魔女会2
「しかし、良くこんなに作ってるな・・・。」
3階建ての屋敷がドンっと月面に存在している感じだ。
庭もなにも存在せず、月面の白い砂漠の中に存在してるのが非常にシュールなんだけども。
俺達は今、俺達が案内された部屋よりは狭い・・・が10畳程度の和室に居る。
洋式の屋敷が月面にポンと建っているのもびっくりしたが、更に和室があるというのもびっくりした。
エミリーが俺達に茶(しかも緑茶)を淹れてくれたのでそれを飲み、マッタリと過ごしている。
「昨日今日で作ったわけじゃないんだよ。ちゃんと時間を掛けて作ったんだよ。」
「建築技術も学んだのか?」
魔女は沢山時間があるから、確かに独学で建築技術学ぶことも出来るだろう。
俺はエミリーが自分で設計して自分で建てたのかと思ったが、それは違った。
「流石にね、私のセンスではこんなこと出来ないよ。ちゃんと地球から人を雇って材料持ち込んで建てたよ。」
そうか、今回俺達が転送したようなものを利用すれば人もモノも移動可能だもんな。
ちなみに足りない材料は月の中に存在するダンジョンから採集してきたらしい。月にもダンジョンあるのな。
「ついでに言うと、魔女会で出される料理も私が作るわけじゃなくて、ちゃんと商人ギルドのほうに依頼だして正式に雇った人が作るから味も悪くないと思うよ。」
貴族か!?ってぐらい金を湯水のように使うんだな、この子は。
「ボクは誰かに依頼受けたりしなかったからお金貯まらなかったけど、エミリーは結構貴族から依頼を受けてたから、ガンガンお金溜まってるはず・・・。」
「有紀の言うとおりなんだ。魔女トップは私というのがここ1000年・・・もっとかな?世界の常識になってるみたいで、貴族が私とのつながりを誇示したいがためにパーティーに参加の依頼を出してくるのよ。これがまた報酬良くってねえ。そのうち依頼を出す貴族も増えてきて今度は報酬の勝負になったわけ、『うちのほうがコレだけ出せるぞ』と。」
なるほどな、希少価値のある魔女と言う存在に加えてエミリーはオンリーワンだから需要に対して供給は常に1、と考えるとそうなるのは当たり前だ。
「けど、私も異世界旅行しちゃうからね。ココ数十年私は不在だったこともあって、依頼は今はないね。・・・そのうちまた始まるだろうけど。」
エミリーは茶を啜りながら答える。
つまり、この貴族からの高額の依頼を受けてきた結果、エミリーには使っても使い切れないお金が溜まっているわけだ。
今回も商人ギルドに依頼を出して人を雇ったということは「次元の魔女が戻ってきている」という情報を提供することにもなるので、また同じ貴族同士のマウントの取り合いが始まるのが目に見えている。
断る理由がないので彼女も参加するんだろうな。
お茶と煎餅と・・・和室でこんな風に過ごすと日本に居た時を思い出す。
「ふう・・・、何かやっぱり俺にはこういう雰囲気が合うみたいだわ。日本人だからか?」
「ボクも日本で過ごしてきたから『やっぱコレだな』って思っちゃった。」
「でも、2人とも。これ東の王国の文化よ?」
ふぁ!?
海に囲まれたユルース王国・・・。そこはイメージ的に日本に非常に近い。
「チョンマゲだっけ?あれは無かったけどね。でも刀は存在してたよ。向こうの世界と同じく、切れ味が良くってね。私の魔力の膜も切れたのはびっくりしたなあ。人間が徐々に魔女に対する脅威になってきてるのかも・・・と予感したし。」
「やっぱ刀強いな。ああ、そうしたら醤油とかもありそうだな。」
俺は冗談半分で言ったけど、あった。
有紀は基本的にこの王国でしか活動してなかったようなので、ユルーズ王国の事情は知らない。人と話を避けてた彼女は他者から他の国の話を聞くこともなかったようだし。
「思うに、ユルース王国と日本は環境が類似してるし、歴史のたどり方も近いのかもしれないね。」
海産物も多く、こっちのほうでは食することのない魚も食す。
やたらお風呂好きなのと天然の温泉もあり、年中入浴してる。
家は独自の造りをしている。今俺達が居る空間のように。
・・・まああれだね、どうみても日本です。
ちなみに魔女会で出る料理の中にはユルース王国の料理も出てくる予定らしいから、ちょっと楽しみだな。
「ふーん、修司君は、やっぱ帰りたいんだ?ここに留まってもいいのよ?有紀と2人で暮らせばいいのに。」
エミリーが覗き込むように俺を見る。
留まる・・・か。俺が帰るとしたら有紀はどうなるんだろう?というのも何度も考えてるしね。
ただ、両親も心配するだろうし、俺としては帰りたい。
後は有紀が帰るかどうか・・・。違うな、彼女が俺の世界に来る方法があるのかどうか、か。
「ちょっと、エミリー。そういうのはダメだよ。修司はちゃんと戻らないと急に消えちゃったんだから家族も心配してるでしょう?」
有紀が止める。でも神城有紀の両親も心配してると思うんだけどね。
勿論言わない。彼女も恐らく悩んでる点だし、そこをつついても「解決策」がない以上苦しいだけだ。
「そっか、まあもしこの世界に留まるなら言ってね。私が生活困らないようにしてあげるから。」
エミリーもそういって話を打ち切った。