のんびりお店編 2
ブックマーク、評価を付けてくださったたくさんの方々、ありがとうございます!
遅くなりましたが、『のんびりお店編』再開しようと思います。
それに伴って、完結済みから連載中へと戻し、タイトルに《本編完結済》をつける事にしました。
少し間が空いてしまいましたが、今までと同じように面白おかしく書けるように頑張ります。
よろしくお願いします。
今日からお店を開店させる。
空は曇天。ここは晴天で行こうよ……とも思うけれど……。
重ーい雲がゆっくりと空を進む様子を見ていると、のんびりやれよーと言われているような気がしなくもない。うん。のんびりやっていこう。
お店の外をホウキで掃いていると、胸がキュッと締め付けられる低めの良い声が聞こえてきた。
「おはよう、チカ。」
「おはようございます!クレス、グリちゃんも!」
「クエッ!」
挨拶をしてくれたクレスさんはいつも通り、冒険者の格好で、グリちゃんも連れていた。グリちゃんでここまで走って来たのかな?だとしたら、朝早くから動いていたのかもしれない。
……朝早くから街を出て、私に会いに来てくれたのかな?なんて……ちょっと自意識過剰かな?動ける格好だし、この後ダンジョンに潜るのだろうか?
私のお店の外観をゆっくりと確認して、私の方を見た。
目尻を少し下げて、微笑むクレスさん。今日は曇天だから濃紺の髪が、顔の影が、いつもよりも濃く見えて、すごく印象的な笑みに見える。なんだこのイケメン!彫りの深さが際立って渋イケメンになっている!あぁ、私の心のシャッターがめっちゃ仕事しているぅーー!
「綺麗なお店だな。」
「ありがとうございます。」
私の心の中が大暴れしている事に気付かれないように気を付けながら、お店の外観への感想にお礼を言う。
私は掃き掃除を終えて、クレスさんをお店の中へと案内した。グリちゃんには外でお留守番していてもらおう。戻る時、何か食べる物を持って行こうっと。
「グリちゃん、ちょっと待っててね!」
「クエッ!」
今日から開店ということもあって、棚には商品が綺麗に並んでいる。一つ一つの商品の角度とか、めっちゃ気を使ったからね!この斜めに見せて並ぶ姿は、自己満足だけれど綺麗に見えていると思う。
入り口すぐには、魔道具コンロやフライパン、鍋などの日用品。少し奥に女性向けのお泊まりセット。小さなビンに入った化粧水や、頭皮をスッキリさせる、洗い流さないシャンプー、髪紐、折りたたみ式のクシなんかが並んでいる。
この洗い流さないシャンプー。めっちゃ頑張ったんだ!……スライム君が!
ダンジョンは寝泊まりも必要になる。でも、頭を洗う事も難しいダンジョン内。洗い流すとなると水が必要になるし、流した水で魔物に感づかれる可能性も……あるのかな?
そう思った私は、あちらの世界で介護用品として出回っていた、洗い流さないシャンプーが役に立つんじゃないかなって思い付いたんだよね。
でも一から作るなんて出来るだろうか、と悩んだ私は、ポンキチさんに相談する事に。
ポンキチさんは頭を抱えてしまって、その左右でナノキチ君とピコキチ君が右往左往する事になってしまった。あの時は申し訳なかった。うん。
そんなこんなで諦めかけていたんだけれど、その話を私の腰にしがみ付きながら聞いていたスライム君がある日突然動き出した。
それは、私が唐揚げを作っている時のこと。突然飛び上がったスライム君。
唐揚げを作るときは大体高テンションなので気にしていなかったんだけれど、スライム君は勢いよく私の頭に乗っかって来た。
そして、わたしの頭の上でジャンプすると……。
ブシュッ!!
っとなにかを吐きかけてきたのだ。
若干滲みたんだよね。私は消化液を吐きかけられたんだと思って、めっちゃ慌てた。なんだろうね。最近頭髪を気にすることが増えた気がするんだよね……。
私は慌てて火を止めて、シャワーで頭を洗いに行ったんだ。洗う前に小さな鏡で確認したら……。
髪の毛が……ツヤツヤになっていた。良かった……頭皮が見えてツルツルとかじゃなくて、本当に良かったと涙した。
うん。スライム君は話を聞いてからずっと洗い流さないシャンプーを考えてくれていたようで、唐揚げを作っていた日、とうとう完成したみたいだった。
だからっていきなり私の頭で実験しなくても良いと思うんだけどね……。
二回目からは滲みたりもしなかったから、絶対試したと思うんだよね。でも、問いただしても知らんぷりするのだ。このスライムは……。
とまぁ、回想が長くなってしまったけれど、そんなこんなで出来ちゃったんだよねー。
ポンキチさんに話を通して、商品登録させてもらって、こうして棚に並んでいるのだー!
「というわけなんです!凄いですよね!」
「そうだな。……でも何より……。」
黙って話を聞いてくれたクレスさんは、とてもホッとした顔で私の頭を撫でてくれた。
「無事で良かったな……。」
「それは本当に、そう思います……。」
二人でしみじみと吐露した。その空気はなんだろう……安堵感かな。
最近思いが通じた人と二人きり(スライム君と人形さんはしれっと近くにいるけどね……)なのに、どうもこう……そういう雰囲気になりきらないんだよねー。不思議だ。
でも、こういうのんびりした雰囲気でいられる今もとても幸せだよ!
お店の奥にさらに行くと、食品関係が並んでいる。
そこには私が作ったお弁当とおむすびが並んでいて、その横に街でも買える硬いパンや、ちょっと期限が短いサラダも挟んであるサンドウィッチ、干し肉なんかが売られている。
お弁当を見たクレスさんがちょっとびっくりしていた。
「この弁当は随分と高いんだな。」
「はい。」
そう。おむすびは三個セットで銅貨五十枚……日本円で換算すると大体五百円なのに対して、お弁当は一つで銀貨二枚。二千円だ。
ただし……!
「このお弁当箱を返してくれたら、銀貨一枚が返ってくるんですよ。」
「……ほぅ。」
つまり、お弁当箱の返却目的の金額なのだー!
このお弁当箱、特注品でちょっとお高いので、返して欲しいなって思ってこんなシステムにしてみた。
返ってこなくても、銀貨一枚でまた特注お弁当箱を作ってもらえる事になっている。
……入れ物と蓋が綺麗に重なる箱って、結構作るの大変だったらしい。小物細工師さんに感謝です!
「この箱、確かに変わっているな。」
「そうなんです。なので洗って再利用出来るように、この値段になりました。あ、でももう一つ意味が込めてあって……。」
そう。このお弁当箱返還システムにはもう一つ意味を込めた。
「みんなちゃんと帰ってきてほしいなって。」
このお弁当を買った人達が、ちゃんと返しに帰ってきてくれますように。無事に戻ってきてくれますようにっていう、願い。
「……そうか。」
「はい。だから、クレスにもお弁当渡しておきますね。」
「ああ。ありがとう。」
私はお会計場所の奥に取っておいた特別製のお弁当をクレスに渡した。お弁当箱は大きめのハンカチで包んで、上の部分を蝶々結びにしてある。
ハンカチの隅には刺繍が刺してある。アールさんの故郷の村で教えてもらった刺繍だ。あれからも練習して、少しは見られるようになったと思うんだよね。刺繍の柄はポンポンみたいな薄紫の花。無事を願う柄なのだそうだ。
……恥ずかしいから、刺繍のことは言わないけどね!!
「今日はこの後、ダンジョンに潜るんですか?」
「ああ。……だが。」
「だが?」
「開店初日は初めての事だらけで大変だろう?少しお店を手伝わせてくれ。」
「ありがとうございます。助かります!」
朝の最後の鐘の音がお隣さんの冒険者ギルドから聞こえてきた。開店の時間だ。
私はスキル『コンビニ経営』のBL設定を開いて、お客さんが入れるようにした。その途端、複数人が入り口に押しかけてきた。数日前から街で宣伝していたおかげかな?
中でも、先頭の男性が凄い勢いで入店してくる。
「うおおおぉぉぉぉ!あのおむすびっ娘の店!俺が一番乗りだ!そして、運命的な出会ぃ……ヒイイイイィィィィィ!!!」
何やら気合の入った感じでお店に入ってきて、クレスさんを見て悲鳴をあげていた。
最初のお客さんが悲鳴をあげるお店って……大丈夫かな?
ちょこっと宣伝……!
*新しい連載を始めました*
『魔族の皆さんは生活習慣病のようです』です。
人族で薬師の主人公、ヴィリアがポンコツ師匠をど突きながら魔族の住む国でお仕事をするファンタジーな世界のお話です。よろしかったら読んでみて下さいね。