のんびりお店編 4
唐突なお料理回。
……落ち着け私!
ひっひっふー。ひっひっふー。……ふぅ。
ここで、やっきもっきしても何か変わるわけでもなし。それに、難易度の高い依頼だと受けられる人も限られているだろうから、あの人たちしかいなかったのかもしれないものね!うん。
「よし!お店が落ち着いたし、お昼ご飯でも作ろうかね、スライム君や。」
ポヨヨン!ポヨヨン!
お昼ご飯と聞いて、喜び跳ねるスライム君。君は相変わらず食いしん坊さんだなー!
「人形さん達も、食べるでしょ?……うんうん。グリちゃんの分も必要だね!よし、じゃぁみんな、作っている間、お店番お願いね!」
ギュピーーン!!
と、カッコいい戦隊もののポーズを決めるみんな。グリちゃんの鳴き声も店の外から聞こえてきた。……みんな元気だなぁ。
お会計をするレジにベルを置いておく。お客様が来たらみんなに鳴らして教えてもらうための物だ。
……もしひっそり入って、お会計せずに帰ろうとしても、スキルの結界で出られないんだけどね。
さーて、今日のお昼は何にしようかなー?
「んー……あ、グラタンにしよう!」
と言っても、マカロニは無いので、代わりにじゃがいもを入れたやつ。
じゃがいもと玉ねぎを切って炒める。玉ねぎがしんなりしたら、そこに鶏肉を入れて、お肉に軽く火が入ったら火から下ろして置いておく。
次に、ホワイトソース作り。ホワイトソースって失敗しやすいって前にテレビで見たけれど……よしのちゃんのノートに書いてあるやり方でやってみようと思う。
鍋にバターと小麦粉を入れて、バターがブクブクするくらいまで温める。焦がさないように一回火から下ろして、しっかりとバターと小麦粉を混ぜる。ここでダマが出来ないようにしっかりと混ぜておくのがコツらしい。
しっかり混ざったら、牛乳をすこーーし入れてなじませる。なじんだらまたすこーーし入れて……ってやっていき、牛乳を入れきったらもう一度火にかけてとろみが出るまで温める。
混ぜた時に表面に線が残るくらいまでトロミがついたら火から下ろして塩胡椒を入れて完成。
うん。出来たー!失敗しなかったよ!良かったー!
……塩胡椒を入れる前に、ちょっと指にとって舐めてみた。……温かい牛乳な味だった。お母さんがよく作っていた、ルーを使ったシチューのような味を想像していたから、全然違くてびっくりした。これがホワイトソースなの?
この完成したホワイトソースにさっき炒めておいたじゃがいもと玉ねぎ、お肉を入れる。炒めた時に出てきた水分も一緒に入れて、ホワイトソースの固さを調整して……。
器に入れて上からチーズをかけて、オーブンへ!ちゃんとグラタンの味になるといいなー!
焼いている間に、グリちゃん用のお肉と野菜を用意した。グリフォンってチーズを食べて大丈夫なのか聞いていなかったのが悔やまれる……。ごめんよグリちゃん……。
時間にして二十分くらいかな?
オーブンの蓋を開けて様子を見てみた。
チーズがいい感じに所々焦げていて、縁の部分がぐつぐつと音を立てている。うん!見た目は完璧!
ミトンをつけて慎重に取り出す。お皿から上る湯気がすでに美味しい!
これは期待出来ますよー!
「ご飯出来たよー!」
……ヨ……ヨポヨポヨポヨポヨポヨポヨポヨポヨ!
私がキッチンから声をかけると、一目散に来たのはもちろんスライム君。うん。君は本当にブレないね!
いつもより低めの跳ね方でスピードを上げて入るようだった。必死さがちょっと怖い。
「熱いから気をつけてね。」
テーブルにお皿置きながら忠告したのだけれど、スライム君はお構いなしにお皿の上に乗った。
……そして飛び上がってテーブルから落ちた。
「だから言ったのにー。少し冷めるまで待った方が良いよ?」
満身創痍だぜ……と言わんばかりの動き方でテーブルによじ登るスライム君。大丈夫かな?スライム君の底の方、焦げてないかな?
その後は、もう良いかなー?と、手っぽく伸ばした部分でちょっとだけ触れて、さっと引っ込めるという動作を何回かしていた。
人形さん達はそのまま店番をしていてくれるっぽいので、私は先にいただく事にした。
「いただきまーす!ふーふー……あちちあふあふ……うんうん!美味しい!」
ちょっと塩胡椒が少なめな気がしたけれど、それは後から足せるから大丈夫だね。
さっき味見した時はあったかい牛乳にしか感じられなかったけれど、今は完璧にグラタンになっていた。ホワイトソースって……不思議だ。
じゃがいもはホクホクとしていて、しっかりとお腹にもたまるし、玉ねぎは甘くてチーズの塩気とちょうど良い。お肉はちょっと大きめに切っていたから、食べている感もしっかりあって満足!
私は人形さん達と交代するために、グリちゃんのご飯を持ってお店へと戻った。
グリちゃんにはチーズが大丈夫か確認したら作るね、と謝りながらご飯を渡し、人形さんにまだ熱いから気を付けてね、と言っておいた。
お店に一人になって、商品を確認する。
おむすびセットもお弁当も少し。ダンジョンに向かう冒険者さん達は、この時間には来ないからあれは私の夕飯行きかなー。
夜は夜でガッツリ目なお弁当を販売予定だ。
このダンジョンの周りにはまだ、冒険者ギルドの出張所と私のお店しかない。泊まる場所もないから、冒険者さん達はそれぞれテントで過ごしている。ご飯も食べる場所がないから、自分たちで作るか私のお店で買うかだ。
このダンジョン周りの安全がある程度確保されたら一般のお店も入ってくるだろう。それまでは冒険者さん達は大変だ。
私のお店が冒険者さん達にとって少しでも役に立ったら良いな。
……儲け的な意味でも!
そんな事を考えていると、お店にお客さんがやってきた。
こんな時間に冒険者さん?と思いながらもまずは挨拶。
「いらっしゃいませー!」
見ると、服装で冒険者さんじゃないと分かった。あの服装は冒険者ギルドの人だ。
アメリカンチェリーのような色の髪をポニーテールにした人間のお姉さん。お店をキョロキョロと見回している。
「こんにちは。お昼ご飯って売ってる?」
「はい!お弁当とおむすびでしたらありますよー!」
「良かったー!このギルドに派遣されるたびに仕事しながら隙を見ていちいち三食作るのが面倒で面倒で……。」
ここにもご飯難民がいらっしゃった……。ギルドの出張所は小さい家みたいになっていて、飲食店は入っていない。人も最低限しか置いていないみたいで、私が開店前に見に行った時は職員さん一人しかいなかった。私のお店が出来るまで、ご飯は自分で作るしかない状態だったのだろう。
お姉さんは嬉しそうにおむすびセットを買ってくれた。
「あの、夜ご飯は……。」
「夜は夜でお弁当販売する予定ですよ。」
「そう!私、絶対買うから!一個取っておいて!」
「わかりました!お名前は?」
「チェルよ。」
「はい!ではチェル様でお弁当を一つ取っておきますね。」
「ありがとーーー!」
チェリーならぬチェルさんは、嬉しそうにポニーテールを揺らしながら帰っていった。
よっぽど作る事にストレスを感じていたのかな……。私の作ったおむすび、まだ食べてもいないのに次の予約を入れてくれた。
夜のお弁当も頑張って作ろうっと!
ホワイトソースは、今回書いた通りの手順で電子レンジで作れます。
我が家はヘルシオ君で作っているですが、一回もダマは出来ていません。
ただ、電子レンジで追加加熱する時に気をつけて見ていないと、吹きこぼれます。
……レンジ庫内がホワイトソース塗れになっていた時のショックは忘れられません。
鍋で作る場合は混ぜながら加熱するからそんな事にはならないのでしょうが……。
なかなか開店初日が終わらないー!早く時間を進めたいけれど、でも書きたい事もあるしで進まないー!
という事で、もう少し開店初日にお付き合い下さい。