月のダンジョン2
15層はちょっとモンスターの動きが独特で、フロア同士を繋ぐ通路を巡回はしていないらしい。
らしい、というのは次元の魔女エミリーの情報だからなんだけど、確かに有紀が魔力の流れを見ても敵が巡回している気配は見られない。
その代わりフロアにはモンスターが必ず待機している。8フロアって事は8回戦うわけだけども。
1つ目のフロアをチラッと覗き込む。
「盾持ってるのはナイトか・・・。そうするとナイトが1、ウォーリア1、そしてアーチャーが2かな。」
俺が視察した情報を有紀に伝える。
このフロア内部のモンスターの種類と数はランダムらしいから、そのフロアごとに作戦を立てないといけない。
モンスターの中で俺が苦手なのが遠距離攻撃のモンスターで、俺が取れる攻撃手段が魔術のみとなってしまい、戦い方が限定されてしまうのが辛い。
それが2匹居るわけだから、うーん・・・。
「ボクがアーチャー引きつけようか?」
有紀が提案する。俺がナイトとウォーリアーを出来るだけ留めておければ、その間に有紀がアーチャーと戦ってくれるという流れだ。
「そうだな、頼める?」
「任せて。」
有紀も愛用のサーベルである龍牙穿空を取り出す。
まず、俺はナイトに向かってダッシュすると、モンスターが俺に気づき武器を構える。
その瞬間に有紀がアーチャー2匹同時にロックをぶつける。
「む・・・修司!思ったより硬い!気をつけて!」
有紀が魔術の手ごたえで敵の防御を悟る。ロックは彼女の解説を借りるなら「初級の魔術では最も威力が高い」魔術だ。だが・・・アーチャーの鎧はへこんだだけで破壊はされていない。
まじか・・・俺の魔術じゃ完全にダメージが通らないな・・・。
ゴーストタイプのモンスターの弱点はその胴にあるガス状の核だが、プレートに覆われているため、プレートを破壊しない限り核も壊せない、と言うことになる。
と考えている間にナイトが目前に迫る。
俺もナイトも盾を前に構え、剣を背後に引く。構える動作は同じだが、俺は前進のために前傾的に構えているのに対し、ナイトは重心を落したドッシリとした構えなのでちょっと違うか。
「て、あぶね!」
ウォーリアはナイトの隣にいたはずなんだが、一足先に突っ込んで来た。
縦に大きく振りかぶった斧の一撃をサイドステップで逃げ、パワースラッシュを当てる。
胴のプレートに当たるとガン!という空洞音を響かせるだけだった。いや、少しへこんでるか。
ウォーリアに体を向ける形になってしまい、ナイトがフリーになってしまう。
慌ててナイトのほうに目線だけ向けると既に眼前に盾が迫っていた。
俺の盾じゃもう間に合わないし、ここはアヴォイドの効果を利用してバックステップか。
ナイトの盾を押し付けてくる攻撃に対し、俺は後方に回避をし、再度アヴォイドを付与しておく。
フルプレートのクセに動きは早い。防御も高い・・・。反則じゃない?
「ふうう・・・」
俺は呼吸を深く行い、烈炎の剣を発動させる。
と、同時に俺以外の魔力の流れを感じる。
「『フォース』『スピードアップ』掛けておいたよ!」
有紀がアーチャー達を見ながら叫ぶ。
ありがたい!
まずはウォーリアに向かって迫る。
勿論相手も斧を・・・今度は横に振ってくるが、今の俺にはスローに見える。
しゃがみ、斧をくぐって更に接近する。
烈炎の剣+パワースラッシュの併せ技を、更に有紀の補助魔術であるフォースで強化して叩き込む!
「・・・!!」
ウォーリアは悲鳴を上げ・・・上げられないのか。まあ上げたように見えるんだけど。
ただ、プレートを溶かし、破壊しているが核はまだ残っている。
俺の全力でも一発は無理、ということになる。
「修司!危ない!」
「!!リリース、ウォール!!」
攻撃による敵の損傷を確認していたことが仇となり、俺はウォーリアの肘をくらいそうになり、慌ててキープしてあるウォールを発動させる。
スピードが上がっても意識の外からの攻撃には対応できるほどの効果は付与されてない。
確かにこれ以上の速度は解除時の体感時間と現実の時間の差で戦闘のペースが作れなくなってしまうし、このくらいの効果が俺がもらえる中で精一杯だ。有紀の判断は正しい。
ともかく、俺の展開したウォールの効果により、ガン!と何かに当たるような音を立て、ウォーリアの肘うちを弾く。
「もう一発!!」
俺は既に破損している胴をめがけて更に追撃を行う。
ベタのダンジョンで大分俺は狙い通りの場所に攻撃を当てられるようになっており、今回のように姿勢を崩したウォーリアの破損部位に攻撃を当てるのは難しくは無かった。
そのはずだった。
「うっ!?」
ナイトが俺の頭部を目掛け、剣を振りに来ていた。
そうだ、2対1だったんだ!今回も意識の外からの攻撃だ。
ウルフのときよりも更に動きが複雑なせいもあり、俺の対応は今回後手後手だな。
俺は二度目のウォールを発動させ、ナイトの攻撃をやり過ごすが、その時にはウォーリアも姿勢を戻しバックステップで下がる。
「・・・まじか・・・」
俺は烈炎の剣の効果を解除する。魔力の消費は避けないといけないしね。
幸いスピードアップ、フォースの効果は続いている。
魔術の効果時間は本来短いが、今も持続しているのは有紀が自分の魔術処理量を駆使して俺に魔術の付与を継続しているからだ。
彼女はその状態で更にアーチャー2体相手にしているので向こうのほうが苦しいかな?と思ったが・・・
向こうは自分目掛けてくる矢はウォールで弾いてるから効いてないようだし、余裕はあるみたいだ。
さて、俺はこの2体を何とか・・・
「修司!!」
へ?と俺は有紀を見ると、アーチャーの1体が俺に矢を打ち込んできていた。
飛んでくる矢は俺の眉間を狙っていたが、付与されていたスピードアップの効果により回避に成功する。
こめかみ切っちゃったけど。
「ごめん、引き付けきれてなかった。」
「いや!気にするな!そっちは倒せそうか?」
「ん・・・大丈夫!修司の魔法でも有効なものが無いか試してただけだから。」
ブラスト、フレイム、ロックと3種類試したが有効打は無かったらしい。
ということは、烈炎の剣を要所で使って行くしか俺の場合は通用しないだろう。
「こっちは中級魔術で終わらせておくよ!」