これやいかに・・・
「これは一体、どういうことでしょうねぇ?」
俺が出張先から帰ってくると職員室内は崩壊の一途を辿り終わった後だった。
二・三年生の教師陣、男性が山に積まれてピクリとも動かない。壁際に追いやられた机の山の麓にはお茶を楽しむ呑気な谷切、月見、なぜか青い顔をしながら鎮座する白火、缶ジュースの缶が幾つも転がるところに鶴尾と都川がいた。窓も所々ヒビが入った所や完璧に割れているところも。まさに漫画に描かれるような職員室の痕の廃墟。
「で、何があったか・・・極力聞かないよう善処しますけど、説明その他弁明があるんだろうなぁああああ!!!」
眼鏡をくいっと持ち上げながら勢いよく理緒に顔を向けた。
「うるせぇよ、売られた喧嘩は買うね」
ふて腐れながらあぐらをかく理緒。
「な・・・なんですか・・・これ」
乙坂先生が俺の横に立ち尽くしながら言った。
「うわーすげぇー何があったのさツミー」
有川が乱雑山となった机の山に腰かける月見に聞いた。
「いやー?職務義務か副職義務に乗っ取って行動したまでよ~」
ヘラっと笑う吉若月見。
「立派な違反だボケ!」
すかさず思ったことが出る。
「生きてんの?・・・これ・・・」
山と積まれた男性教員をつつきながら二山が言った。
「博刻!説明しろ!」
俺は国木先生の隣で煙草を吸い始めた博刻に向かって言おうとしたが、山渡が博刻に向かって怒鳴った。
「どーしたもこうしたもねぇなぁ。ちょいと気に入らねぇから潰したまでだ」天井に向かって煙を吐く。
「気に食わねぇ!」
博刻の胸ぐらに掴みかかる。
(まじか!この状況でアイツらがドンパチ始めたら収拾がつかねぇ!)
ダっとかけていくが、目に見えない火花が散る。
「ちょ!待て、待て!」
「どうなんだよ。言ってみろ」
掴んだまま言う。そこに行くまでが遠く感じられた。
「あぁ?何をだ?」
にっと挑発するように笑う。
「てめぇぇえええええええ!」
ぶちっとキレた。
「事態を悪化させてんじゃねぇ!」
俺は声を張り上げたが
「エビ野郎はシめたんだろうなぁあああああ!」
ずるっとこける。
「あぁ、きっちりシめたぜ?国木先生と俺の妹がな」
「やったじゃねぇか」
そしてバシッとハイタッチ。
(なんの茶番劇だ、ごらぁあああああああああああ!)
内心吠える自分がいた。
博刻はそのまま歩き始める。たまに邪魔な教師山からはみ出た腕やらなんやらを跨ぎながら。
「入江」
「は、はい!」
後ろを向いたままだったが国木先生が俺を呼ぶ。
「下見はどうだった?」
「と、特に異常は無かったです。予定通りでいいかと」
煙が外に出ていく。
「んじゃ、次の領地行くか」
国木先生が言った。
(この事後処理どうすんだよ!)
「これもいいなぁ~ラーズ食品!結構おいしいぃ~」
ハムスターになりかけの月見。
(前は弱音しか言わなかったのにな)
煙草を口に咥えて、両手をスーツのポッケに突っ込んだまま思った。
嬉しそうな顔・・・そう思いながら見ていた。
「うわぁ!?なに?」
勝手に動いた手が妹の頭をガシガシと撫でていた。
「強くなったじゃねぇか」
にっと笑って見せる。キョトンとした顔でいたが同じように笑って
「とーぜん!」
(や・・・やっと終わった・・・)
女性教員の猛攻撃に一呼吸おいた一年生教師陣の本気が職員室を崩壊させた。
(この学校が一番安全地帯なんじゃ・・・)
トホホ・・・と頬を涙が伝う。
「白火先生」
「は、はひ」
唐突に鶴尾先生に呼ばれる。
「無事で良かったな~」
「そうだぜ?医者通いは避けられなかったかもだ」
のんきな二人に言われなくても安心できる。
(避けるどころか弾かれたよ・・・)