月は夜に出る
弱い自分がいた。
なにやっても遅いしマイペースで人に合わせるのが苦手。
そのせいで何人に怒られただろう。そのせいで何人に迷惑がられただろう。数えると、きっときりがない。だから大体は一人だった。家に帰るとお兄ちゃんがいたけど迷惑をかけないようにずっと黙ってた。友達は学校で仲良くしてたけど相談を聞くような性格じゃないのはしってた。だから、あえて、言わなかった。親からは嫌われていたから論外。
もう、どうしていいかわからなかった。
「で、残るのは~木常先生だけですよ?」
一時休戦する男性教員や横たわっていたりする女性教員達をくるんと見渡す月見先生。
「あの、月見先生は不良じゃないですよね?」
「確かに不良とは言いがたいですよ」
俺と谷切は鶴尾先生に言った。
「まぁな。でも、人は外見によらないって言うだろ?」
二本目の缶を開けながら言った。
「他の三人とは大違いさ」
都川先生が付け加えるように言う。
「あ、段位持ってるって・・・」
「そう、それともう一つ。作戦とか策略家ってかんじだな。あんな呑気にしてたって、常に最良の結果になるように考えてるのさ」
ウンウンと頷く鶴尾先生。
「段位持ちだと?それは自分だけだと思っているのか?」
木常先生が言う。
「さて、どうでしょう~」
にこやかに嗤う。
木常先生は拳を固め、構えると言った。
「それは私とて同じ。空手はどんなものも穿つ」
腰をほんの少し落とし、月見先生を見据えた。
「やってみろ~首の骨おってみろ~」
ふわふわと言うが内容が恐ろしい。その態度にキレた木常先生はダっと拳を振り上げた、が、空振りした。
「動きにくそう?でも、逃げ足早いから~」
「くそっ!」
悔しそうな先生の声。
(たしかに動きにくそうなのは月見先生だけど)
木常先生は動きやすそうなジャージだが。しかし、当の本人は長い上着にワイシャツ、黒袴姿。都川先生が言った。
「普段着なれてるからな」
「あ」
(そういえば、袴履いてる率高い・・・)
「うぅ、なめおってこの餓鬼ども!」
ある太った先生がぼやいた。
「あら、それは大変ですね?」
背後から聞こえる甘い魅惑の声。自分の腕が持ち上げられる。
「あら、痛そう」
捲った袖の下にはかすり傷があった。すると、耳元で
「なんちゃって」
冷や汗をかく間もなくザリッという音ともに激しい激痛が全身を駆け巡った。「ぎゃぁああああああ!」
のたうち回っているとダンという音と足が降ってくる。
「よぉ、元気そうだな」
鋭い目付きの一年男性教員が見下ろしていた。
「後は、お願いしますよ?」
「頑張ってね、理緒ちゃん」
二人の毒蛇女。
「おうさ」
そして、男性教員の乱闘はまた始まった。
無茶苦茶に拳を繰り出しているかと思えば、確実に顔面を狙うような角度をとる木常先生。それでも、ひょいひょいと避ける月見先生。
「逃げるな!」
「嫌ですよ~当たったら痛いじゃないですか~」
繰り出された拳をブリッジをするような形で避ける。
(中学の時より避けれるな~)
ふとした瞬間によく思い出すことがある。それはどんなときでも、忘れたらダメだと暗示するように。
中学の時に限らず小さいときから自分のせいで回りに不快だと思われたり邪魔がられた。今で言ういじめにもあったし、親からは見放されてた。それでも、お兄ちゃんと帝斗はなんら変わりなくいた。
中学の何時だったか、自分が何をしでかしたか無意識に引き起こしたのか謎だったが、広い空き地に五・六人くらいの男子生徒から逃げたことがある。結局、その空き地に追い詰められた形だったけど。これまでに数え切れないほどこんなことがあったからもう顔すら覚えてない。
そのなかで私はどう逃げるか、相手がどうでるか、自然と見極める能力が育ったらしい。それに加えて自分の考えとかいろいろ黙っていたところもある。それでもあの二人はすぐに察知する。獣か・・・?とも思った。
(自分が始めて他人に反撃した時っていつだっけ?)
木常先生の攻撃をなんとか避けながら考えていた。
(木常先生・・・型にはまった典型的な攻撃のしかたしかしないな~パターン読めてきた)
木常先生の攻撃パターンの中である程度、間合いがあることがわかった。
「お~もう、攻撃パターン読みきった」
感心する都川先生。
「え・・・だってまだ、そんなに時間たってませんよね!?」
俺は言ったが確かに月見先生は木常先生の間合いに入る隙を狙っていたのはわかった。
そして、動いた。
(多分、一歩近づいて・・・)
ダンと木常先生の間合いに入る。ビクッと震えたがすぐに空いていた左で殴りにかかる。
「弱点みっけ~」
左を受けとめると同時に、拳ごと自分のところへ引き寄せる。前のめりに倒れそうになる木常先生だったが
「よい、しょっとぉおおおお!」
くるりと体をひねり見事な一本背負いを決めた月見先生。
「うわぁあああ!」
月見先生の勝利が確定した瞬間だった。
「俺・・・なんとなく、月見先生見直しそう」
(いろんな意味で・・・)
ぼやいた俺に谷切は言った。
「喧嘩以外でな」
ごもっとも・・・