紅の戦姫 ~帝国SIDE~
ラーナは機動戦艦ナゴーブの艦内交通システムに乗りながら機内服の点検を行っていた。
この機内服は艦内の随所、乗組員の自室や浮遊座席のサイドポケットなどに格納されており、着込んだあとに装着ボタンを押せば装着者の体形に合わせてタイトに収縮するもので、緊急用の簡易宇宙服である。
あとはSAのコクピットにあるヘルメットを装着すれば、万が一戦闘で宇宙空間に投げ出されても短時間の生存が可能になるものである。
艦内交通システムでナゴーブのSA格納庫に到着したラーナは、固定されている自身のSAに向かう。
そこには帝国軍の旗色である深紅に染められたSAが佇んでいた。
そこにある深紅のSAは革命軍時代の主力SAであったラピスⅢの後継機であるラピスⅣテクノロジアという機体であり、隊長専用機としてラーナ用に特別改修されていた。
機体を固定しているハンガーに備え付けられたリフトでコクピット付近まで上がったラーナは、ハッチの解放レバーを操作して解放した後にコクピットへ乗り込んだ。
コクピットの中にあるマスター・スレーブユニットのフットレバーは、機内服の足裏に設けられたビンディング端子のつま先部分を引っかけてから踵を踏み抜くことで固定される。
そのビンディング端子を踏み抜いたと同時にラーナの体内ナノマシンにアクセスし、認証プロセスが完了すると、SAの起動シークェンスが開始された。
ヴヴヴヴヴヴヴヴ・・・・・。
S-A型液化グラビディウム電池から電力供給が開始され、グラビディウム機関からの駆動音が響いてきたと同時に全天球スクリーンに映像が投影される。
コクピットでラーナが腕を持ち上げて手首を回すと、それに連動して機体も追従する。
機体の自己診断が完了したのを確認すると、ラーナはSAドック管制への通信回線を開く。
「ラピスⅣテクノロジア、ラーナ機迎撃装備で出るぞ!」
「了解しましたラーナ様。第五射出機から出撃してください」
管制の言葉と共にSAを固定したハンガーごとドックの床へ沈んでいく。
ハンガーユニット自体がエレベーターになっているそれは、SAを船外へ出撃させる為の射出機へ降下していく。
やがて細長いトンネル状の射出機が併設された射出待機場へラーナが搭乗したSAが到着した。
「ラーナ機ハンガーエレベーター、射出待機場へ到着しました」
「五番射出機ゲートオープン」
パシュ、パシュ、パシュ。
小気味よく全天球スクリーン前方に映る幾重も重なるゲートが開くと、前方に向かって果てしなく続く四角形のトンネルが現れた。
直後、四角形状のトンネル四つ角が機体側から進行方向に向かって発光してガイドラインになる。
ウォンウォンウォンウォンウォン・・・・・。
この射出機はSAの肩部アーマーや脚部に搭載した射出機用電磁ユニットと電磁誘導を行って機体を高速射出する。
そのための電磁コイルから発せられた独特の音がラーナの耳に入っていく。
『オン・ユア・マーク』
機械的な音と供にコクピットに新たなスクリーンが表示され、射出可能時間までのカウントダウンが表示される。
ラーナはそれを確認すると、コクピットの中でクラウチングスタートの態勢をとる。
それにシンクロしてラーナの機体も射出機の誘導コイル手前で同じ姿勢を取った。
『射出機、磁場限界までカウントスタート 10・・・9・・・』
機械的なカウントが進む中、ラーナは静かに目を閉じる。
ラーナにとっても今回の戦いは今まで経験した中で最大規模のものである。
自身の主が無事に戦いを生き残る為、自分は主の鉾となろう・・・。
そんな考えを過らせながら、カウントゼロを待った。
『3・・・2・・・1・・・スタンバイ・レディ』
その音を聞いたと同時にラーナは目の前に一歩飛び出した。
そして機体が射出機の誘導コイルのスタートラインを越えた瞬間におびただしい稲妻を纏わせながら、猛烈な速度で射出された。
コクピットに備え付けられた慣性減衰装置によって体感的な加速感はほとんど感じられなかったが、スクリーンの視界は後方へ溶けながら先細りになっていく。
「さあ・・・・いよいよ始まりだ!待っていろ地球人!」
『戦闘支援システム目為、起動します』
ラーナの脳内で響くアナウンスが戦闘開始の合図となり、ナゴーブを飛び出した機体はグラビディウムドライブユニットの高出力噴射で更に加速した。
ラーナは目為の支援を頼りにしながら、敵味方の砲撃入り混じる宇宙空間を縫うように飛翔する。
数万隻規模の砲撃による応酬は凄まじく、もちろんSAが直撃しようものなら自分が死んだかわからないうちに蒸発してしまうのは明らかである。
特に目為の支援により味方の射線はある程度自動回避するが、敵の砲撃はそうはいかない。
実際、周囲に映る味方の機体の数機が砲撃に飲み込まれた後は跡形もなくなっている。
ラーナの機体の後ろには同じくナゴーブから出撃したSAが追従していた。
『ラーナ様、敵艦隊の砲撃は苛烈です。くれぐれもご注意ください』
「あなたもね」
ラーナは通信画面に浮かぶ自身の部下である少女に声かけた。
ラーナの小隊は五機のSAを展開しており、それらは全て迎撃装備になっている。
連合国家が帝国宇宙軍艦船のシールド破壊をする為に雷装で迫ってくるのを迎撃するのが彼女たちの役目である。
迫りくる連合国家のSAとは数百キロ以上離れている為、いくら超高速で飛行する宇宙機とはいえ会敵するまである程度の時間がある。
辿り着くまでに流れ弾で犬死するようであればソフィミア家に申し訳が立たない。
そのまましばらく宇宙空間を飛翔すると、前方に連合国家のSAが現れた。
ラーナが素早く目為により確認すると、連合国家の従来型量産機『オーガス』で雷装であることが確認できた。
既に相手は数機ほどナゴーブの迎撃レーザーに撃墜されていたが、現状でも近接して確認できるだけでも数十機ほどになる。
連合国家のSAのうち数機が身近な帝国宇宙軍艦船へ向かいながら椀部に搭載されたアンチシールド高速ミサイルの発射ポッドを向ける。
その中には機動戦艦ナゴーブも含まれていた。
「ちっ、させるか!オーバードライヴ!」
それを確認したラーナは、オーバードライヴを発動しながら装備しているマルチパーパス・ビームライフルを向けた。
帝国で指折りのエースパイロットであるラーナも、また数少ない『オリジナル』であった。
ラーナの機体がミサイル発射を阻止しようとしているのを確認した連合国家のSAは迎撃の為に同じくビームライフルを発射する。
しかし、オーバードライヴを発動したラーナにとって、それはまるで止まっているような動きである。
現状ラーナ達がいる場所は帝国艦隊の展開範囲であり、機体には帝国艦隊艦船からの無線電力供給システムから潤沢な電力が供給される。
常時最高出力の高機動でそれらを回避しながら、正確にミサイルの発射態勢である連合国家SAを打ち抜いて撃破していった。
すかさずラーナは機体のビームブレードを展開して、つぎつぎとすれ違いざまに連合国家のSAを撃破していく。
稲妻のような挙動でSAを屠っていくその姿はまるで真紅の死神でもあり、吸血鬼のようでもあった。
〜設定資料〜
太陽系統一帝国主力SA ラピスⅣテクノロジア(ラーナ専用機)
帝国軍主力汎用量産型SA ラピスシリーズの第Ⅳ世代機。
テクノロジアは指揮官機用にカスタマイズされたシリーズで、ラーナ専用機はオーバードライヴ挙動に耐えうるよう、更に高機動カスタマイズされている。
革命軍時代主力であったラピスⅢ同様に装備を換装することで多彩な戦場で使用できる。
第Ⅳ世代機は艦隊戦における雷撃を想定している為、EPS受信性能を向上させ受信可能距離の長距離化を実現している。
また、ラピスⅢが帝国規格の従来型であるA型液化グラビディウム電池を使用しているのに対し、容量を増大させた新規格のS-A型液化グラビディウム電池を新規採用して内臓電源増大化を図っている。
スペック
全高 19.7m
乾燥重量 72.5t (宇宙戦闘用標準フレーム時)
主機関 双発式グラビディウムエンジン
機関定格出力 310,000kw
主電源 (内蔵)液化グラビディウム電池 S-A型 6本 +拡張6本 (外部)EPS方式
主装甲 ハイチタニウム合金
主兵装 マルチパーパス・ビームライフル ビームブレード 対艦アンチシールド高速ミサイル(雷装時)
*マスター・スレーブ方式のフットペダル部分のビンディング端子はロードバイクのビンディングペダル(SPD-SL方式)を参考にしています。




