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閑話 イケメン騎士の災難

 最後の最後に、少し怖い表現があります。お気をつけ下さい。


 お城にいるイケメン騎士さん視点です。本名はレオナルドですが、お城ではルードヴィッヒと名乗っています。

 今日はいつもの時間に、主人の執務室ではなく、訓練場にいた。それがいけなかったのだろうか。


 訓練場の備品の確認や、護衛騎士の訓練を確認し、さて戻ろうとしたところで声をかけられた。


 「ルードヴィッヒ様!」


 鈴のような高い音。耳と頭が同時に痛くなるような錯覚を起こす。


 「おい!ミレイが声をかけているのだぞ!すぐに返事をしないか!」


 普段は絶対に訓練場に来ないアンタレス王子までいる。はぁ……。心の中で、溜め息が止まらない。


 「聖女様、こんにちは。」

 「ふふふ。こんにちは!ルードヴィッヒ様!私、先程訓練を終えて、これからお茶をしに行くのですが、ご一緒にいかがですか?」


 あぁ。またか……。最近何度もお茶に誘われている。その度に用事を言ってお断りしているが、今回は断るわけにいかない。行きたくはないが……。

 出来る限り、にこやかな顔の形に筋肉を動かしながら返事をする。


 「そうなのですね。喜んで、ご一緒させて頂きたいと思います。」

 「嬉しいです!着替えてきますので、緑の間でお会い致しましょう!楽しみです!」

 「……ふん!」


 弾むような足取りで去って行く聖女。腰巾着のように付いていたアンタレス王子が、こちらを睨みながら鼻を鳴らして行った。そんな顔をするなら、しっかり手綱を握っておいて欲しい……。



 最近聖女は、人を殴ることにも抵抗が無くなり、兵士を遠慮なく殴りまくっている。レベルは20に近づいているそうだ。成長速度は流石と言ったところか。そろそろ魔物での実戦を予定している。


 訓練のせいで、兵士の傷が絶えないが、聖女はそれを癒したりなぞしない。自分が怪我をした時は息をする様に治しているというのに。さらに、とある噂が囁かれている……。

 その時点で既に聖女としてどうなのか、と陰で言われているが、今回はその噂が真実であると確かめよ、と指示されている。マリアンヌに。だからお茶のお誘いを断れなかった。はぁ……。


 気を取り直して、一度主人の執務室に向かう。お茶に誘われ、これから行く報告をすると、主人の隣にいたマリアンヌの目がキラリと光った気がした。主人に、死んだ魚のような目をしているよ、と指摘されてしまった。気を付けなければ……。




 さて、憂鬱なお茶の時間だ。私は鎧を外し、失礼にならない程度に動きやすい格好で緑の間へ向かった。

 緑の間は、春の新芽をイメージした部屋で、全体的に緑を多く使った装飾をしている。この城の奇抜な派手さに染まらず、壁紙も淡い緑で、とても落ち着く部屋だと思う。

 そんな落ち着く部屋に、どピンクのドレスを着た女性が座っている。部屋の雰囲気は台無しだ。


 「ようこそ!ルードヴィッヒ様!」

 「お招きありがとうございます。聖女様。」

 「美麗です。どうぞ、名前でお呼びになって?」


 小首を傾げてさえずる様子にイラッとする。これからは名前で呼ばないといけないのか……。苦痛だ。


 「では、私のことはルード、と。ミレイ様。」

 「はい!ルード様。ふふふ!」

 「ミレイ!この男に名前で呼ばせるのか!?」


 アンタレス王子が噛み付くが、聖女は意に介さないようだ。


 お茶が用意され、しばらく他愛もない話が続く。さて……そろそろか。


 「アンタレス様、国王がお呼びです。」

 「……わかった。今行く。」


 マリアンヌがアンタレス王子を呼びに来た。もちろん、マリアンヌは別人の顔になっている。その化粧術はもう魔法ではないのか?


 アンタレス王子は護衛を数人残して、部屋から去っていく。去り際にこちらをひと睨みするのも忘れない。


 「ルード様、あの……。」

 「どうかされましたか?ミレイ様。」


 王子がいなくなった途端に、弱々しい声で呼びかけられた。護衛は、部屋の入り口と壁側にいるので、小声では聞こえないだろう。


 「その……私怖いんです……。今度、お城の外に行く事になって。魔物を実際に倒してみよ、と言われて……。」


 俯いて怖いと言う聖女。あれだけ人を殴れるのだから、魔物も当然殴れるでしょう?何が怖いのか……。


 「大丈夫ですよ。いきなり一対一で戦う事は絶対にありません。兵で魔物を押さえつけ、ミレイ様はトドメを刺すだけですから。」

 「でも……。」


 涙目になってこちらを見る。


 「ルード様、助けて下さい!私やっぱり怖いの……。一緒に来て欲しいんです……。ダメですか?」 

 「ミレイ様……。」

 「アンタレス様には言えなくて……ルード様だけが頼りなんです……!」


 最近、噂になっているのがこれ。聖女は男に片っ端から色目を使っている、というもの。その数三十を軽く超える。そして、コロッといってしまった者は、聖女に貢いでいるのだとか……。


 「わかりました。私が必ずお救いします。だから、安心して……。」

 「あぁ、ルード様……。ありがとうございます……。嬉しいです。」


 と、それとなく雰囲気を作り出せば、涙をひと雫落とし、微笑む聖女。素晴らしい演技力だな。そのワンシーンだけは聖女だと疑いなく見られる。




 ……しかし、私は知っている。貢いでしまった者たちが、聖女の虚偽の訴えにより、首が飛んでいる事を。

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