パッチリとした目元は美しい瞳を強調するようだ。驚いた顔でさえも、絵画になりそう……。
緩やかな白いワンピースを着ていて、とても魔物の巣窟に来ているとは思えない。
「この世界の人間は、入れないようにしておったはずなのだが……。どうやってここへ?」
なんだろう……。言葉に威圧感がある気がする。早く答えなければ、と思わされる。それに気になる一言もあった。
「えっと、道から落ちて、川を流されてここへ着きました。」
「それなら、絶対にここへは来れぬ。そなた、何者か?」
緑を入れた薄い青の瞳が細まる。この人を怒らせてはいけない、と私の勘が訴えている。心臓がバクバクと鳴り、耳にうるさい。言わないといけない、と思う。早く、言わなければ!
「私がこの世界の人間ではないからだと思います。数日前、召喚に巻き込まれてやって来ました。一応人間で間違いはないと思います。」
「ほぅ……。召喚かえ。」
言い切ると、ホッと息を吐く。さっきの緊張感が霧散した気がする。
「はい。ギベオン王国が聖女の召喚をしまして……。」
「なるほどのぅ。あの魔力のうねりは聖女召喚であったか……。」
魔力ってうねるのかー。と思っていると、バケツを持った女性は私を舐めるように見てきた。悪寒がする……。綺麗な女性に見られて悪寒がするって……私、さっきからどうした?
「ふむ。そなた、名は?」
「チカ、と言います。」
「ほほ、そうかそうか……。では、チカ。ついておいで。」
女性は、名前を聞くと満足そうに何度か頷いた。
優しく言っているが、逆らえる気がしない。私は大人しく付いて行った。
緩やかな山を登ると、開けて平らな場所に出た。広さは……四百メートルトラックが四つは入るだろうか……。そこには、同じだと思われる木が等間隔で並んでいる。まるで果樹園だ。よく見ると、葉も実もどこかで見たことあるような……。
「オリーブだ……。」
食用油や化粧水のパッケージによく描かれていたし、育てたくて、ネットで調べた事もあるから覚えている。ちょっと厚みのある楕円形の葉っぱ、緑色のコロンとした形の実。それがズラーっと並んでいる。オリーブ園だ。
「この実を知っているのかえ?」
「はい。私のいた世界にもありました。お姉さんが育てているのですか?」
「ほほ、この実はとても美味であるからのぉ。ここまで育てるのには、ちと苦労したぞ。」
「凄いですね……。」
美味しいからと、ここまでたくさん植えて育てるとは……。どんだけ食いしん坊さんなんだ……。
今がどの季節なのかわからないけれど、どの木にも実が生っている。向こうの世界だと、十〜十一月に生るはず。この世界はまだ結構暖かい日が多いから、季節が違う気がする。やっぱり、世界が違うから、生る季節も違うのかな?
広いオリーブ園を抜けると、ログハウスのお家が見えた。オリーブ園に比べると、随分とこじんまりして……。
「可愛い……!」
「ほっほっほ。」
思わず感想が口から出てしまった。嬉しそうに笑うお姉さん。バケツを家の脇に置くと、家へと招いてくれた。
「人間は濡れたままだと良くないと聞いたからの。」
「あ、ありがとうございます。」
ふかふかのタオルを渡してくれた。私はお礼を言って、遠慮なく拭かせてもらった。
それにしても、人間はって……。それじゃぁまるで……。
「さて、少し話を聞かせておくれ。チカ、そなたの経験して来たことを……。」
「はい……。」
まただ。言わなければならないと思う、この感じ……。この人は一体……。
私はこの世界に来た時の事、それからの事、この渓谷での事を順番に話した。それから、お姉さんに聞かれたら答える、という形で小一時間ほど話しただろうか。
「なるほどのぅ。恐らく、聖女が召喚されるその瞬間に、触れられていたがために共に召喚されてしまったのだろうの。何故触れられていたのかえ?」
「触れられると言うか、叩かれる瞬間だったんです。彼女とは口論になって……。」
「口論?それまた何故?」
今まで言わなかった、何故ぶっ叩かれていたのか。今後の彼女の名誉のためにも、言わないでおこうと思ったけれど、この人には逆らえない……。
「彼女は……私の職場の後輩に、痴漢の濡れ衣を着せたんです。やっていないと断言できる状況で。」
「ほぅ?」
「私は、後輩はやっていないと主張し、彼女はやったと言い張って、撤回しなかったんです。私は次の駅で後輩を逃がしました。それに対して怒った彼女が叩こうとしてきたんです。」
あの時、後輩は両手で手すりに掴まっていた。絶対に痴漢なんて出来るわけがないのだ。
後輩を逃がした判断は間違っていないと思う。その後はどうなったんだろうか……。後輩は無事に逃げ切れたかな……。まぁ痴漢されたと騒ぐ子が居なくなったから、罪に問う人もいないか。
「聖女が罪なき者を陥れている、と……。それは言えぬのう。」
「……はい。」
「まぁ、そなたが言わずとも、そのうち身から出た錆で朽ちるじゃろうがな。ほっほっほ。」
朽ちちゃうのは嫌だなぁと思って声を上げようとしたところで、部屋のドアが開いた。
「ははうえ、緑のおじさん来たの?」
「おぉ、ペドリット。おじさんは今日は来ぬよ。……こちらへおいで。」
半開きのドアから覗いた小さな男の子。宝石の様な青色のお姉さんとは違う、緑色の鮮やかな瞳に、同じ緑の髪。お姉さんと同じでウェーブがかかり、ボブにカットされている。
一瞬嬉しそうな顔をしていたが、私を見た途端に不安げな顔になってしまった。おじさんじゃなくてごめんよぉ……。
「……。」
「この子は我の一人息子、ペドリット。……ペドリット、これが人間だ。初めて見るであろう?」
「にんげん……?」
「は、初めまして……。チカです。」
「……ペドリット……です……。」
名前だけ言うと、顔を若干赤くさせ俯いて、お母さんの後ろに隠れてしまった。か……。
「可愛い……。」
「ほっほっほ。」
ペドリット君との挨拶が終わると、お母さんが私の目をじっと見た。なんだろう……。妙に緊張する。
「すまぬの。話を聞いてわかったのだが、恐らくチカが川に落ちたのはこの子のせいであろう。」
「えっ?」
「先程まで川で練習をしていたからの……。だから、そなたを助けたのと、……これで勘弁しておくれ。」
そう言うと、青いサファイアの髪を揺らして立ち上がり、腕を緩やかに振った。まるで絹を撫でる様な、優しい動き。
少しして、遠くから声が聞こえてきた。
「チカーーー!」
「……クレスさんの声。」
「さぁ、行くぞチカ。」
腕を引かれて、ログハウスから出る。オリーブ園とは逆の、ログハウスの裏手を進むと、見慣れた大柄な人が見えた。
タイトルは
流れるプールって、無心になるよね!
と、言っております。