閑話 イケメン騎士の心配
次の話と、どっちを先にしようか迷いましたが、こちらを先にしました。
チヅルとは、チカが名乗った偽名です。
イケメン騎士さん視点のお話です。
追記 誤字報告ありがとうございます!感謝感激助かりますー!
チヅルが魔道具を発動させてから三日が経った。順調に行けば、あと少しで国境にたどり着く筈だ。魔道具を発動させた場所は、マリアンヌの言った通り、あたりは焦土と化していたらしい。ただ、マリアンヌも予想だにしなかったのが、発動場所の後ろにいた馬車が無傷だった事。どう考えてもあの威力で無傷はありえないと、マリアンヌはその原因の究明に躍起になっている。主人のメイドである筈なのに、お茶すら淹れずに部屋の端っこで考え込んでいる。仕方がないので私がお茶を淹れているが、ちゃんと仕事はして欲しいものだ……。
いつものように午前の政務を終えて、昼食後のティータイムで主人が話を振ってきた。
「我が国最高峰の魔道具師が、国にも卸していない攻撃の魔道具。それを使った者を探そうと、弟が躍起になっているんだが……?」
「はい。冒険者を使って捜査させているようです。ただ、リゲル様が行っていた、高ランク冒険者への依頼を遅らせる工作が功を奏し、依頼が受理されたのが今日だったそうです。」
「ふむ。この作られた時間差で、例の女性は出られると思うかい?」
「何とも……。依頼を受けた冒険者はかなり高速で移動出来るとの事ですので、運が良ければ……と言った所でしょうか。三日、乗り合い馬車で移動した場合、今頃国境の街の一つ手前でしょう……。」
そう。そこが心配なのだ。
チヅルがもし冒険者に見つかってしまった場合、ここに連れて来られる可能性もある。最悪、その場で殺され、魔道具だけが城に着く……という事も考えられるのだ。
何の罪もない彼女が、どうか無事であるように……。私には祈ることしか出来ないのか……。なんとも歯がゆいな……。
「捕まりそうになったなら、残りの魔道具を使えば良いのです。今回の魔道具よりかは威力が落ちますが、あれも中々強い物ですので。」
マリアンヌが自信満々に話に入ってきた。お前の魔道具のせいで騒ぎになっていると言うのに……。
「そうだね。何とか逃げ切って欲しいよね。あの女性には……。もし捕まってここに連れてこられたならば、助けられるよう何か仕込んでおこうか。」
主人もチヅルの無事を祈って下さるのか。さすが私の主人。しかも手段を考えて下さるという。私も全力で協力いたします!
「そうそう、女性といえば……。この手紙、どうやら遺書だったみたいなんだ。どうせだから聖女に内容を大っぴらにしてもらおうか。少しでも、召喚した者たちが悔いればいい。」
少し悲しい顔をして、服の内側から手紙を取り出す主人。ああ、その手紙はチヅルの書いた物だ。物だけでも送れるようになったならば、この手紙を送って欲しい、と言っていた。内容が遺書とは……。もう戻れないならば、死亡したのと同意という事か。彼女には本当に申し訳ない事をしてしまった……。召喚した事を悔いさせる為とは言え、読んで良いものなのか……。少し良心が痛む。
「では、セッティングは私がいたしましょう。」
面白そうな事へ乗っかる早さだけは凄まじいマリアンヌは、目をキラキラさせて請け負っている。さっきまで魔道具の事以外、話に乗らなかったのに……。
そういえば、チヅルが逃げられるよう計らう時もあの目をしていた気がする。……もしかして、あの高威力魔道具を使う形になる事を企んでいたのでは……?国に使わせるわけにはいかなかったから、実際に試す機会は少なかったはずだ……。怪しい。
チヅル……。運良く逃げられる事を祈ろう。もう一度ここに来ることのないように……。
少しだけ、もう一度会って名前について弁解したいとも思うが……。それは彼女のためにはならない。私の我儘になってしまうな……。
主人は話を変えた。質問に淀みなく答えられるよう、心を切り替える。
「そういえば、聖女の育成はどうなの?」
「はい。順調に兵士を殴っているそうです。今はレベルも15に達したそうです。」
「順調に殴っているのか……。抵抗はあったのかな?」
「本当に初期の頃だけだったそうですよ。メイドがコソコソ話していました。最近は楽しそうに殴っているとか。」
マリアンヌがメイドの話をしっかり聞いていたようだ。
楽しそうに人を殴る聖女、か……。それはもう、聖女ではないのでは……。
「……聖女ってさ、職業として現れるけれど、心の在りようでも変化するものなのかな?」
主人がまた、面白い事を見つけたかも……という顔をしている。そして、それを逃すマリアンヌではない。
「いい実験を思いつきました。是非とも聖女さまに試して頂きたいものです。」
うわー……マリアンヌの目が輝いている。もうギラギラかもしれない。主人も満足そうに頷いている。
「マリアンヌの良いようにやってごらん。私も協力しよう。ただし、彼女も被害者だ。落ち着くところは考えてね。」
「もちろんでございます。」
二人の満面な笑顔に、私は何も言えなかった。