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12 買い物は直感で決めます!

 この国では最後の買い物。

 国境の門に接して出来たこの街は、活気に満ちているように見える。

 メインストリートに並ぶマーケット。カラフルな大きな傘が差され、その下には色とりどりの野菜や果物が所狭しと並ぶ。傘の下でお客さんを呼ぶ声が、あちこちから聞こえる。ついつい視線が彷徨ってしまう。


 きちんと前を見てなかったからか、石に躓いてしまった。とっさに出てきた考えは、転ぶなんて学生の頃以来だな、だった。目を瞑って衝撃が来るのを待ったけど、来ない。そっと目を開けると、お腹をガッシリした腕が支えていた。腕を辿って、支えてくれた人を見ると、少し困った顔でこちらを見ているイケメンが。濃い紺の髪に、少しグレーの入った黄緑色の瞳。近距離で人の瞳を見る機会なんて、そう無いけれど、とても綺麗だと思った。


 「大丈夫か?」

 「……ありがとうございます。」


 転びかけた事と、イケメンが近すぎる恥ずかしさで、顔に熱が集まる。不自然にならないように気を付けながら、離れてお礼を言った。あー!恥ずかしぃ!!


 次は躓かないようにと、気をつけて見て回る。旅の荷物はそれなりに多いから、邪魔になる物は買えないものね。気になった物は別の国についた時に探してみよう。


 「長持ちしないから、たくさんはダメだが、すぐ食べる分なら買っても良いぞ。」


 横を見上げると、クレスさんが笑っている。珍しさにキョロキョロして、子供みたいだと思われちゃったかな?さっきから恥ずかしい事だらけだ!


 「はい!」


 でも、せっかくお許しが出たし、美味しそうなのを買ってみよう!


 私の知っている物もある。リンゴやバナナ、トマトなんかも普通に並んでいた。見たことの無い物もたくさんあった。その中でも目についたのが、これ。……これはどんな味なんだろう。

 ずっしりとしてまん丸。両手で包めるくらいの大きさで、色は鮮やかな黄色。ほのかに甘い匂いがする。


 「それは美味いぞ。リビラスっていう果物だ。太陽の象徴とも言われている。……グリフォンの好物だ。」

 「太陽の象徴……なんだかカッコイイですね!グリちゃんも好きなら、四つ買いますね!」


 グリちゃんも食べられるならみんなでお昼ご飯のデザートに良いかも。きっとマディラさんも来るから、四つ買っておいた。


 お昼ご飯のパンや、保存食、薄手の毛布など……これから渓谷を越えるために、必要そうなものを買った。



 マーケットから少し離れたところに、床に布を敷いて商品を売っている人がいた。わざわざ離れたところを選んだのは、どんな意味があるのかな?通り過ぎる時に、チラッと覗いた。


 フードで顔は見えなかったけれど、白いおひげが胸元まで伸びている。ローブ越しにも痩せているのが分かるほど細い。仙人を想像するようなお爺さんだ。

 布に広がっている商品は、宝石ではないと一目で分かるような、輝きの鈍い、色の付いた石のアクセサリーや、ポーチや小さなショルダーバックだ。その全てがチラ見でも分かるほど、可愛らしいデザインをしている。


 「あの、ちょっとだけ見ても良いですか?」

 「ああ、構わないが……。」


 クレスさんに断りを入れると、私は商品をじっくりと見てみた。やはり可愛らしい。仙人みたいなお爺さんが売っているとは思えない。その中で、私の目を離さないのが、小さなショルダーバッグだ。

 革製のショルダーバッグ。革はワインレッド色で、留め具の金色がアクセントになっている。フタ部分は波型になっていて、可愛い。小さいからお財布代わりの布の袋とハンカチくらいしか入らないだろうけれど……。大きなカバンと違って、肌身離さずつけていられるから、良いかも。


 「これください!」

 「はいよぉ……。」


 やはりお爺さんだ。声に覇気がないけど……。大丈夫かな?

 買ったカバンを早速肩にかけた。後でお財布とハンカチを入れようっと!


 「良いお買い物が出来ました。ありがとうございます!」

 「そぉかい?こちらこそ、ありがとうねぇ。」


 私がお礼を言うと、ちょっと驚いたような声で返された。

 とっても可愛い物が買えて、大満足だ!



 買い物も終わり、後は出るだけ。門に続く道には、人の列が出来ていた。その列に並ぶ。


 もうすぐ出られる……!やっとこの国とおさらば出来る!この国を出たら、私は巻き込まれ召喚された、無職の人ではなく、冒険者チカとして生きるんだ。……冒険はあまりしたくないけど!怖いし!!


 そんな浮かれた気分に上乗せするような、可愛いショルダーバッグ。少しずつ進む列に、きちんと付いていきながら、カバンのお財布とハンカチをショルダーバッグに入れた。……入れた。


 入れたよね?あれ!?


 カバンの中が真っ暗で何も見えない!


 慌てて手を突っ込んでお財布を探す。すると、すぐにお財布の布の感触が手に当たる。


 「……。」

 「どうかしたか?」

 「いいえ!」


 ちゃんとお財布は出てきた。もう一度入れる。真っ暗で何も入っていないように見える。手を突っ込んで取り出す。……不思議だーー!


 入れたものが見えないなら、何が入っているか誰にもわからないから、普通のカバンよりも安全だー!


 さすが異世界!この先も不思議のオンパレードがいっぱいあるんだろうなー!




 「身分証を出せ。」

 「はい。」


 国境の門の下。兵士さんにギルドカードを見せる。


 「Gランクで渓谷を越えるのか……?大丈夫か?」

 「彼女は依頼主だ。私が護衛をする。」


 私のギルドカードを見て、兵士さんが心配してくれる。怪訝な顔ではなく、心配が表情に現れていた。それに対してクレスさんが、自分のギルドカードを見せる。


 「Bランクか。なるほど。くれぐれも気をつけて進むようにな。通ってよし。」


 兵士さんは頷いて、通してくれた。通った後でクレスさんが教えてくれたが、身分証さえあれば、基本的に止められないのだそうだ。流石にGランク一人だったら死にに行くようなものだから、止められるそうだけれど。



 国境の壁は、まるで万里の長城のようにずーっと続いている。自然の中に、一本線を引いたように聳える人工物は、その先が別の世界だと区切っているようだ。

 高い壁にある大きな門を潜る。壁は十メートルくらいの幅があって、視界が一回暗くなった。トンネルみたいだ。出口に見える光に向かって、少し早歩きになった。


 光が眩しくて思わず目を細める。慣れてきて、ゆっくりと目を開くと、草原だった。


 あれ?渓谷は?


 私がキョロキョロしていると、クレスさんが察してくれた。


 「カルセドニー渓谷はこの先に見えているあの山だ。」


 クレスさんの指差す先を見る。大きな山が二つ。その間に道があるらしい。山は、一つが富士山くらいあるんじゃ無いかな?大きいなー!迫力がこんな遠くからでもわかるよ!上の方は雪を被っていて、寒そう。


 「あの山の麓で今日は野営するぞ。」


 今日はあの山の麓まで行くのだそうだ。と、言うことは……。


 「ああああああーーーーーーー!」

 「クエェェェェーーーーーーー!」

 「頑張れ……。」


 こうなりますよねーー!

 渓谷に向けて歩いて行く人たちに、ビックリされながら、山まで続く草原を走り抜ける。


 そういえば、転びそうになった時、近さに恥ずかしくなったけれど……。グリちゃんに乗っている時の方がより密着していたんだよね……。それに気付いたら、より叫びたい衝動に駆られた。


 絶対振り返れない!!

 バッグの素晴らしい機能に気付くのは何時頃ですかねぇ……。


 リビラスという果物は、リビアングラスという天然石から名付けました。太陽の象徴なんだそうです。

 実は、登場人物の名前もちょいちょい天然石の名前からもじってつけています。目の色に、ちなんだ石を選んでいます。

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