のんびりお店編 3
遅くなりました……orz
開店と同時に十人くらいのお客様が来てくれて、みんな食べ物を買って行ってくれた。
お弁当に関しては、値段の高さに驚かれたけれど、お弁当箱の返品でお金が返ってくるという説明に納得してもらえた。
「へぇー。なるほどな!お金が返ってくるって思ったら返しに行くしかないもんなー!そんで、そこでさらに商品を売ろうって感じかー!」
「ふっふっふー。そんな思惑もなくもないかもしれないですねー。」
「商売人だなぁ!」
とまぁ、そんな会話を繰り広げた。
開店と同時に食べ物が売れた後は、ポツポツお客さんが来てくれたけれど、食品以外は売れなかった。
「初日ならこんなものかな……。」
なにせ、ここはダンジョンの入り口周辺。一般の人は買いに来るのも大変な場所なのだ。冒険者さん達は、基本は必要なものをきちんと揃えているはずだから、そうそう食品以外が売れる事はないだろうと思っている。
女性の冒険者さんがいたら、積極的に洗い流さないシャンプーをお勧めしたいけれど!
今日は様子見をしている冒険者さんもチラホラいた。どんなものが並んでいるのか確認していたのかな?あの人たちもいずれは何か買ってくれるお客さんになってくれたらいいな……。
このダンジョン、まだ階層がどこまでなのかわからないみたいで、慎重に調べている最中なのだそうだ。
だから、来ている冒険者さん達も慎重な人が多いのかもしれない。
「落ち着いたな。」
「そうですねー。クレス、手伝ってくれてありがとうございました。」
「ああ。なかなか楽しかった。」
「ふふふ。あ、クレスもこの後ダンジョンに行くんですか?」
「ああ、ダンジョンの深さを出来る限りで調べる依頼を受けていてな。もうそろそろ合流するパーティーが来る予定なんだ。」
「おぉ……パーティーで深層調査……さすがです。」
「……深層と言っても、まだ十二階層までしか行けていないらしい。十三階層からの調査だからそこまで深層じゃないぞ。」
「でも、誰もまだ見ていない場所なんですよね?なら階層の数なんて関係ないですよ。……気を付けてくださいね。」
「……ああ。」
無事に戻ってきて欲しい……。心からそう思う。怪我なく事故なく病気なく……よく神社でお参りするときに心で唱えていたなぁ……。この世界には神社は無いから、カルセドニー渓谷にいるお姉さんに祈っておこう。
クレスさんはちょっと微笑んで、私の頭をポンポンしてくれる。
「帰りを待っていてくれる人がいるのは良いものだ……。」
「え?」
「そう、知り合いの冒険者が言っていたんだ。それがよく分かった。……必ず無事に戻るから、帰ったらご飯を作ってくれ。チカの美味しいご飯がきっと恋しくなるだろうから。」
「……はいっ!」
そんな、そんなん言われたらもう……!力の限りご飯作りまくるしかないじゃないですか!!
うわぁー!恋しいとか言われちゃった!う、嬉し恥ずかしい!
嬉しいんだけれど、恥ずかしすぎて、私は返事するのでいっぱいいっぱいだった。くっ!甘い空気に対する免疫を早く作らねば!どうやって作るのかわからないけども!
クレスさんは数日ダンジョンに篭るそうなので、私は洗い流さないシャンプーをクレスさんに使ってもらう事にした。大丈夫!製品版はピリッともしないから!ミントとかメントールとか入っていないけれど、何故かスーーッとするだけだから!不思議!
「ダンジョン内でも人形さんって効果ありますよね?三人の人形さんのうち、一人はクレスと契約しているはずだから、連れて行って下さいね。何でか私のところにいつも居ますけど……あ、いらっしゃいませー。」
他に何か渡すものは無いかなーと考えていると、お店に数人が入店してきた。
「ギルドの人に聞きましたら、こちらにいると伺いましたの。待ち合わせ場所は勝手に変えないで頂きたいですわ、アイドクレスさん。」
先頭には、こちらを見据える女性。うん女性だと思う。お胸の迫力が凄いからすぐに分かったよ!
腕を胸の真下で組んでいて、その豊満すぎるお胸がめっちゃ強調されています。うん。顔より何よりも先にそっちに目が行くんですけど!?暴力的なお胸でございますね!
……なんだろう、視線を感じる。
なんとかお胸から視線をあげて、女性のお顔を見ると、女性も私のお胸の辺りに視線を向けていたようだ。
……あれか、深淵(お胸)を覗くとき、深淵(お胸)もまた覗いているのだ、的な?……なんか違う気もする。
私のお胸辺りから視線を上げた女性は、私と目があったのを確認して、ふんっと鼻で笑ってきた。
負けた?これは私が負けたって事なのか!?むしろいつから勝負をしていた!?
どうせ……どうせ私のお胸は慎ましやかなものですよーーー!!むきーー!!
負け?は潔く認めるとして……今度はちゃんとお顔を拝見した。
真っ白いピンと立った犬のような耳。耳が頭の上の方にあるって事は、獣人さんなのだろうけれど……お顔は人だ。
今まで見てきた獣人さんは、みんなお顔がもう動物系のワイルド系だったから、初めて見るタイプの獣人さんだった。
人と変わらないお顔はとても整っていて、ちょっとつり目がちなオメメが印象的だ。
腰の後ろから、フッサフサの白い尻尾が覗いている。ちょっと惹かれる……。
そんな初めて見る獣人の女性の後ろには、いつもの見慣れたタイプの獣人さんが二人。垂れたうさ耳の獣人さんと、まん丸オメメのフクロウの獣人さんだ。二人のお胸は……同志!
「すまない。時間にはギルドに向かうつもりだったんだが、遅くなってしまったか。」
「次から気を付けてくだされば構いませんわ。準備はよろしくて?」
私が尻尾に惹かれている間にクレスさんが謝って、私に勝ったって顔をしていた女性が上から目線な感じで許していた。
「ああ。おかげで準備は完了した。」
「準備に時間がかかってしまうのは仕方のない事ですわ。今回は長丁場になりそうですものね。では行きましょうか。あなたの動き、期待していますわ。」
あれだ!きっと性格はツンツンツンツンツンデレ系のお姉さんだな!口調や言い方はきつめだけれども、なんだかんだ最後には許しちゃう感じ!そして最後に相手を上げる事も忘れない!ふぅー!カッコイイ!
ツンツン(略)デレ系お姉さんとの会話を終えたクレスさんは、こちらを振り返って目尻を下げた。
その目尻の破壊力よ!一瞬で心臓がギュッと締め付けられる。私は未だにこの破壊力にやられるのよね!あーイケメン!
「じゃぁ、行ってくる。」
「はい。行ってらっしゃい。」
……なんだか今のやりとり、よろしくありません事!?とってもよろしくありません事!?
って、ツンデレお姉さんの口調が写ったわ!
しばらく会えない寂しさと、ドキッとときめく会話で、テンションがおかしい感じになってしまった私は、なんとか見えなくなるまでクレスさんを見送った。
……見えなくなってから思った。
さっきのパーティー、女性しかいなかったよね?
……ま、まぁクレスさんの事だから心配はしていないですよ!想い通じ合ったばかりですし!?さっきの会話もいい感じですの事よでしたし!?
心配はしていないけども!なんで女性だらけのパーティーにクレスさん(男)一人なんだーー!?
あ、人形さんはいつのまにか一人居なくなってました。ちゃんとついて行ってくれてたんだね。いつのまにか消えるってちょっとホラーだけれど、そこはいつもの事だからね。うん。