翡翠の魔女4
翡翠の魔女…この魔女は魔力の質を見ることが出来る。
魔術が発動する地点をす早く判別することが出来る。勿論魔力の流れを見る龍眼であっても同じことは出来るが、彼女の翡翠の眼は発動する地点およびその範囲まで判別する事までが可能だ。
龍眼の場合は「ココにどのくらいの威力の魔術が発動するか」という感知。翡翠の場合は「ココにどのくらいの威力がどの範囲で発動するか」を感知する。
つまり…。
「まだ、対してダメージも受けてないでしょう?翡翠。キミがキミの眼を正しく使ってるなら、ね。」
龍眼の指摘どおり、翡翠は傷を殆ど負ってない。魔術を食らうにしても威力の低い場所に回避できてるわけだ。
「先輩…、先ほどと全然性能が違うじゃないですか。」
「色々事情があるんだよ。」
翡翠も剣を取り出す。こちらは小太刀のような形をしている。
「うん、キミも本気だね。」
「はい!ここからですよ!」
こうしてまた魔術の構築と妨害を中心とした魔術戦が始まった。
全体的に龍眼が押しており、時々魔術が翡翠にヒットするが上手く避けてしまい、ダメージはない。
「やっぱ…!先輩のほうが構築早いですね。」
「キミもずいぶん成長したね。いやいや、楽しくなってきたよ。」
魔術対決はやや龍眼が優勢だが、更に彼女はコツコツと歩き出す。
「さて、こっからだね。」
と、言うと同時に下から上にサーベルを振り上げる。
直後に斬撃が砂埃を巻き上げながら翡翠に向かう。
「くっ!」
魔術も斬撃もギリギリでかわす。
「すごいじゃん、翡翠。私もだんだんテンポ戻ってきたよ。」
更に斬撃を1…2…3発飛ばす。
翡翠も必死に避けるがついに被弾し、吹き飛ぶ。
「どんどんいくよ!って…あれ?」
吹き飛んだ先には誰も居なかった。
「ああ、小太刀の能力か。超スピードの移動だね。」
「その、通りですよ先輩!」
一瞬にして龍眼の真横まで迫っていた。高速移動は魔術にもあるが、魔術を今のように妨害で上手く使用できない場合にはこういった装備の能力は重宝する。
至近距離に迫ったことでちょっとした肉弾戦が始まる。
小太刀を横に振る翡翠に対し、龍眼がしゃがんで避ける。パンツが見える。
攻撃を避けた龍眼が今度はサーベルを突き刺すように前に出すのを翡翠は身をよじり、かわす。
斬る、避ける。斬る、受ける。
魔術を忘れたかのように肉弾戦に興じている2人。勿論実際には魔術の応酬も行われてるので、魔術戦では有利な龍眼が時々魔術を放っているようだ。
「この勝負、長引くのかな。」
有紀が龍眼の魔女の主人格と入れ替わったことで戦況は逆転してるが、まだ翡翠の回避の高さにより決定打となるような一撃が出せずにいる。
俺はやや有利なまま終わりまでいくのかなと思ったが、次元・陽光・新月の予想は全会一致で「龍眼が勝利と予想していた。
「理由が知りたい?修司君。」
そりゃ、知りたい。というか「そうであってほしい」とは思う。
「簡単なことです、修司さん。まず龍眼と翡翠は最初からスペック差があるんですよ。」
「そう、龍眼の魔術処理量は翡翠より上。出力はやや翡翠が上だけど、強度の差はないから処理量の差で龍眼が有利。」
なるほど。さっきまでボコボコにされてたのはそのスペックが発揮できてなかったからか。
「それに加えて…、先ほどから徐々に龍眼がペースを上げてきています。翡翠よりも龍眼のほうが1度の動きが増えているのはわかりますか?」
言われてみれば、先ほどの斬撃も1発から3発に増えたり…今の剣のぶつかり合いにしても徐々に龍眼のほうが動きのロスが無くなってきている。
「そこまで分かれば、修司君もどちらが勝つか、予想付くでしょう?」
確かにね。
既に全力の翡翠の魔女に対して、龍眼の魔女は今まさにエンジンが掛かってきているところだからまだまだこれから更に動けるわけで…。
「翡翠。そろそろ終わりにしよう。…最後に言うけど、最初は怒ってたけども今はそうでもないから安心して。この試合の後までマイナスの感情を持つつもりはない。」
「は、はは…。先輩、やっぱり龍眼の綽名は貴女が合ってますね。」
「それは良かった。じゃあ最後に全力で行くね。」
ヒュっと龍眼が消えた、と思ったら翡翠が吹き飛んでた。
「がっ!」
吹き飛び、床に倒れる…ことも無く再度吹き飛ぶ。魔法は封じられても小太刀による高速移動は可能なはずの翡翠が回避もままならない程の高速移動。空に浮いた翡翠を更に追撃していく。
「龍眼の魔女はキャスターだと思われがちだけど、彼女は前衛タイプ。本来は相手の魔術を防いで自己強化の魔術を使って相手を攻撃していくのが彼女の戦い方。」
「私には見えないんですよね、早すぎて。」
勿論俺にも見えない。ガガガガという音が聞こえるだけだ。
と言うかもはや見えてる様子なのは陽光のみで次元の魔女も見えてる様子はない。
目にも止まらぬ高速移動と強力な斬撃が繰り返される。翡翠は切られないように上手く避けるけどそれでも斬撃の周辺に発生している衝撃波によるダメージが蓄積されている。
スピードアップ、そしてフォースの魔術だと思われるが、その二つを龍牙穿空の効果で出力を徹底的に高めた結果が今の動きなんだろう。
だが、この猛攻も致命的なダメージを受けないようポイントをずらしてる翡翠も凄いと思う。
俺には出来ない芸当だからね。
と、その時にまばゆい光が翡翠の魔女から起こる。…いや、これは龍眼の魔女が使った魔術か。
「修司君が分からそうな顔してるから、解説してあげるね。」
エミリーは戦闘から目を離さず、でも俺に解説してくれる。ありがたいことに。
先ほどのまばゆい光は「エクスプロージョン」…要するに爆発だね。
当然翡翠の魔女はその直撃だけは避ける。吹き飛び、腕や体に火傷を負うけども。
今の状況は…先ほどからずっとそうだけど魔術は妨害により発動できないわけだから当然火傷も治療できず、ダメージを与えていく。
「ハア!ハア!」
翡翠の魔女は体力の回復も魔術が封じられているためにできずにいる。
「お疲れ様、翡翠。」
ニッコリ、今度は爽やかな笑顔を向ける。対して翡翠は目を見開く。
その瞬間、ドドドドドドと連続して爆発が翡翠から起こる。
「っく!」
爆発を回避しきれずダメージを負いながらも爆発範囲から飛びのくが、龍眼の魔女はそれを見てるだけで追いかけたりはしない。
なぜなら…
「!!!」
飛びのいた先、丁度着地点を狙って今度は凍結の魔術、フリーズが発動し避け損ねた翡翠の下半身は一瞬で凍結する。
「先輩舐めないでください。ハア、ハア…、こ、このくらいなら…!」
「舐めてないよ。大丈夫。」
それでも龍眼はまだ見てるだけだ。
凍結はビキビキと音を立てて崩れ始めるが、本当の最後の一撃が襲い掛かった。
「ゴフ!…ぇ…?」
ズン!と光の束が翡翠を貫く。
「せ、せんぱ、い。さっきからなにし…た…?」
喋りきる前にガクっと墜ちる翡翠。
これを以ってエミリーが試合の終了を宣言し、龍眼の魔女の勝ちと言うことになった。