マルタ族との別れ
「ところで・・・」
次元の魔女が周りを見る。
「ヒルメルの人らがここにいるのはなんでかな?」
マルタ族の魔族が俺達の成り行きを見てたことに今更魔女が反応する。
実はカクカクジカジカと、俺と長老で説明する。
「ああ、なるほどね。」
「だから、これからボクらは地表に戻って、交流もてるように取り計らってくるつもりなんだ。」
「あ、そうなんだ?てっきり『元の世界に戻りたい』って気持ちがあるのかと思った。」
「いや、魔女さん。私らは確かに元の世界に戻りたいが、それが出来ないから交流をと・・・。」
長老がちょっとイラっとした雰囲気で説明する。
帰れないのを馬鹿にしとるんか!?って感じだな。彼女はそんなつもり一切なかったようだけど。
「できるよ?」
「へ?」
「だから、出来るよ。だって長老さん。ここまだヒルメルと空間繋がってるでしょう?」
「え?あ・・・た、確かにわずかに繋がっています。瘴気が出てるお陰で我々はダンジョンで生活できてますから。」
「そう!繋がってるんだよ。そして私は『次元の魔女』。繋がってるならそれを少し広げてあげることはできるよ?」
ふぁ!?
まじか・・・そんなこと出来るのか・・・。
有紀が言うには、次元の魔女は自身だけならどこの異世界にも行けるし、他者も魂だけなら異世界に転送することができる。ただし、自身の移動は即時だが魂の転送は何十年かタイムラグが発生する。有紀が転生して戻ってきたときに100年が経過していたのはそれが原因だ。
ただそれは「新しく異世界との繋がりを作り出す場合」の話で、既に異世界との繋がりがあるなら、彼女は少しの間その繋がりを広げることで他人も即時に移動が可能となる。
「まあ転送するのに大きな魔石が何十個と必要になるんだけどね。でも大丈夫。」
次元の魔女は話しながら有紀を見る。
勿論有紀は何でこっちをみたのか分からず「?」という顔をするんだけども。
「あの子がバカみたいに魔石持ってきたから、ここにいる人を全員送り返すぐらいできるよ。」
「ふぁ!?なんでバカみたいにって!?」
いきなり有紀がバカみたいな扱いになってた。
「いやあ、だって私言ったんだよ。キミの魔力も使えば20個程大きな魔石があれば転生できるよって。でもキミ、200個だよ?持ってきたの。何考えてたの?」
「ええ!?そ、そういえば魔石持ってきたら次元の魔女が爆笑してたけど、ボク間違えて覚えてたわけ!?」
マジか、転生する前もした後もどこか抜けてる子だな・・・有紀は。
「ちょっと、修司。そういう目で見ないでくれない?」
おっと失礼。決して「天然ちゃん」とは思ってないよ、安心してね。
「まあ、あの子が持ってきた大量の魔石が余ってるから、それ使って魔族をヒルメルに送り返してあげる。だから改めて聞きたいのだけど・・・帰る?」
「それは勿論。次元の魔女『様』。どうか我々を戻していただきたい。」
長老が即答した。しかも「様」までつけて。
その長老の一言で魔族の皆が更に土下座する勢いで「お願いします」と懇願する。
まあ彼らのなかの大半はもうこのダンジョンで生まれ育ったとはいえ、自分の命を蝕む地表と元の世界と「新天地」とするならどっち?と言われたら元の世界だよな。
長老含めて向こうで生まれた人たちについても言うまでも無く帰還が長年の願いなわけだし。
「オッケ!じゃ、どうする?もう早速送っちゃおうか?今なら龍眼の魔力もあるからサクっといくよ!」
「ふぁ!?」
「手早く持ち帰るものだけ準備しておきます。帰れるなら今日にでも。」
「じゃ、そんなわけで、キミも早く魔女の力解放してね。」
「え?え?」
有紀が戸惑ってる間に、次元の魔女は有紀の手を取り「ハイ!変身!」といいながら魔力を流し込む。
俺はまだ魔力感知が完璧ではないとは言え、魔女の魔力はそんな俺でもしっかり分かるほど強力だった。
「ん!あ!」
ちょっと!有紀エロい声だすなよ!
少し喘いでる有紀を黒い渦が取り巻き、晴れるとガマー村で見た魔女装束に白髪の有紀が現れる。
「やばい、この格好凄いスースーするんだよ。」
「いやー、いつ見ても可愛いですなぁ。」
次元の魔女がオヤジくさい台詞を言いながら有紀の尻を触りだす。
「ちょちょっと、そういうサービスシーンとかいいからあ!」
有紀が溜まらず手を振りほどいて俺の側に逃げる。
あ、やっぱ逃げる先は俺なんだ?優越感あるな。
「分かったよ、じゃあほら魔術構築するから、キミは私の逆側に立って。魔力をこっちに渡してくれればいいから。」
「うん。」
次元の魔女が歪みの右側に、龍眼の魔女が立つ。
一見すると2人の露出大目な女の子が立ってるだけにしか見えないんだけど。
昔なら俺はそう見てただろうけど、今は違う。
「なんやこれ。」
次元の魔女と有紀からバカみたいな量の魔力が溢れて、2人の魔力が左右からお互いの手を繋ぐかのように展開され、魔力が円を描くような形で循環を始める。
「皆、この分なら30分ぐらいで完成するよ。今のうちに準備してね。」
「シュウジさん。地上との交流を考えてたのに悪いね、こんな形になって。」
「いえ、自分は別段問題ないんですけど、唐突で皆さん大丈夫です?」
「うん、シュウジ。俺達は元々質素な生活してきたから、別に嗜好品もないし。」
ヤミとラウノさんを見ると、武器・防具・着替え、それに食料と水を持ってるだけだ。
あ、ラウノさんに関しては妖樹のスモークウッドも持ってるか。
「ただ、作っておいた予備の武器も持っていくからどうしても倉庫の食料は全部持ち出せなくってね。俺達が帰ったあと、シュウジさんが貰ってくれないかな?」
「そりゃありがたいですけど、良いんですか?」
「勿論。それでお金にしてくれて構わないよ。」
ラウノさんが辺りを見る。
「こことの別れも多少はしんみりするね。・・・歪みは次元の魔女様が消しておくそうだから、瘴気ももう漏れ出すことはないから徐々にここに満ちた瘴気は消える。そしたら冒険者もここまで来ることがあるかもな。」
「あ、それなら隊長。ここに数本武器置いていきます?この世界に対する感謝・・・ってわけじゃないですが。」
ヤミの提案にラウノさんが「それはいい!」と予備の武器いくつか取り出して歩き出す。
「腐食したら困るから、これは武器庫に入れておこう。」
ヤミもヴィヴィさんもそれに続く。
30分後・・・。
俺達が見送る中、バリエンス属マルタ族の一行はヒルメルへ還って行った。
「アッサリしてるなあ。」
「そんなもんだよ。」
俺の一言に有紀がそう感想を漏らす。
白い渦を身を包み、晴れると何時もの有紀に姿を戻す。
「さて、この歪みは消して・・・っと。これで終了!お疲れ様!」
「お疲れ様・・・めちゃくちゃ疲れたよ。」
「龍眼・・・キミはまだ魔力も昔の6割ぐらいしかなかったね。やっぱりまだリハビリな感じ?」
「・・・うん。まだ何かセーブされちゃってる感じで、全力だしてるつもりだけど『あれ?こんなもんだっけ?』ってさっきも。」
「そっか!まあそれも魔女会で魔女達と触れ合ってるうちに昔の感覚を取り戻せるかもね!」
有紀はあれでまだ全力じゃなかったのか・・・。
けど、俺達が魔女会に参加する理由・・・もう一つ出来たな。
「俺達が召喚された理由」「有紀の力を取り戻す」という目的を持って、参加しよう。