11 自分がストレスを溜め込んでいたって、爆発してから気付くタイプなんですよ!
ちょっとだけ、主人公の鬱々としたものが出ます。
誤字報告ありがとうございます!
マディラと名乗ったイケメンさんは、髪よりも赤い目をこちらに向けて、ニッコリと笑った。
クレスさんが、その視線を遮るように前に出てくる。
「アイちゃーん、女性への挨拶を邪魔するとか、失礼じゃなーい?」
「……。何をしに来た。」
クレスさんは取り合う気ゼロって感じだ。やれやれと手を肩のあたりに持っていき、首を振るマディラさん。
「今回の依頼は簡単に終わると思ったんだけどなー。」
依頼……。依頼でここに来たって事?
「僕の依頼はね、こげ茶の髪の女性を探す事。三日前、乗合馬車に乗っていてー、カバン一つで一人旅。国も買えないこの国最高峰の魔道具師が作った魔道具を持っている人なんだってー。」
クレスさんが私を隠すように、さっきより前に出る。
今言っている人って、完全に私だよね……。国も買えない魔道具渡されてたんだね……。そりゃ目を付けられるか。ヤギの魔物を代わりに置いておいた偽装工作は、あんまり役に立たなかったのかな?
「死んだように見せかけていたけど、荷物も残っていなかったし、よく見れば簡単に人じゃないってわかったよー。」
「それで、その人間を見つけてどうするんだ?」
クレスさんが促す。偽装がバレてしまったのは仕方がないものね。マディラさんはニッコリしたまま続けた。
「その女性を見つけて城に連れてこいってー。持っているであろう魔道具も一緒に。アンタレス王子だっけ?の依頼だからしっかりこなせってさー。そんで、乗合馬車の進行方向と、馬車に乗っていた人から情報を聞いてー、南にある街を片っ端から調べたわけー。まぁアイちゃんが一緒にいたとは思わなかったけどねー。どーりで、予想より遠くにいたはずだー。」
それを聞くと、クレスさんはゆっくりと背中の大剣に手を回した。
マディラさんはニッコリとしたまま、腰の左右に下がった短めの剣に、手をクロスさせて触れている。
まるで一触即発。何かのきっかけで戦闘が始まるような緊張感。クレスさんの依頼と、マディラさんの依頼がぶつかってしまっているのか……。
でも、私はそれどころじゃなかった。すごくイラッとしてる。この世界に喚ばれた時くらいのイラッと具合だ。あの名前のせいかな。召喚された時のドヤ顔な王子の顔が頭に浮かんだ。
そうしたらもう……口が勝手に動いていた……。
「ふっざけんな……!」
「え?」
クレスさんがチラリとこちらを見るのがわかった。でも、もう動き始めた口は止まらない。
「勝手に召喚して!巻き込んだくせに放置しやがって!その上で殺されるかもしれないからってよくわかんない世界を旅しなくちゃいけないってのに!何が魔道具だ!あのクソ王子!!」
「……チカ……?」
「なんで私がこんな目に合わなくちゃいけないの!?私が何したっていうの!!それもこれも全部あの馬鹿野郎のせいだ!アンタレスの馬鹿野郎ーーー!!もうやだああああーーー!!」
全力で叫び、そして泣いた。ストレスが限界を迎えていたのか……。城にいれば殺されるかもしれないと忍び歩きで逃げ出し、何も知らない街を一人で歩き、強制的に冒険者にならなければいけなかったり、魔物に囲まれて死にそうになったり……。だいぶ負担がかかっていたのかもしれない。泣き始めたら、父と母の顔まで浮かんで、もう会えない悲しみも一緒くたになってしまった。
視界の端に、キョトンとした顔の男二人が見えた気がするけれど、もう涙は止まらなかった。
どれくらい泣いてしまったのだろうか……。多分三十分は経ったと思う。我ながら子供のようだったと反省している。でもお陰で、だいぶスッキリした。
最後の方は、しゃくり上げる私の背中を、クレスさんが撫でてくれて、グリちゃんも羽で頭をポフポフしてくれた。マディラさんはハンカチを貸してくれた。良い人なのかな?
クレスさんが野営の準備を始めた。マディラさんが当たり前のように一緒に準備をしている。どういう事だろう?火を囲んで、向かい合うように座った。
「チカ。このマディラは依頼を受けただけで、国の人間じゃない。その……さっき君が叫んでいた事、詳しく聞いても良いか?」
「僕とアイちゃんは知り合いでね、たまに一緒にパーティを組んだりするんだよー。そして、僕もアイちゃんも……この国を良くは思っていない。君の話を聞いて、さっきの依頼はどうするか決めるよー。」
私は、鼻をグズグズ言わせながら、この世界の聖女召喚に巻き込まれた事、聖女じゃないと分かると無視され、殺されるかもしれないから、と城から逃がしてもらった事を話した。話しながらまた泣いてしまって……泣きすぎて、若干過呼吸で苦しい。グリちゃんが羽で背中を撫でてくれる。クレスさんの真似をしているのかな?やざじぃなぁ……ぐずん。
「そうか……。話してくれてありがとう、チカ。おかしいとは思ったんだ。魔法に目を輝かせたり、宿屋の事も。そりゃそうなるだろうな。これからは分からない事があったら聞いてくれ。」
「はい……。ありがとうございます。クレスさん。」
「さっさとこの国出よー?もう魔道具は見つからなかった事にしてー、その女性も死んでた事にしよ!……んで、宿屋の事ってなにー?いやらしい話ー?」
一瞬でマディラさんは数メートル飛んだ。クレスさんに殴られたみたい。しかし、すぐにニコニコ顔で戻ってくる。わざとふざけているのかもしれないけれど、その勢いはちょっと怖いわ。
それにしても、かるーく死んだ事になったなー、私。でも、それでさっさと出られるなら……良いか!
「しかし、聖女召喚か……。このまま隠すと他国にとっては良くないだろうな。」
「そうだね。チカちゃんの事は伏せて、聖女が召喚された事は広めた方が良いかもー。聖女ちゃん、まだ弱いんでしょー?」
「私がステータスを見たときは、レベル2でした。」
「なら、まだ猶予があるかなー?」
「チカの事は他言しないと誓おう。聖女については情報を回しても良いか?」
「私の事を言わないでくれるなら……。正直、聖女の事ってどうしたらいいのかわからないので、他国が迷惑にならないように、お任せします。」
マディラさんはこのまま一晩休んで、明日ギルドに報告に行く事になった。魔道具はもう無かった。女性は死んでいた、として。
私とクレスさんは予定通り、この南端の街を抜けて、国境の壁を越える。そうしたらこの国とはおさらばだ!
人に話して、思いっきり泣いたら少し落ち着いた。ちゃんと、前を向いて行けそうな気がする。
まだ、どうするかは決めていないけれど、しっかり落ち着いて考えようと改めて思う。スキルもあるし、きっと上手く生きていけるよね?
朝になり、野営の後始末をして、いざ行かん!と言うところでマディラさんが声をかけてきた。
「じゃーアイちゃん、チカちゃん、またあとでねー!」
「あとで……?」
後で会う約束してたっけ?
「報告終わったら、後を追って行くからー!二人について行くの楽しそうだしー!」
「来なくていい!!」
クレスさんがお断りしていたけれど、羽のある馬さん……アイリーちゃんに乗って、さっさと去っていった。絶対聞こえてたけど聞こえないふりしてたよーな。
これは、お友達が増えたって事で良いのかな?
主人公は二度死ぬ……。なんちゃって。
やっと国を出られますね。
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