8 絶叫マシンって怖いのに、何故か笑っちゃうんですよね!
誤字報告ありがとうございます!とっても助かります!
「いやああぁぁぁぁっはあああぁぁぁぁーーーーーーーー!!」
「クエエエエエェェェェェーーーーーー!!」
「それは絶叫なのか?楽しんでいるのか?」
「あはははははは、ああああぁぁぁーーー!」
「クエクエクエクエエエエ!」
「どっちなんだ……?」
ドシドシ走る音に合わせて上下に揺れる体。私の叫びに何故か一緒に叫ぶグリフォンさん。
只今、高速で走るグリフォンに絶賛揺られております。飛べないグリフォンはめっちゃ走るのが速かったよ!
馬車はあんなに酔うのが怖かったのに、このスリリングさは、酔う事も許さないって感じだね!
時速六十キロ近くは出ている気がする。
スリリングだけれど、落ちることは無いと思う。後ろからイケメン冒険者さんにしっかり支えてもらっているからね……。落ちることは無いと思うけど、密着具合が恥ずかしい!顔に熱が集まる集まる!その恥ずかしさから、余計に声が出ちゃうんだよ!あああああぁぁぁ!
「街が近づいてきたら、速度を落とすから、もう少し我慢してくれ。」
「はいいぃぃぃーー!」
馬車と会わないよう、道無き道を爆走する背中に揺られて、冒険者登録をした街に戻った。
アイドクレスという名前のイケメン冒険者さんは、依頼の報告をする必要があるそうで、一度街に戻る、という事になった。私は街の外、少し離れた所でグリフォンのグリちゃんとお留守番だ。乗合馬車に乗ったのが見られていたら、大変だからね。
あ、グリちゃんというのは私が勝手に名付けた。名前は無いって言うからね。可愛いのにもったいないじゃない?可愛いものには可愛い名前を付けなければ!
そんで、依頼の報告を終えたら、私を次の街に連れて行ってくれると言う。とてもありがたいけれど……。
「なんでそんなに親切にしてくれるのかね?」
「クエ?」
モフモフしたグリちゃんを撫でながら考える。
ほんの数回会っただけの人に、ここまで親切にしてくれるのは何故なんだろう?とんでもなく良い人なのかな?冒険者は仮の姿で、実は聖職者とか?
……考えてもわからないか!無いとは思うけれど、いざとなったら残っている二つの魔道具に頼らせてもらおう。期待してますよ師匠!
第一、こんなに可愛い良い子が懐いているんだから、そんな悪い人じゃ無いよね!グリちゃんを撫でる手に力が入る。気合い的なものが。
あーー。モフモフ可愛いぃ……。
時間を忘れて撫で回していたら、アイドクレスさんが戻ってきた。手に何か提げている。あれ?なんだか呆れた顔してる?
「アイドクレスさん、お帰りなさいー。」
「クゥェェェェ……。」
「クレスでいい。……なんでうちのグリフォンはこんなに溶けてるんだ?」
「クレスさん、グリちゃんです!」
撫でる事に集中しすぎて、グリちゃんは軟体動物になりました。地面に伏せってだらけた顔をしております。ちょっとやり過ぎたかな?
「可愛さのあまり、やり過ぎました!」
「クエェェェェ……。」
「……出発は少し休憩してからだな。」
街から見えない木の生い茂る場所までなんとかグリちゃんを移動させ、クレスさんが買ってきてくれたサンドイッチを食べる。わざわざコップも買って来てくれたみたい。魔法で水を出してくれた。お礼を言って一口飲む。
「ありがとうございます。……クレスさんは魔法使いなんですか?」
「あぁ、いや。魔法も少しは使えるが、基本はこっちなんだ。」
クレスさんはそう言って、横に置いた大きな剣を見た。大剣って言うのかな?長さもさる事ながら、剣の厚みがすごい。とっても重そうだけれど、がっしりした体型にピッタリだね。
「剣士なんですね。凄いなー。」
「腕はまだまだだ。……これを見せておこう。」
そう言って、冒険者カードを見せてくれた。
冒険者カードは、ギルドにある丸い石に手を当てると発行される、嘘をつけないカード。普段はランクと職業だけが出る。キーになる言葉を言うと、名前と年齢、レベルも表示出来る。信頼の証として見せることがある、とギルドのお姉さんが言っていた。
クレスさんは冒険者カードを表示して私に渡してくれた。
アイドクレス 27歳 【冒険者 B】
レベル46
レベルたっか!流石冒険者さんだなー。そして、今度は名前で嘘をつかれなかった。些細なことだけれど、ちょっと安心した。冒険者 Bって、Bランクって事だよね?S、A、B、C、D、E、F、Gまであるランクの中でBって……。かなり強い人なんだ!これで腕はまだまだなの!?
「お返ししますね。」
「ああ。これを見せたのは、これから話す事に少し関わるからなんだ。」
「はい。」
「少し会っただけの人間に、なんでここまでするのか、と疑心を抱いたかもしれない。」
ドキリ。さっきそれを考えてました。
「昨日の君の顔色を思い出したら、自然と助けようと動いていた。だが、その言葉だけでは疑いは晴れないだろう。もう一つ理由がある。君にお願いしたい事があって、助ける事にしたんだ。」
昨日の私の顔色……化粧で、生者かどうかも怪しくなっていたやつですね。多大なインパクトを与えていたのでしょう。ごめんねクレスさん……それ化粧だったのよ……。言えないけど。そして、お願いってなんだろうか。
「今、この国は少し、きな臭いんだ。」
「きな臭い……ですか。」
聖女召喚したりとかですかね。
「ああ。俺のような冒険者は基本、どこに行くのも自由。ギルドは独立した組織だからな。だが最近、高ランク帯の冒険者を国から出さないようにしている節がある。国から指名依頼がいくつも入って、移動出来ないようにされている感じを受けるんだ。」
「クレスさんも?」
クレスさんは頷いて、続ける。Bランクだものね。高ランク帯に入っちゃうよね。
「かなり昔にもあったんだ。冒険者を拘束、そして緊急指名依頼として、他国に攻めさせた事が。」
え、それって……。
「戦争……。」
「そのきっかけにされたんだ。国の依頼は達成時の金額も大きいし、断ると信用が落ちる。その冒険者は仕方なく依頼を遂行したそうだ。最初は戦争のきっかけになるとは思わずに、な。俺はそんなのに付き合うつもりはない。ランクが落ちようと、さっさとこの国から出たいと思っている。」
さっさとこの国から出るのは大賛成です!私もさっさと出たい!
「さっき報告したので殆どの依頼が片付いたが、またすぐに指名依頼が来るだろう。」
見つめられる。その整った顔で迫られると、緊張しますって!
「いくらランクが落ちても良いと言っても、出来る事なら落としたくない。そこで、君の旅の護衛を、指名依頼で出して欲しい。今のところ国からの依頼も緊急では無いから、他の指名依頼のためならば断る事が出来る。この形ならば、あまりランクにも響かないはずだ。」
「わかりました!出します!」
それは、私に何も断る理由がない。即答に決まってるじゃん!クレスさんはさっさと国を出たい。私も国を出たい。私は護衛をしてくれる人をゲット。クレスさんは指名依頼なので、国の方をお断りしてもランクに響かない。やったね!良い事づくめだね!
お互いに利がある話なので、すぐに決まった。グリちゃんも元気になったので、南に向かって出発しましょう!
それにしても、この国やっぱりやばい国だったね。戦争起こそうとしているとか……。
美麗さん、大丈夫かな?利用されちゃうのかな……。師匠やイケメン騎士さんが何とかしてくれるだろうか。
口論の末、頬をぶっ叩かれるくらいしか接点のない同郷の子が少しだけ心配になった。
まぁ、グリちゃんに乗ってからはそんな事を考える余裕もなくなったけどね!
「あああああぁぁぁーーーーーー!!」
「クエエエエェェェーーーーーー!!」
「なんとか、慣れてくれ……。」