80 得意料理は肉じゃがです!って言っても大丈夫なくらいは練習したんですよ!
無事にエンジュ共和国に帰ってきてから、一月くらいの日数が経った。
最近は、朝おにぎり弁当を大量に作って、冒険者ギルド内で販売させてもらい、お昼前には子供たちが通う職業学校へ行って算数を教えて、学校がお休みの日は街の外で薬草採取をしたり、お手伝いの依頼を受けたりしている。
なかなか充実した毎日だ。
もう少しお金が貯まったら、ダンジョン近くに土地を買って、コンビニを建てられると思う。その計画はクレスさんにも相談しながら進めているところだ。
今日、ずっと帝国にいたマディラさんがエンジュ共和国に帰ってきた。職業学校でお仕事を終えた私の元へ、お手紙を持って来てくれた。
マディラさんは帝国で色々とユランさんのお手伝いをしていて、やっと帰ってこられたらしい。顔が若干げっそりしているように見えた。
「アイちゃんがさー、ちっとも手伝いに来てくれないからさー、僕すっごいこき使われて大変だったんだよー?しかもさー文句言うとジュノが僕の服に火を……。」
「あ、あはは……。」
私はマディラさんの延々と続く愚痴を流して、お手紙を読んでみた。
まずはユランさんからのお手紙。
ユランさんは順調に国をまとめ上げているそうだ。ジュノさんとも仲睦まじく過ごしているらしい。落ち着いたらぜひ遊びに来て欲しい、と書いてあった。
その時は思う存分観光したいなー。あ、変装しないとダメかな?一般の人には顔バレしてないと思うけれど、どこで知っている人に会うかわからないものね。
それからコランさん。
謝罪文がとんでもない量来ていた。……うん。読むのが億劫になるような束だ……。マディラさんはエンジュ共和国に帰るまでのほぼ毎日、手紙を渡されていたらしい……。
毎日謝罪文を書くって……。コランさん、めっちゃ気にしていたんだろうなぁ。
お詫びとして少なくないお金を頂いちゃっているし、私はもう気にしていないんだけどねぇ……。
この謝罪文の量に対して、私はどのくらいのお手紙を返せば良いのかな?一枚で平気かな……?
コランさんと同じように皇帝に使われていたマータさんビータさん姉妹とは先日会って、直接謝罪された。
マディラさんの妨害や、帝国に連れて行かれる時も一緒にいたらしい。……おトイレに連れて行ってくれた声の人かぁ。聞いたことあるなって思ったんだよね。
お城に閉じ込められていた獣人の双子の子供達が、二人のご兄弟だったそうな。人質にされて、言う事を聞くしかなかったんだね……。
そんな下の双子の兄弟は、マータさんビータさんと一緒にエンジュ共和国に来て、今は職業学校に通っている。私の生徒さんだ。
双子君達は勉強なんてさせて貰えていなかったから、とても楽しそうにしている。セイン君達学校のメンバーも優しく教えてあげたり、一緒に数字カルタで遊んでいたりするので、私は見守っている状態だ。今まで大変だった分、めいっぱい楽しんで欲しい。
アールさんは一回エンジュ共和国に戻ってきていたけれど、またグランディディ王国に里帰りしてしまった。
新しい食材の開拓をするアルーー!とか言いながら……。私がレシピの書き出しをお願いしていた時、知らない調味料や食材があったそうで、探究心に火がついてしまったらしい。
食材が欲しくなったらいつでも連絡出来るから、問題はない。あのアルアルが聞けないのがちょっと残念だけれど。
弟君達を学校に預けているマータさんビータさんは、そんなアールさんの護衛をしてくれている。
帝国に縛られる事なく、自由に行動出来るのが楽しいそうで、あちらこちらに行くアールさんの護衛はとっても都合が良いそうだ。
そうそう、最後のお手紙はマリー師匠から。まさか師匠からお手紙を貰えるとは思わなくて、すごくびっくりしちゃった。
私を召喚したギベオン王国は、第一王子様が国王に即位されたらしい。
なんでも、お父さんである前国王様は散財が酷いのと、裏で色々と悪い事もしていたそうな……。
特に、ギベオン王国の貴族の娘を帝国に秘密裏に嫁がせていた、という事件が浮き彫りになって、かなりの問題になったらしい。そんな色々がわかってとうとう捕まった、という感じ。
ギラギラコテコテの服を着ていたのしか覚えていないけれど、なんとなく……やっぱり悪いやつだったかーって思っちゃうよね。
第二王子と王妃様もいろんな悪事に加担していたとかで、今は仲良く牢屋行きだそうな……。
家族がみんな牢屋行きとか……国王様はちょっと寂しいかもしれないね……。ギベオン王国の人たちはこれで国が良くなる、と喜んでいるそうだけれど。
そんなわけで、ギベオン王国が私に迷惑をかける要素はほぼ無くなったので安心してくださいね、という内容だった。
あと、また新しい魔道具が出来たらお送りしますって書いてあった。便利な物を頂けるのは嬉しいけれど、次からはちゃんと代金を払おうと思う。タダで貰い続けるなんて……ハートの小さい私には無理!
私はみんなにお返事を書いた。あと、ルードヴィッヒさん……本名レオナルドさん宛にも一通お手紙を書いた。
結局お話は出来なかったからね。
親切にしてくれたのに、名前を疑ってしまってごめんなさい。私は元気にやっています。という感じの内容。
うん。詳しく書こうと思ったんだよ?でもね、疑っていた事で強く生きていけました!とか……失礼じゃない?謝罪をするはずが、相手の心抉りに行ってない?そう思ったら詳しく書けなかったよ。
次の日、学校が終わった後の時間に冒険者ギルドにて、マディラさんと待ち合わせをした。手紙のお返事を託すためだ。マディラさんが移動ついでに持って行ってくれるとの事で、お願いすることにした。
いつも通りの軽い足取りで現れたマディラさん。私は書いた手紙を取り出して、テーブルに置いた。
「そういえば、マディラさんは冒険者を続けるんですか?帝国の兵士さんになるんですか?」
「ん?言ってなかったっけ?僕はもう冒険者としてやっていくって決めたよー。ユラン様の下で働くのも悪くはないけどさー、アイリーと一緒に空の旅をするのが楽しすぎてねー。それに、行きたい場所が増えたしー!」
ふと気になってマディラさんに聞いたら、ニッコニコの笑顔で返事が返ってきた。マディラさんは兵士には戻らないらしい。アイリーちゃんに乗せてもらった事は無いけれど、空の旅はきっと楽しいのだろうなぁ。
増えた行きたい場所とは、どこの事なんだろう?
「楽しそうですね。行きたい場所って絶景的な感じですか?」
「楽しいよー!絶景……絶景ねー。うん!ある意味絶景かな!」
「そうなんですね!いつか教えて下さいね!」
「そうだねー。楽しみにしててねー!」
教えてくれるのか聞いてみたら、かなり前向きなお返事をもらった。
どんな絶景なのかな?楽しみだ。
「マディラ、帰って来てたのか。」
「あー!アイちゃん!この薄情ものーー!僕ばっかり働かせてー!戻ってくるのかと思ってたら、ぜんっぜんだし、何回も手伝ってーって手紙送ったのに返事くれないしさー!」
いつの間にかギルドに入って来ていたクレスさんが、私とマディラさんが座っているテーブルの空いていたイスに座った。
マディラさんはさっきまでのニッコニコからプンスカ状態に変わってしまった。クレスさんにヘルプを出していたんだね……。初めて知ったよ。クレスさん、全然そんな事言っていなかったもの。
「俺はチカがこれ以上巻き込まれないように警戒していたからな。仕方なかったんだ。」
「うそだー!絶対チカちゃんから離れたくなかっただけでしょー!?」
二人の言い合いが私を巻き込んでいますよ!恥ずかしいから大声はやめて!!
クレスさんは否定はしないし……離れたくないっていうのが本当だとしたら……。恥ずかしさと嬉しさが胸に突き刺さるわー。
そう。クレスさんとは、エンジュ共和国に帰って来てから今日まで、ほぼ毎日どこかしらで会うようになっています。
毎日会えるのは嬉しいんだよ?嬉しいんだけれど、冒険者のお仕事とか大丈夫なのかな?って若干心配している。
「まぁ、二人の雰囲気から察せられるけどさー。それでも僕のこともちょっとは思い出して欲しかったよねー……。このー!爆発しろー!」
リア充爆発しろ!みたいなこと言われた!
っていうか、わかっちゃったの!?私たちの雰囲気そんなに違う!?
「マディラ……お前……。」
「ふふーんだ!そんで?二人はどこまでいったのさー?キスはしたのー?ふんふん。その先はー?」
「ちょっ!マディラさんなんて事を聞くんですか……!」
「僕が大変だった時に楽しく二人でイチャついちゃってさー!気にもなるよねー!」
マディラさん、なかなかお怒りだったようだ……。
まぁ自分が一生懸命働いている時に、仕方ないとはいえ離れていた同僚が楽しくしていたらそんな気持ちにもなるかな……。でも大声はやめて!ほんとに恥ずか死ぬからやめて!
……ちなみに、一緒にご飯に行ったり、ピクニックに行ったりしかしていませんからね!!不吉そうなお人形さん達とスライム君と一緒にね!!
クレスさんが大剣に手を伸ばしたところで、マディラさんは私のお手紙をバッとつかんで颯爽と逃げて行った。
「爆発しろー!僕だって絶景楽しみたかったんだぞー!時間を返せー!」
などと言いながら……。
「はぁ……。」
「嵐のように行っちゃいましたね。」
「そうだな……。」
爆発しろとお祝い?され、残ったのは私とクレスさん。
その後、ギルドにいた人たちの目がめっちゃ生温かかったので、そそくさと逃げるように飛び出しましたよ!
街の中を歩きながら、今までよりも近くなった隣との距離にドキドキしてしまう。
今日はもう予定はないから、出来たら夕飯はクレスさんと一緒に食べたいな……。
「クレス、この後の予定は何かありますか?」
「いや。さっき終わらせて戻ったところだから何もない。」
「そうですか!良かったら、一緒にご飯を食べませんか?」
「ああ。」
こちらを見て、嬉しそうに下がる目尻。
その顔反則ですって!胸が苦しくなっちゃうから!
「……何か食べたい物ありますか?」
「そうだな……。初めてピクニックをした時に食べた、肉じゃがだったか?あれが食べたいな。」
「!!わかりました。頑張って作りますね!」
どこかに食べに行こうかなって思って聞いたのだけれど、まさかの手作りご飯をご希望でした。
……そんなの、張り切っちゃいますよ!
お家に残っている食材を思い出して、足りないものを買いながら私のアパートへ一緒に向かう。
さりげなく買った荷物を持ってくれて、人がたくさんいる場所はほんの少し前を歩いてくれて……。
夕陽に照らされている大きな壁のような背中に、安心と愛おしさを感じる。
私……幸せだなぁ。
……あ、もちろん夕飯はスライム君と人形さん達と一緒ですよ!
二人きりで一つの部屋とか無理ですから!!ハートがもたないですから!!
……その辺はもっとゆっくりと……ね。
この地に根を張った私は、少しは成長出来ただろうか。花を咲かせるにはまだまだかもしれないけれど、目標のお店を持つまではきっとあと少し……。そうして、少しずつ成長して、私の居場所が大きくなっていくと良いな。
色々な出来事があって、その都度スキルにはお世話になったけれど、お店の経営として本格的に使うことになるのはこれからだろう。期待していますよ!私のスキル『コンビニ経営』さん。
……え?なに?人形さん。
カルセドニー渓谷のお姉さんが呼んでいるって?
……はいっ!直ちに向かわせていただきます!迎えには来なくて大丈夫です!騒ぎになっちゃうから!遠慮します!ほんとに!勘弁してください!はい!
「ク、クレスーーーーー!!一緒にカルセドニー渓谷に来てくださいーーーーー!!」
千華の楽しいドタバタ劇は、この先も続いていく……。
という感じで、これで完結とさせていただきたく思います。
閑話含め100話という長編でした。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。たくさんのブックマーク、評価が、私のやる気スイッチをずっとオンにしてくれていました。おかげでここまで書けたのだと思います。
この後、いくつか閑話を入れて行こうとは思っています。
マディラ視点とか、イケメン騎士視点とか、飛べないグリフォンの幼少期編とか……あと、元聖女な魔女のプチ冒険とか……。
その後、蛇足編として、「のんびり編」をたまに書いていこうと思っています。
ただ、物語としてはここで終わりなので、完結とさせていただきます。
ありがとうございました!
新しく
「魔族の皆さんは生活習慣病のようです」
という作品を書きはじめました。よろしければ、そちらも御覧ください。
主人公は、千華よりもちょっとヤンキーな感じでやる気のない性格になっております。




