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新星間戦記CIVILIZATION  作者: RYUJIN
プロローグ
8/20

つかの間の平穏

 停戦協定締結から4年-------。




 リソラ前線基地での単騎によるSA(スレイブ・アーマー)撃破の後、ジェスは新造戦艦の試験運用に携わりながらも前線で様々な戦果を挙げていた。

 激しい戦いの日々で名声を挙げながら停戦を迎えたのだ。


 停戦後は戦場から離れながらも、結局正規運用されなかった新造戦艦の運用実験をメインで行っていた。

 あくまで停戦状態である両国家の間には今もなお緊張は続いているからだ。


 しかし、人々は現代を生きる大多数の人間が初めて経験するであろう、戦いのない日々を謳歌していた。


 ジェスはラビッシュにある造船ドックに停泊した新造艦の船橋(ブリッジ)で今日の成果を精査していた。


 この新造戦艦は大崩壊の時代から人類の悲願であり、悪夢の象徴であるエーテルを利用した機関を運用する。

 空間上にあるエーテルを吸収し電力に変換する暗黒物質吸収発電炉(エーテル・リアクター)による大電力を利用した半永久機関である。

 しかしあまりに大電力を発生するため、主機関であるグラビディウム機関への電力安定供給に用いるレギュレーターの調整が難航していた。


 しかし開発からおよそ12年と潤沢なK.Cグループの資産を用いて運用されたこの計画もいよいよ仕上げ段階へと迫っていた。

 あとは有り余る電力の供給安定化とその電力を惜しげなく用いて大出力かつ連射可能になった対艦結晶体レーザーの冷却問題である。


 この問題は一人の天才少女の名案によって解決し、後にこの結晶体レーザーは強力な戦略級兵器となるのだが、それはまた後の話である。


「いよいよか・・・」


 船橋(ブリッジ)のキャプテンズ・シートに腰かけながらジェスが呟いた言葉には二つの意味があった。

 それは新造戦艦の完成ともう一つ・・・。


 リソラ強襲事件から6年近く経ち、とうとう当初の予定であったセレナの新造戦艦搭乗が実現するのだ。


 これまでも年に数度程度は会う機会があったが、これからは共に同じ道を歩むことになる。


 幼馴染と同じ道を歩むことに少なからず喜びを隠せないジェスであった。


 セレナは荷物を纏めて自室を引き払ったあとに本艦へ搭乗して操舵士(ナビゲーター)として活躍する。


 話によるとこの6年で完全に戦闘義手と義眼を使いこなせるようになったらしい。


 そして、軍用大型艦船を宇宙全域で操船するために特1級航宙船舶のライセンスも無事取得したそうだ。


「そろそろセレナが到着する頃か・・・受け入れの準備をしないとな」


 何せ全長3.6キロメートルの大型艦である。ドックの乗船口から船橋(ブリッジ)に来るだけでも一苦労だ。

 ジェスはそう言いながら席を立った。






 ラビッシュドッグ連絡橋ーーーーー。




 その連絡橋を1台のオープンカーが疾走していた。

 その車を運転していたのは青髪の美少女セレナである。


 セレナもまた、戦闘義手を手に入れてから停戦までの間に様々な白兵戦や操船技術を駆使した艦船戦闘により武勲を挙げ少尉にまで昇進していた。


 士官学校を卒業してから停戦まで2年間の戦果とその後の演習による成績でここまで出世するのは異例である。

 地球連合国家の少尉であり、特1級航宙士の人間はかなりの高給である。


 実質今乗っている車もラビッシュで自前の居を構えることができるほどの値段である。

 まあ本人の自動車趣味もあるのだが....。


 軍用大型船舶にもなると、そのドッグも広大である。

 基本的に軍用船舶は宇宙共通規格で艦船後方に乗り入れ口がある。

 ドックから乗り入れ口につながる連絡橋は全長数キロに及ぶため、車両通行を想定した大きな筒状橋の形状をしている。

 乗り入れ口から艦内に入れば、そこは物資や車両を置ける広大な駐車場になっている。


 艦内中幹部には電車のような艦内交通システム「オートラス」が定時運行しており、艦内主要区間を連絡する。


 乗り入れ口からすぐの車両・資材倉庫から「艦内交通システム(オートラス)」のホームは直結している為、セレナはそのまま到着したそれに乗車した。


 セレナは「艦内交通システム(オートラス)」の座席に座って船橋(ブリッジ)エリアへの到着を待ちながら、自分の右腕を見つめた。


 最新の技術により、戦闘義手でありながらその見た目は生身と見分けがつかない。

 強いて言えば、生身の体との境界部分でうっすらと色味の違いが判る程度である。


 セレナはまるで生身の腕のように完璧にその腕を操作していた。


「やっと、ジェスの役に立てますね」


 オートラスの座席に腰掛けながらセレナは独り言ちた。


 かつての戦いで全く力になれず、自分の体の一部を失った経験・・・そんなものは二度と経験したくはなかった。

 これから戦いが再開するのか、このまま平穏が続くのか。


 それはわからなかったが、この世界で生きていく以上、ジェスと共に過ごすなら足手まといになるのはセレナにとって絶対に認められないことなのだから。


『間もなく、船橋(ブリッジ)連絡エレベーター駅です』


 無機質な機械アナウンスとともに艦内交通システム(オートラス)は停車し始めていた。








 連合国家宇宙軍新造艦、機動戦艦シルフィード。


 この時代の軍用戦艦は主に巡洋艦、高速艦、機動戦艦で構成される。


 巡洋艦は近代の主流艦船で、ロングレンジからの高火力砲撃を主としている。

 高速艦は名前の通り高い速力とオプティカルキャンセラーによる光学視認を不可とする隠蔽装甲、高い索敵能力と広範囲の無線電力供給システム(E P S)中継アンテナを持ち、偵察用途及び機動兵器支援に用いる。

 そして、機動戦艦は各隊旗艦用にあらゆる性能をバランスよく高次元に持ち、かつ巡航機関定格出力が百八十万ギガワット以上を誇る高性能万能戦艦である。


 その中でもK.Cインダストリーの技術を惜しみなく費やした機動戦艦シルフィードは、 風の精霊の名前に恥じない高機動と強さを兼ね揃えた、連合国家最強の戦艦になる筈である。


 そしてオートラスの駅に直結した、機動戦艦シルフィードの要である「艦内交通システム(オートラス)」へと続く高速エレベーターに乗りながら、セレナは自分の鼓動が高鳴るのを感じていた。


 パシュウーー。


 エレベーターを降りて船橋(ブリッジ)のゲートを開いたセレナの視界には広大な船橋(ブリッジ)の様子が広がった。

 機動戦艦シルフィードの船橋(ブリッジ)は連合国家宇宙軍艦船では標準的な構造である全天球スクリーンを採用する。


 船橋(ブリッジ)自体は球体の空間になっていてその全面に船外の景色を投影する。

 そして方位や高度などの大まかな計器や情報をそれに表示する。

 球体型空間の芯を水平方向に、凸型をした半透明の床が存在しクルーはそこを歩いている。


 高性能なコンピューター補助により、3キロメートルを超える機動戦艦はたった最低6人程度の人員で運航可能である。

 そしてクルーのシートは空中に浮かんでおり、球体状の空間を自由に移動できる。


 これらは量産されている巡洋艦ですら標準的な構造であり、特別感はないがセレナにとっては感慨深いものであった。


 そして船橋(ブリッジ)に立つ見知った顔をみてセレナは顔を綻ばせた。


「ジェス!お久しぶりです」


 それを聞いたジェスはセレナに優しく微笑んだ。


「セレナ、無事乗船出来たんだな。今まで度々会ってはいたけどこうやって船橋(ブリッジ)で出会ったら不思議な気分だな」


「はい、ジェスと一緒に仕事が出来て嬉しいです」


 そう言って微笑むセレナの顔はまさに美少女のそれであった。


「シミュレータでは何度か見ているが、セレナの操船技術に期待しているよ」


「はい、任せてください!」


 二人は色々な経験を経てようやく共に同じ船に乗れることを喜んだ。


「そういえば今日から演習に参加するクルーがあと二人いるみたいだな」


「はい。確かリソラ人の砲撃手(ガンナー)とK.Cインダストリーから出向している民間人ですね」


 自分と一緒に参加するクルーの情報をしっかり把握しているのがセレナらしかった。


「リソラ人が軍用艦に搭乗するなんて珍しいな」


 リソラ人は地球人より優れた身体能力と寿命、そして高度な技術力を持ちながら戦いを好まない民族である。


 だからこそ永世中立として独立を宣言するくらいだ。


 それが自衛の為ならともかく、異国の戦艦に乗るのは非常に珍しかった。


「で、その二人はまだ来ないのか」


 ジェスが周りを見渡したがそれらしき人物は見当たらなかった。

 特にリソラ人は目立つのだが・・・。


「いいえ、民間人の方はわかりませんが、リソラ人の砲撃手(ガンナー)はあそこで寝ていますよ」


 そう言いながらセレナは宙に浮いたガンナーズシートで寝息を立てる女性を指差した。





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