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試合の後

「先輩、教えてくださいよ!さっきのは何ですか!?」

回復した翡翠が龍眼に付きまとう。龍眼は彼女を見ながらものんびりお茶を飲んでるけどね。

それを俺達は少し離れた所で見てる。

実のところ、俺は彼女をどう扱えば良いか悩んでて近寄れずにいるわけなんだけども。

「さっき私がやられた所ですよ!魔術使わずになんで魔術が発動したんですか?」

…翡翠は頭おかしくなったのかも。

魔術を発動したのは魔術を使ったからでしょ。何言ってんだこいつ。

「いやあ、キミに先輩としての威厳を見せ付けることが出来たようでよかったよ。では解説するね。」

テーブルにお茶を置く。

「と言っても簡単なんだけど。キミが認識するよりも大分前に魔術構築が終了していただけだよ。あとは発動地点で『引き金』を引けば発動する状態にしておいたわけだね。」

「え?意味分からないんですけど、先輩頭大丈夫です?」

「む、分かりづらかったかな。ええっと…。」

「要するに、魔術を使わなかったのではなくて、既に魔術の構築を終えた状態でキープのように留めておいた、ってこと…かな?」

「その通りだよ、次元の魔女。…ああ、エミリーって呼んでたね。」

横からエミリーが参加してくる。当然、俺もついてくる。

魔術はキープによる保存をしない限り基本的に即時発動で、今の話のように「発動地点で待機させておく」というのは無理だ。勿論例外はある。

「エミリーの転送の魔術。これと原理は同じだよ。彼女の紙に書かれた構築式は『破る』というトリガーによって発動するでしょう?」

「ああ!言われてみればそうでした。先輩頭おかしいって思ってごめんなさい。」

「私も説明好きだけど得意じゃなくて。」

「でも分かりました。罠みたいな感じで設置したということですね。私、そんな魔術の使い方知らなかったから驚きました。」

「キミと居るときは、使う必要に迫られることがなかったからね。」

「それとね、先輩。全力といいつつまだ余力残してましたね?」

ジロリと翡翠が見ると龍眼は眼を逸らす。

あ、ここは有紀と同じことするんだ。

「いやね、一応私目覚めたばかりだからね。今の時点ではちゃんと全力のつもりだったんだよ。」

「ふうん。じゃあそういうことにしてあげましょうか。」

「あ、はい…。」

一通り会話を済ませ…龍眼の魔女は俺を見る。


俺達は2人で話をしたい、ということで自室へ移った。

移動中の沈黙は非常に気まずかったわけだけど、それは向こうも同じようだ。

「修司。」

「うん。」

「ええと、もう皆から聞いてるかもしれないんだけども、私が元々の人格なんだ。」

「そう聞いているよ。うん…。」

「で、出来れば私も『有紀』と呼んでもらえると嬉しいんだ。」

龍眼の魔女は別人格だ、と思ってたけどちょっと違うんじゃないだろうか。

先ほどの翡翠の魔女との会話でも、所々に有紀と同じ表情や動きが見られたし、今こうやって見上げてる彼女の表情は有紀が不安があるときにでる表情だし。

「うーん、やっぱり有紀ぽく見えるよね。」

「だって彼女も私だよ。私がベースなのに違う子になってたら嫌じゃん。」

「ははは、そうだな別人だったらそりゃ怖いわ。そっか、分かったよ、()()。」

名前を呼ぶと大きな眼が更に大きく開かれたあと、ニッコリを笑う。

「ありがとう、修司。」

何かこれはこれで新鮮だな…。

「安心して、キミのよく知る有紀と私はいずれひとつになるし、その時にはあの子がベースになるから。」

「ん?主人格ならお前じゃないの?」

「ふふ…。修司は私のほうが良いの?」

「…それは…。」

正直な話、きっと彼女も神城有紀として生きていくことは出来ると思う。が、今現在の俺の心境としてはやっぱり向こうの有紀が「俺が長く一緒に居たい」と誓った方だと…そう切り分けて考えてしまう。

「そういうことだよ。それに私は十分生きたから今度はあの子が魔女として生きていくべきだと考えてるからね。」

眼をつぶりながら柔らかく笑う。その様子は子供を思う母親って感じだ。まあ俺の母親はこんな綺麗な笑い方してなかった気がするけども。

主人格の彼女にとって転生したことで生まれた人格は「自分の子供」なのかもしれないな。

「それはそうと、困ったことが1つあってね。」

「お、な、なに?」

「もう一人の私に戻りたくても戻れないんだよ。こう…意識の中に『引きこもるスペース』があるんだけど、そこに引っ込まれちゃって…。」

「ええ…なにしてんだアイツ…。」

「別に彼女自身が引き込もろうとしてるわけじゃないのよ。さっきの戦いで精神的に消耗したから回復するために下がってる感じだからね。」

「ああ、そうか…。精神的に消耗…というのは要するに『疲れた』ってこと?」

「そうだね。彼女があの時点で発揮できる性能限界で戦い続けたから。でも…あまり良い兆候じゃないよね。」

良い兆候じゃない…。主人格の有紀は説明する。

解離性同一性障害という病気はあるが、彼女の場合は全く違う。

前者は耐えられない状況に対して記憶と感情を切り離した結果生まれてくる人格だが、有紀の場合は1つの体に2つの人間が存在している状態だ。

前者は本人が生きるために生み出した人格であって、その存在にはちゃんと意味がある。そのため人格が生まれてきた意味…基本的には負の感情を請け負うために生まれてくるわけだから、それを少しずつ和らげていくことで、徐々に切り分けられた人格を元の1人の人格へ戻していくことが出来る。

ところが、有紀たちは別に生存の必要に迫られて分裂したわけでもない。ある日突然1つの体に2人の人格が住んでいる状態になってしまったわけだ。転生先から戻ってきたほうの有紀…つまり俺の知ってる副人格としての有紀は別に何か意味があって誕生したわけでもないので、「間借り」してる状態で存在していたわけだ。

「あの子が表層に出続けるためには精神的にエネルギーを使い続けなきゃいけない、ってことなんだろうね。私も修司もそんな立場になったことがないから、エネルギーを使い続けて自分の人格を保つ…っていうのは考えたこともなかったよ。」

確かに、俺も無いな。どれだけ疲れても、俺は俺だし。

けど、副人格は違うみたいだ。主人格を差し置いて表に出ようとすればエネルギーが必要になるし、それを維持するためにも更にエネルギーを使い続けるハメになる。

「私達は少しずつ融合していくから、時間が経てば徐々にあの子の人格は今よりも表に出やすくなるはずだけど、少なくとも今は消耗しきっちゃってるから出てこれないみたい。」

「そっか。でも、消えるわけじゃあないだろう?」

「それはそうだよ!それに私もあの子を消えさせたくない。大事な私だよ?」

2人いるから有紀だとごっちゃになるけど、この有紀もまたもう一人の有紀が大事なんだなって伝わってくる。やっぱり親子みたいな感覚なんだろうな。

「まあ、そういうわけだからね。」

くるっと俺のほうを向きなおしニコっと笑う。

「あの子が復活するまで、私を有紀として可愛がってね!」

ふぁ!?可愛がるってなんだ!?

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