ベタの町への帰還2
地上に戻り、俺達は冒険者ギルドに向かった。
「一ヶ月以上どうしてたんですか!?亡くなられたのかと思っていましたよ。」
と入り口ではギルドの事務のお兄さんに言われた。そりゃね、確かに潜りすぎだったしね。
「久しぶりー!2人とも居なくて寂しかったよー!」
更に受付に向かう途中にココアさん。でもその言葉の割に気持ちは何とも思ってないのが伝わってくるので白けてしまう。
まあでも俺達は「いやあ、おかげさまで」と適当に挨拶を交わして離脱する。
あとから彼女らが大変な目にあうんだからね。
ギルド受付で事前に受けていた依頼の報告、納品。更に5層以降のマップの提供、更にドロップ品の一部提供を行う。
「は!?ちょ、ちょっと待って!これ・・・ボスモンスター倒したんですか!?」
「ええ・・・まあ。」
「ギルドマスター呼んできますから、こちらでお待ちください。」
少し慌てた様子の事務のお兄さんから応接間へ通され、待機指示される。
俺達・・・エミリーもついてきてるから3人が座る。
「あの・・・2人ともさ・・・」
「ん?どうしたの?修司。」
「どうしたのかな?修司君。」
「狭いんで離れてくれない?」
5人は掛けられるような大き目のソファーの中央に俺が座っていたのだが、エミリーが俺の左にピタっと密着してるし、有紀も対抗して俺の右にピタっと密着してる。
いや両手に華だし、凄いうれしいシーンなんだけども・・・正直、恥ずかしいんですよ。
「いやあ、そこの栗毛の女が離れないからバランス悪いと思ってね。」
「そこの黒毛の子のが~」
「いやいや、2人ともくっつき過ぎです!離れて!」
俺の羞恥心が限界過ぎてやばい。理性があるうちに2人を一人分ずつ離す。
「別にボクはいつもの距離にしておこうと思ったんだけどね。」
有紀がちょっとムクれながらエミリーを見る。
「ははは、有紀が対抗してくれて嬉しいよ。」
対してエミリーは余裕そうな顔だ。
ダンジョンの帰り道、有紀がエミリーに「ボクも向こうで名づけられた名前があるから」と名前で呼ぶように要求してから、彼女らは名前で呼び合ってるわけだが…。
仲良く見えるけど、エミリーが有紀をからかう場面もある。主に俺を巻き込んで。
例えばダンジョン3層で一泊したときも、このエミリーが俺の隣で寝ると言い出してきて俺が緊張して眠れなくなりそうだった。有紀が全力で阻止してたけど。
「もう、エミリーは何がそんなに楽しくてからかうの?」
「うーん、私としては妹・・・娘?まあどっちでも良いんだけど、怒ることを忘れてた子がこんなに喜怒哀楽はっきりと見せてくれるのは嬉しいね。だから、ついね。」
「ん・・・それを言われるとボクは弱いね。でも、修司に迷惑掛かるから止めてよね!」
有紀がエミリーを注意する。
と、ドアがノックされ人が入ってきた。40代の女と60ぐらいの男だ。
女のほうが先に挨拶をしてくる。俺が慌てて立とうとしたけど、それを静止して。
「ああ、そのまま座ってて。私は冒険者ギルドベタ支部のマスターのサリです。そして・・・」
女がを見ると、次は男が自己紹介を始める。
「私は商人ギルドベタ支部の事務長サムエルだ。よろしく。」
そのまま2人が腰掛ける。
「・・・あの・・・」
「はい?」
腰掛けたサリさんが俺に困ったような目を向ける。
チラっと見る方向にエミリーが要る。
「そちらの方。仲間かしら?」
「えーっと・・・」
「いや!違います。ついてきただけです。」
俺がどう答えようか悩んでたらすかさず有紀が否定の答えを返した。
「ええ!?酷くない?一緒にダンジョン上ってきたのに・・・。」
珍しくエミリーがふて腐れた顔になる。そしてサリさんに向かって答える。
「まあ、仲間・・・ではないけどね。私は次元の魔女・・・って言ったら伝わってくれる?」
「次元の魔女!貴女が!」
サリさんも驚いたが、それ以上にサムエルさんが驚き立ち上がる。
「魔女のトップに居る方ですね!しかし何故ここに!?」
「なんか驚かれすぎて恥ずかしいね。私がここに居るのは彼ら2人に用事があったから、そのついでだよ。・・・楽しそうだし。見てるだけだから気にせず話してて!」
「そ、そうですか。」
サムエルさんまた着席をしたところで、サリさんが話を始める。
「報告聞かせていただきましたし、納品も見せてもらいましたが・・・本物ですね。」
「はい、商人ギルドを代表して修司さんが持ってきたドロップは下層のもので、スモークウッドに居たっては確かに10層ボスのものでした。」
「すばらしいですね、修司さん。ただ、ボスのドロップは薪だと聞いていたのですが、加工なさったんですか?」
「いえ、実は・・・」
俺は8層に居た魔族の事、そして彼らの元で1ヶ月生活したこと・・・最後に次元の魔女が彼らを送還したことを伝えた。瘴気の話は面倒くさいから止めといたけどね。
「そうでしたか。その『マルタ・ベーコン』とやらはどんな味で・・・?」
サムエルさんは身を乗り出す。彼は「商売になるかどうか」の見際目を開始しているようだ。
俺はベーコンを取り出し、切り分ける。
「おお・・・香りが素晴らしい。では・・・」
サリさん、サムエルさんがベーコンを食べ・・・感激している。
「こここんな美味いのか!!燻製することで香りが豊かになっていて上品な仕上がりだ。」
「それに、油っぽさを感じないから食べやすいですね。」
名残惜しそうに口の中をもごもごさせながら、やがてサムエルさんが言う。
「10層ボス・・・魔族が名づけた名前を貰おう。腐敗の妖樹のドロップはこの町の北部で売れるぞ。」
「それだけじゃないですよね。商人ギルドの依頼が増えれば東ダンジョンも冒険者が増えて活気が増えるのでこちらのギルドにとっても収益アップが見込めます。」
2人の間で白熱してしまい、俺達は完全に蚊帳の外になってしまった・・・。
エミリーも途中から興味なくして寝ちゃってるし。
ただ、今後は東ダンジョンは活気づくだろうというのが良く分かった。
ギルド管理してるココア冒険者組合もその管理権を奪われないようにしなきゃいけないから今まで以上に必死になるだろう。
まあ、必死になるのが嫌で管理を止めるかもしれないけど、そしたら違う中堅・大手クランが管理してくれるし、そしたら今までよりも初心者冒険者が通いやすくなるかもしれないな。
8層にはまだ魔族の残した住居は武器庫、倉庫(中身はないけどね)があるので、魔族が居なくなって徘徊し始めたモンスターをそのフロアから駆逐すれば、冒険者用の滞在施設の開発拠点として流用が出来る。
ココアさんには恨みはないが・・・いや、ちょっとあるか。今まで上層しかこなして来なかった彼女らへのちょっとした仕返しが出来て良かったぜ。
ちなみに冒険者のランクは上がらなかった。
「結構な功績ですが・・・ランク自体は冒険者ギルドに掲載される依頼をこなす事が絶対条件ですので、今回の依頼数では上昇できません。私はギルドマスターとして例外を認めたくないので。」
サリさんにビシっと言われてしまった。
よく漫画とかじゃ「例外としてランク10にするぞ!」みたいなのがあると思ったんだけど、やっぱり現実はきついな。
ただ、その代わりギルドから支払われる報酬はかなり多めにしてもらえた。
「この報酬には私が商人ギルドとして貴女方に対する謝礼を含めています」とサリエルさん。
どうやらギルド依頼、マップ提供の報酬以外にも妖樹のスモークウッドの買取(早速引き取ってもらった)や、商人ギルド・冒険者ギルドともに今後の東ダンジョンへの期待を込めて俺達に謝礼を包んでくれたようだ。
「み、み、見て・・・修司。」
「お・・・おう、これは・・・。」
大金だ・・・俺がこの世界に来てから初めて見る金額・・・70万コムもある!
てか有紀も初めてなのか・・・。
「ボクはお金殆ど持たなかったからね。この世界に来てから修司の装備買ってスッカラカンだったよ。」
衝撃過ぎる事実なんだけど!もっと持ってると思って普通に奢ってもらっちゃったよ!
「でも、大金だからって直ぐ使ったらダメだよ!?」
「し、しないぞ!」
震える手でお金を仕舞う。一部は有紀の収納で仕舞っておく。
いやあ、怖いわ。街中で襲われないよな・・・!?